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Skies fall down  作者: 伊佐谷 希
第4章 海賊フリン!
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第4章15 女傭兵エリナ

 二番エリナは女性の傭兵だ。どんな人物かまじまじと観察していたわけではないが、たしか肩甲骨ぐらいまで伸ばした青い髪をポニーテールにし、少し垂れた大きな目が特徴的なかわいいという印象のある顔立ちの子だったとフリンは記憶している。

 エリナの駆るギアとアクラのスティンガーが模擬戦会場に入場してくる。

 エリナのギアは汎用的なもので全高は標準的な十六メートル程。色は濃いグレーだ。フリンやヤオフーのギアと同程度の高さである。腕や脚には、その見た目からは武器などは内蔵されていないように思われる。サイドスカートも補助ブースターのようなものはついてなくただの装甲のようだし、バックパックもアクラのスティンガーのようなロケットブースターのような大型ものでもなければ、ヤオフーのパードレのような翼でもなく、フリンのコカヴィエールのような刺状に大きく突き出した大出力のブースターをいくつも装備したような特徴的なところも無い。標準的な斜め下方を向いた二基のブースターを装備した燃料パックと一体化されたリュックサック状の何の変哲もないバックパックだった。しかし、このバックパックには改造を施しているようで、バックパックの両サイドにマニュピレーター(補助腕)が装備されている。また、予備の銃やバズーカその他の携行用の武装が装備できるスロットが四つ設けられており、そのすべてに訓練用のペイントガンが装備されている。アクラのギアは戦闘モードや航行モードになるとその大きい足の裏に仕込まれたブースターとバックパックでホバーし、地面を滑るように滑走することができるが、このギアはブーストのアシストこそあるものの基本的には歩くか走るかしかできなようだ。また、内蔵された武器もないため、二本の腕で実際に武器を持って行動するしかないようである。


 「多少改造されてるみたいだが、あのギアはグレイブみたいだね」


 エリナのギアを見てヤオフーが言った。耳慣れない言葉にフリンが疑問符を打つ。


 「グレイブ?」


 「あんたの故郷でもあるアストラン地方でよく使われている汎用ギアさ。乗り手を選ばない良くも悪くも平均的な性能のギアだよ」


 ——そうなのか。とフリンは思った。今まで軍に特に興味もなく、平和なヴィーグリーズ村でその日暮らしをしていたフリンには馴染みがなかったが、特別なギアではない代物のようだった。


 「それでは第二試合、二番エリナ対九番アクラ…、はじめ!」


 マリーが試合開始の宣言をする。それと同時にアクラのスティンガーがエリナのグレイブを中心に反時計回りに砂面を滑走しながら左手の仕込み機関銃を乱射した。エリナはいち早くこれに反応するとスティンガーと一定の距離を取るように自身のギアも反時計回りに走らせこれを回避する。しかし——。


 「左腕被弾!二ポイント!」


 ——躱しきれず、グレイブの左前腕部がスティンガーの放ったペイント弾で黄色に染まる。


 「きゃっ、いきなりやってくれましたね!」


 エリナのグレイブも反撃にうつる。両手に装備したペイントガンをスティンガーに向けて乱射する。しかしスティンガーはこの銃弾の嵐を、その寸胴で重そうな見た目に反して、まるでダンスでも踊るように時に素早く横滑りし、時にその身を回転させ、飛んでくる銃弾の隙間を縫いながら、ぐんぐんとグレイブとの距離を詰めていく。もちろん、回避の合間に反撃の機関銃も忘れない。

 かくして、二人の試合は途切れることなく銃弾が飛び交う激しい銃撃戦となった。アクラは銃撃を回避しながら距離を詰めようと前進し、エリナは一定の距離を保とうと後退していく。しかし、元騎士団長であるアクラはギア戦の腕前も超一流であった。二機の間はだんだん狭まっていく。

 そして二機の間が十分に近づくと、アクラは銃弾を回避する動作で回転し、スティンガーの背中が完全にグレイブに向いたところで、背面ブースターを瞬間的に思いっきり噴出した。瞬間的に熱量が増大したブースターの爆発的な燃焼と共に発生した風圧が付近の砂を半径十メートル以上の範囲に飛び散らす。その爆心地にいた二機の視界は砂によって完全に塞がれた。この目眩しに乗じて、スティンガーはグレイブの背後に回りこみ、とどめと言わんばかりに右腕の銃をその背中に向けて構える。しかし次の瞬間——。


 「…甘いです!」


 グレイブは確かにスティンガーに対して背中を向けているはずである。機体の位置も腕の向きも変わっていないはずであるが、グレイブから後方のスティンガーに向かって銃弾が発射される。


 「…っ!チィッ!!」


 スティンガーのコックピットを捉えていたこの予想外の反撃を、アクラはいち早く察知しとっさに回避する。しかしコックピットへの直撃は免れたものの避けきれず被弾してしまった。

 スティンガーの撒き上げた砂が散開し、視界が開ける。スティンガーの右腕には回避しきれなかった黄色いペイントがべったりとついていた。そして対峙するグレイブは確かにスティンガーに対して背中を向けたままであるが、その後ろ姿が先ほどまでと違う。


 「それが、おまえの切り札か」


 「ゲテモノみたいで私もあんまり好きじゃないんですけどね」


 グレイブはバックパック両脇に搭載した二本のマニュピレーターの展開し、同じくバックパックのウエポンスロットに保持してあった二本のペイントガンを装備し、それを使ってスティンガーに背中を見せたまま正確にコックピットに向かって発砲していたのだった。


 ——四本腕による死角無しの攻撃——


 これにどう対応するかアクラが考えているとエリナが言った。


 「ここまできたら隠す必要もありません。全部お見せしましょう」


 その言葉と同時、目の前のグレイブがさらに変形する。何の変哲もないただの装甲だと思われていた腰部のサイドスカートが展開し、さらに二本のマニュピレーターが展開する。新たに現れた二本の腕がバックパックに残った二丁のペイントガンを装備する。


 「死角無しの六本腕、これが私のグレイブ・クラーケの真の姿です!」

ご高覧いただきありがとうございました。

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