第4章19 接触
フリンは展望室を離れハンガーにいた。
模擬戦第四戦が予想外の展開で終了し、いよいよ全日程の最終戦、第二部第五試合の舞台に立つため準備をしているところだ。
「——いよいよだな。ヴィー、武器の方は大丈夫か?」
「問題ありません」
「アクラはビームシールドは使うなって言ってた…。使っても腕の前だけに留めろって…。それもできるか?」
「可能です。エネルギー充填しておきます」
「ヴィー、おまえは…」
「——?何でしょうか?」
「いや、なんでもない。それじゃあ、行こうか」
——ヴィー、おまえはコカヴィエールと同型のギアを知っているか?
先ほどの試合、正体不明の男コールがフリンのギアとよく似たギアで見せた不可解な試合。誰も答えを持たないこの困惑の答えをフリンはヴィーに求めかけた。それを口にしていたらヴィーはなんと答えただろうか…。勇気が足りず、問いかけられなかった答えを想像し、フリンの胸に重い塊が落ちる。
(今は目の前の試合に集中するんだ…)
雑念は一度頭の隅に追いやり、フリンは大きく深呼吸をした。コールの事は別としても、フリンはこれから行う模擬戦にひどく緊張していた。この模擬戦は今までフリンが経験してきた中では一番安全なギア戦だ。命のやりとりもなければ実弾も使わない。それでも今まで使ってきたシールドを含むビーム兵器が使えないこと、仲間二人が模擬戦を勝利したことがプレッシャーになっていた。
両手で両頬を張り気合を入れ直すと、フリンは試合会場に向けてコカヴィエールを前に進めた。ハンガーを出て、南東門に差し掛かった時、前方に第四戦を終えて戻ってくる赤みがかった橙色の機体が見えた。二機がすれ違うとき、橙色の機体がコカヴィエールの肩に手をおいた。
「頑張ってください」
コールから接触回線で通信が入る。ただそれだけ告げると、コールは相手の反応も待たずに通り過ぎていく。コカヴィエールのコックピット内、そこには緊張と警戒で混乱しているフリンがいた。
「はぁはぁ、今のは一体…?」
あまりの緊張にフリンは呼吸を忘れていた。呟きと共に息が吐き出されると、肺は堰を切ったように新鮮な空気を求めて伸縮を繰り返す。背中を冷たい汗が伝った。
「ヴィー、行こう…」
「——」
「——?ヴィー?」
「——!了解しました」
「どうした?大丈夫か?」
「——」
ヴィーの様子がおかしい。先ほどコールに何かされたのか…?しかし、簡易な通信手段である接触回線は、任意の音声をスピーカーを通して電気信号に変換し相手側のスピーカーで音声に戻しているだけに過ぎない。その仕組み自体は、アナログ時代のレコードディスクとほとんど変わらないもので、プログラムを送る事は難しいはずだ。それもたった一言、時間にして一秒ほどの時間しか接触していなかった。もちろん、フリンはコールに対してその他の通信回線の使用を許可していない。ヴィーグリーズ村にいたときからギアワーカーに興味を持ち、色々弄ってきたフリンは、あの接触で何かできるとは考えづらいと、一応の結論はつけていた。しかし——。
「今は考えるな。目の前のことに集中しろ」
自分に言い聞かせる。ヴィーの異常はほんの一瞬のことで、今は正常に起動している。
「十番!早くしろ!」
マリーから声がかかる。フリンは頭を振り、雑念を振り払うと、模擬戦の舞台へと進んでいった。
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