第4章12 模擬戦第一部終了
「六番コール!八番ヤオフー!待ったなしの一本勝負…始め!」
マリーの掛け声が終わると同時、ヤオフーの姿が消えた。次の瞬間コールの背後に出現すると首筋目掛けて手刀を叩き落とした。膝が折れ、身体が地面に崩れ落ちる。
——しかし、地面に倒れ伏していたのは、ヤオフーであった。
ヤオフーの動体視力や反射神経は先ほどのフリンとほとんど同等近くある。そして狐の亜人であるヤオフーは、そこに聖痕で強化された獣のしなやかさ、柔軟さ、強靭さが加わり、身のこなしではフリンやアクラを圧倒的に凌駕していた。先ほどの動きについても、文字通り姿が消えたような電光石火の身のこなしであった。ヤオフーの動きには審判であるマリーや控え席の志願者たち、観覧席のミズガルズ兵たちにも捉え切れていなかった。その動きのターゲットとなったコールには尚更追いきれない動きであったはずである。
「何が起きた…?」
地面に倒れ伏したヤオフーにも何が起きたのかわからない。自分の手刀は確かに無防備のコールの首筋に決まったはずなのに…。
「何が起きたか、わかりませんでしたか?」
「くっ…。舐めるなよ!」
ヤオフーは立ち上がるや否や再び姿を消す。次の瞬間またコールのすぐ背後に現れた。同じ角度で再び手刀を叩き落とす。ヤオフーの手がコールの首を捉える
。その瞬間——。
「また、それですが?」
言葉と同時、コールは振り返ると、合気道のように振り下ろされた手刀に自分の腕を絡ませ前方に投げ飛ばす。
——後ろから手刀を叩きつけたはずが、手刀を放った相手の前にたおれている——
「先ほどよりはゆっくりやりましたが、今後はわかりましたか?」
コールが爽やかな笑顔で問いかけた。
しかしこの動きを捉えられたのは、当事者のヤオフーやアクラ、審判のマリーなど一部の人間にしか見えていない。それほど高速のやりとりだった。
「くそっ…、くそぅ…!」
今度は倒れている状態からノーモーションで立ち上がり、一瞬の素早さですぐ背後に余裕で佇んでいるコールの鳩尾に右拳を放つ——。
「先ほどよりは早かったですが」
しかしそこにコールの姿はなく、その声はヤオフーの背後から聞こえてくる。いつの間に後ろに回り込んでいたのか?ヤオフーにはコールの動きがまるで見えなかった。
「あまり女性に手をあげたくないんですが…。降参してもらえないですかね?」
「さっきから、、、どれだけ人を馬鹿にする気だ!!」
これまでで一番早いスピードでヤオフーの拳や蹴りが放たれる。しかし、スピードの増加とは裏腹にヤオフーの動きは単調で正面からコールに攻撃を繰り出している。そのおびただしい量の拳戟の嵐をコールは涼しい顔で躱し、いなしている。しかもただ躱すだけではなく、拳戟の尽くにカウンターを放っていた。その二人のやりとりは先ほどのフリン対ネイル戦のやりとりを超える高速の打ち合いとなり、戦闘の天才アクラの目にも捉えきれない領域に入りつつあった。
コールの実力は明かにヤオフーを上回っている。ヤオフーが一番自信を持っているスピードの面でも越えられない壁があることをヤオフーは感じていた。
「うぐっ…。はぁはぁ」
遂に堪えられず、ヤオフーは膝をついた。あれだけのやりとりがあったのに、コールは汗の一筋もかいていない。
「ちくしょう…。ちくしょう…」
「もう、終わりにしませんか?」
膝をつき、すっかり薄汚れてしまったヤオフーを憐むような眼差しでコールが見下ろしている。
「はぁはぁっ。——っ!!」
最後の気力を振り絞りヤオフーが再度背後からの手刀攻撃を試みる。その手がコールの首筋を捉える。その瞬間——。
「なっ?」
コールがヤオフーの目の前から消えた。
「やつはっ!?うぐっ!」
消えたコールを探そうとしたその瞬間、ヤオフーの意識が刈り取られ、遂にアリーナに崩れ落ちる。何度もヤオフーが試みた背後から首筋への手刀攻撃。コールはそれとまったく同じ攻撃を行なっていた。
「それまで!六番コールの勝利!」
そして生身での模擬戦全試合が終了した。
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