第4章4 余計なお世話
「ねぇ、フリン。今の声って…」
言いながら、ユニは顔を上げあたりを見回そうとする。それにフリンが——。
「ユニ、やめろ。馬鹿二人に気付かれたら、俺たちまで同類と思われる」
そう言われ、ユニは慌てて上げかけた顔を、上げる前以上にテーブルに伏せる。しかし、時すでに遅く…。
「あ!ユニちゃーん!ここにいたんだね!フリンも一緒かぁ」
と、ハクに気付かれ、二人とも大声で名前を呼ばれてしまう。途端、あまりの恥ずかしさに、フリンとユニはそれまでの広場の喧騒が消え広場の人たちの注目が自分たちに集まったような錯覚に陥る。いや、実際にこのやりとりに気付いた二人の周辺の人々からは注目を浴びていただろう。ユニが呆れ、目も合わせず右肘をテーブルにつき、右手で顔を覆いながら顔を伏せ、フリンは隠す気もなく怒りの表情で二人を睨みつけるのも気にすることなく、ハクは右手を上げ、顔の前でその手を振りながらこちらに近づいてくる。その一歩後ろからリーもニヤニヤした顔つきで近寄ってくる。二人とも顔が赤い…。
「ここあいてるよな?」
ハクが聞いた。しかし、答えを待たずに、フリンとユニが座っていた四人がけの丸テーブルにリーとハクも着席する。
「おまえら、こんな明るいうちからもう飲んでるのか?」
フリンが引きつりながら問いかける。時刻は昼下がりのティーブレイクどきだ。まだまだ日は高い。フリンの問いかけにハクが答える。
「こんなもん飲んだうちに入るかよ。なあ、ユニちゃん。確かめてみてよ」
そう言ってハクはユニの方に身を乗り出し、ユニの顔の前で息をハァーっと吐きかける。
「ちょっ…!酒臭っ!!やめてよっ!」
ユニが心底嫌そうな顔で左手で鼻をつまみ、右手で乱暴にハクの左肩を押して席に戻させる。ハクはユニの反応を見てケタケタ笑っていた。
「で、二人は今まで何してたんだ?」
フリンが聞く。ハクはもうフリンの話は聞いておらず、ユニにちょっかいを出して遊んでいる。この質問にはリーが答えた。
「俺ら最初におまえらの宿を押さえたあと、軽く腹ごしらえしてから、カジノに行ってたんだよ。軍資金もたんまりあったからな」
「軍資金もたんまりって…。そりゃヤオフーから預かった俺らの街での滞在費だろ!?なにふざけたこと言ってんだ!?」
リーから飛び出したまさかの発言にフリンは声が荒くなる。それを、リーは落ち着けと制したうえで話を続ける。
「最初に言ったろ。おまえら二人分の宿代三日分はきっちり前払いしてあるよ。残りの俺とハクの分を元手に稼ぎに行ったんだよ。そしたらルーレットでフィーバーしちまってよ。大稼ぎさ。同じ台の奴らにも酒奢ってカジノを出てきて、そのあと二人でこうして気持ちよく風にあたって酔いを覚ましてたんだよ。夜のために体力残しとかねぇといけねぇしな」
「この後もどこか行くのか?」
「おまえにはユニちゃんがいるだろ?俺らもたまには溜まったもん抜いとかないとな。ほれ、宿の鍵渡しとくぜ」
そう言ってリーは内胸のポケットから鍵を一つ取り出しフリンに渡した。リーが続けて話す。
「宿の場所はこの広間から西の通り…。市場通りから向かって左側の通りだな。ここから四つ目の角を曲がった通りの先にある宿だ。その通りには宿は一つしかないからすぐにわかるぜ」
「鍵は一つしかないのか?」
「ああ、俺らは別のとこに泊まってくるからな」
「いや、そういう意味じゃなくて…」
「あん?…あ!もしかして、おまえら」
リーが何かを察したようにニヤニヤしながらフリンに顔を寄せユニに聞こえないように小さい声で話しかける。
「なんだよ。てっきりそういう関係だと思ってたぜ。だったらここで決めちまえよ」
「俺とユニは兄妹みたいなもんだ!そんな目で見たことねぇよ」
フリンも小声で反論する。しかし——。
「嬢ちゃん、かなりの上玉だぜ。おまえがいらねぇなら俺がもらっちまうが…」
「てめえ、なに言ってやがる」
リーの軽口にフリンが噛みつくように答えかけたところで、リーはパッと身を引き、降参と言うように両手を上げて応える。
「冗談だよ。そう熱くなるなって。ま、そう言うわけだから、あとよろしくな。ハク、そろそろ行くぞ」
リーはそう言って席を立った。リーに従ってハクもユニとのじゃれあいをやめて席を立つ。
「じゃ、俺らまだ寄るところあるから。嬢ちゃん、またな」
リーがユニに声をかけて先を行く。ユニは、はーいと返事して腕を振って見送る。そのあとでハクが同様にユニに声をかけると、ユニは両手の人差し指で唇を横に伸ばし、あっかんべーをして応えた。
二人が見えなくなったところで、ユニが言う。
「まったく…、信じらんない。ハクさんって酒癖悪いのね…。フリンはリーさんとなに話してたの?」
「うん?あぁ、リー達、宿取ってくれてるらしいぞ。二人はまだ寄るところあるからって、鍵くれて、宿の場所教えてくれたよ」
フリンは部屋が一つしか取られてないことには触れられずに返答した。このあと何て説明すればいいんだよと、心の中でリーに恨み言を言った。ユニが言う。
「そっか!私、まだお店いろいろ見てみたいから宿に行くのはあとでもいいかな?フリンはどうする?」
「俺も付き合うよ」
フリンがそう応え、二人はテーブルを立った。いつのまにか日は傾き、あたりは夕焼けに染まっている。いつの間にか広場の大道芸士たちも少なくなり、屋台も夜のメニューが並びだしていた。夜の賑わいに移行しつつある市場通りを見て、ユニの目は爛々と輝きを増していくのだった。
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