第4章9 選考会開始
志願者達がアリーナに集められ選考会の開会式が開かれた。
志願者はフリンたちを含め十名。アリーナに横一列に並ばされる。それを審査するミズガルズ側の人員は数十名に及び、十名程度がアリーナに、残りはアリーナ周囲の観客席から志願者たちを見下ろしている。
はじめに連隊長と名乗る男から挨拶が行われる。
「志願者諸君!私はミズガルズ軍機甲科第一連隊長オズワルドだ。諸君は来たる日の観覧式の警備部隊を編成するため集められた。これから模擬戦を行なってもらう。その結果如何により諸君らの進退を決定する。欲しいのは強者だ!存分に力を発揮したまえ!以上!」
そう言ってオズワルドは演台を降りた。機甲科とはギアパイロットの所属する兵科である。ここに集まっている志願者たちは全員ギアパイロットだ。
ミズガルズ軍には他にも歩兵隊や戦車隊、補給隊や通信隊、衛生隊など様々な部隊が存在し、作戦に応じてそれぞれの部隊から兵を編成して作戦に応じている。今回の観覧式の警備にあたってフリンたちが志願した機甲科隊の他にもそれぞれの部隊が傭兵を募集していた。
オズワルドに代わって女性が演台に立つ。
「私は第三小隊長のマリーだ。それでは模擬戦の概要について説明する。まず諸君は二人ずつ五組に分かれこのアリーナで模擬戦を行なってもらう。武器の使用は禁止。どちらかが降参するか私が戦闘不能と判断した時点で試合終了とする。そのあとはギアによる模擬戦だ。内容については、本模擬戦の終了後に説明する。何か質問はあるか!?」
マリーは一度話を区切り、志願者たちに目を向ける。しかし、誰からも質問は上がらない。
「それでは抽選により模擬戦の組み合わせを決める」
マリーの言葉にあわせて抽選箱と組み合わせ表が用意される。表には受付順に志願者たちの番号と名前が記されており、抽選箱の中には一番から十番までの番号が振られたくじが入っていた。審査員がくじを引き、組み合わせが決定していく。ヤオフー、アクラ、フリンはそれぞれ八番、九番、十番だ。
抽選の結果は模擬戦の対戦順と組み合わせが決定した。アクラは第一試合で五番と、フリンは第四試合で一番と、ヤオフーは第五試合で六番の志願者との対戦が決まった。
「それでは第一試合の二人はこの場に残り係の者に従い試合の準備をする様に!残りの者はアリーナ脇の控え席で待機!」
抽選も終わり、いよいよ模擬戦が始まる。第一試合からいきなりアクラが出場だ。控え席へ行く前にフリンとヤオフーはアクラに声をかける。
「アクラ、いきなり試合だな」
「別に何番でも変わらん」
「良かったね。相手はガタイは良いけど、大したことなさそうじゃないか」
「そうなのか?強そうに見えるけど?俺にはよくわからないけど油断するなよ」
「ふんっ」
アクラの対戦相手は身長百九十センチメートル程だろうか。身長二百二十センチメートルあるアクラと比べてしまうと遠目には大人と子供ほどの身長差に見えてしまうが、明らかに戦闘タイプの亜人でその見た目は鬼と見間違うような体躯を持ったアクラに匹敵するほどに筋肉は鍛え上げられ、腕も足もフリンの二倍も三倍も膨れ上がっている。フリンは自分には絶対勝てる相手ではなさそうだと感じていたが、アクラと同じ騎士団長だったヤオフーが大したことないと評した相手だ。それにアクラなら忠告せずとも相手を過小評価し油断することなどないだろう。
「兄さんしっかりね。フリン行くよ」
ヤオフーに引っ張られフリンは控え席に移動する。
マリーが審判となり、対戦者の名前が宣言される。
「五番セドウィグ!九番アクラ!待ったなしの一本勝負…始め!」
マリーの開始の宣言とほぼ同時、セドウィグが飛び出した。右手を大きく振りかぶり、高さのあわないアクラの顔面に下から突き上げるように真っ直ぐに拳を振り上げる。その拳がアクラの左頬を捉える。その瞬間——。
「ふんっ」
アクラは首の動き一つでこれを難なく躱す。セドウィグは右手をすぐ引き戻し。その反動で左拳を同様にアクラの顔面に向けて叩きつけ様とするが、アクラはこれに右肩をあわせ軽くいなしてしまう。セドウィグは半歩下がり、頭部への攻撃をやめ胴体へ向けて左右の拳を連打する。しかしアクラは躱すまでもないというように顔色一つ変えずに筋肉の鎧でこの拳を尽く跳ね返していた。
拳での攻撃に効果がないと察したセドウィグはさらに一歩距離を開けアクラの脇腹目がけて右脚で蹴りに行く。その鋭い蹴りが炸裂する瞬間——。
「くだらん」
そう言うなり、左手一本でセドウィグの右脚を掴むと、そのまま左手を後ろに払うようにしてセドウィグを投げ捨てる。アクラはそんなに力を込めている風でもないのにセドウィグは二メートル程飛ばされ地面を転がった。
「ぐぅ、野郎…」
悪態をつきながら、左膝をたて立ち上がろうとするセドウィグの顔面——。その目の前にアクラの右腕があった。セドウィグはアクラの放つ闘気・迫力に圧倒され、アクラの腕が本来よりも数倍大きく見えていた。アクラの右拳はセドウィグにぶつかる直前で寸止めされていたが、その威力がセドウィグには容易に想像できた。寸止めされた右拳に身体が萎縮し、これ以上動けない。
「まだ続けるか?」
「——まいった」
「それまで!九番アクラの勝利!」
マリーから軍配が上がる。結局アクラは圧倒的な力で危なげなく勝利した。第一試合を終えた二人が控え席へ戻ってくる。控え席まで行く途中、セドウィグはアクラに話しかけた。
「おまえ相当の手練れだよな。どこの出身なんだ。おまえみたいなのが無名だなんて信じられない」
「ふんっ。俺には故郷なんてない。買いかぶりすぎだ」
アクラが控え席に戻ってきた。
「さすがだね、兄さん」
「圧倒的すぎるだろ…。おまえが模擬戦の相手じゃなくて本当に良かった」
「フリン、次はおまえの番だ」
「俺にはあんな闘い方は出来ねぇぞ」
「俺と同じように闘う必要はない。相手の動きをよく見ろ。おまえなら大丈夫だ」
「何が大丈夫なんだか…」
「ふんっ。やればわかるさ」
アリーナでは第二試合が始まっている。これまで村には同年代がユニしかいなかったため、殴りあいの喧嘩自体フリンにはほとんど経験がなかった。緊張でフリンの背中を冷たい汗が伝った。
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