第4章17 模擬戦第二部第三試合
「ほら、兄さんは心配なかっただろ!」
ヤオフーは義兄アクラの勝利を自分のことのように喜んでいた。言葉とは裏腹に、思いの外追い詰められていた現状にヤオフーも不安でいっぱいだったのだろう。だから、勝利の喜びもひとしおであった。
「さて、それじゃあ次は私の番だね。行ってくるよ」
「頑張れよ」
「相手は、あんたの一回戦の時の相手だよね」
「ああ。でも肉弾戦ではかなり速かったけど、ヤオフーほどじゃ無かったよな。ギアの方はどうなんだろうな?」
「まあ、やってみるさ」
ヤオフーが準備のため、展望席からハンガーへ降りていった。程なくして、ヤオフーのパードレと対戦相手ネイルのギアが南東門から出てきた。試合を終え、ハンガーに戻ってくるアクラたちとすれ違う。
すれ違う際、アクラのスティンガーがヤオフーのパードレの肩に腕を置く。すると接触回線により、二人の間だけの通信が交わされた。
「思い切りやれ」
「ああ、見ててよ」
短い会話が交わされ、二機はそれぞれの道を進む。近衛騎士団の両翼を担っていた騎士二人であり、義兄妹である二人。太く結ばれた絆の間には多くの言葉は必要なかった。アクラのたった一言で、ヤオフーの心は勇気で溢れ奮い立つ。
模擬戦会場にたどり着き、相手のギアと対峙する。
「あのギアは…レピーダか。同郷かもしれないね」
レピーダはヤオフーたちの故郷、南方地方ナーストレンドで多く使われている汎用ギアだ。グリトニル王国でも騎士たちの搭乗機として正式採用されていた機体である。
レピーダの基本装備は実体盾とサーベル状の実体剣。更に腰部のサイドスカートに中遠距離攻撃用のライフルを装備できるスロットが設けられている。剣は盾の裏に設置された鞘に収めるようになっている。
レピーダは、その名の意味する『剣』を現したような甲冑を着た騎士のような外装をしている。そのゴツゴツとした見た目に反し、背中のバックパックの他に肩部や、胸部、ふくらはぎなど様々な箇所にスラスターが設置されており機動力に優れた機体であった。
ヤオフーも対戦相手であるネイルも一回戦は敗退している。模擬戦の勝敗がそのまま傭兵の採用に直結するわけではないとの説明ではあった。しかしながら、展望席で見守っているフリンにもわかるほどに、二人の間を埋め尽くす後がない者たちの気迫が、二機のギアを通してなお色濃く伝わってきていた。
「それでは、第三試合、一番ネイル対八番ヤオフー…はじめ!」
マリーの開始の宣言を受け、レピーダが剣を持ち盾を構えながら、各スラスターから火を噴かせ、銃撃の的を絞らせないようにジグザグに走行し、パードレとの距離を詰めてくる。他のギアよりも線が細く、力の弱そうなパードレを見て、近距離戦闘を押し付ける算段であろうか。ネイルは一回戦でもフリンと近距離でボクシングの試合のような戦闘を繰り広げていた。恐らく、近距離戦闘が得意なのだろうとヤオフーは思案する。
「悪いけど、私も近距離戦闘は得意分野だ」
レピーダが盾を構えたままパードレに体当たりを行なう。質量の差を最大限に活かし、パードレの体勢を崩し、試合を有利に進めようという考えであろう。しかしパードレは左翼を盾のように機体前方に折り畳み、この体当たりを受け止める。——だけではない!
「レピーダは私も散々乗り回した機体だ!その特性も出力も全部体で知ってるんだよ!」
パードレのバックパックのスラスターの出力がどんどん増していく!二筋の炎が見る間に大きく力強く伸びてゆく。お互いに機体前方に構え、相手にぶつけている盾が壁となり、他の攻撃はできない。体勢を変えようにも、余計な動きをするとバランスを崩され有利を取られかねない。どちらが相手を押し切るか。二機の試合は単純な力比べとなった。
「そんなものなのかい」
「なっ…?なんでそんな細い機体にそれだけのパワーが…?」
しかし、ギアスティグマータの出力に通常のギアは及ばない。それは他のギアに比べれば線の細いパードレであっても例外ではなかった。
「いっけぇぇぇえええっっっ!!」
パードレが更に出力を上げる。徐々に後ろに押されながらも、辛うじて体勢が崩れるのは持ち堪えていたレピーダの上半身が後ろに逸れる。ネイルがこれを立て直そうとするが、この隙を見逃すほどヤオフーは甘くない。
左翼を力強く前方に押し開くっ!
体勢の崩れかけていたレピーダに既にこれに抗う力は無く、翼に押され呆気なく盾を弾かれ、尻餅をついて倒れ落ちる。
格好の悪い体育座りのような姿勢になったレピーダのコックピットにヤオフーのペイントガンの銃口が向けられた。
——パシュンッ!
「それまで!」
レピーダのコックピット部を黄色いペンキが染める。ヤオフーは第二回戦を危なげなく勝利で飾るのだった。
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