第3章20 アクラとヤオフー3
それからのことはあまり覚えていない。
初めて見る空を飛ぶギアたち。さらには圧倒的物量の差になす術なく騎士たちの駆るギアは瓦礫へと変えられていった。
隊長を任せられるまでに技量を高めたヤオフーさえも今日初めて乗ったパードレを扱いきれず、やられるのも時間の問題だった。
—せめて国民の避難が終わるまでの時間だけは稼ぐ。
アクラは玉砕覚悟でスティンガーの背中に装備されたロケットブースターを最大出力で噴射し、着地のことも考えず推進剤を放出し続け、機体を上空にホバリングさせ、スティンガーの両腕に装備された機関銃、バックパックに装備された八連装ミサイルなどすべての火力を余すことなく放出し続けた。
そして…
気づいた時には潜砂艦内医務室のベッドの上だった。傍らにヤオフーがいた。
ヤオフーはアクラが目覚めたのを見ると、すぐに医者に報せに医務室をあとにする。程なくして医者と共に部屋に戻り、アクラの検診をすると、「大事はない、しばらく安静にするように」そう言い残して医者はその場をあとにした。
残ったヤオフーは鎮痛な面持ちで、その後の顛末をアクラに告げた。
まずアクラの捨て身の突撃で王宮周辺のギアたちを退けることには成功していた。しかし、推進剤を使い切り自由落下した機体は受け身をとることもできずに墜落し、そこでアクラは意識を絶ってしまったようだった。
数万人にも上った国民たちも避難できたのは一握りしかいない。その人たちはほとぼりが醒めたあと、ある者は故郷へ、ある者は知人を頼り潜砂艦を降りていったとの事だった。
そして最後まで避難に尽力したダキニは自身の身の危険も顧みず、崩れ始める王宮で最後まで国民を優先して避難させ逃げ遅れてしまった。また、娘のコビも最初の攻撃の際に、飛んできた瓦礫に巻き込まれて亡くなってしまっていた。
ダキニのあの放送。最愛の娘を失い、それでも王家の人間として国民のために尽力した強き人。あの時アクラのことを思いやり娘の死を自分だけで抱え込んだ優しい人。ダキニは誰からも慕われた女性だった。
あの事件から、アクラが目覚めるまでに、既に一週間が経過していた。
アクラは妻の誇りに、想いに、優しさに、そしてそれに報いることの出来なかった自分の無力さに打ちひしがれ生きる気力をなくしていた。
大切にしていた家族の写真入りのペンダントも、その時のアクラには呪いのように重く感じられた。錆びついて切れ味の悪くなったナイフで心の傷を抉り、弄ばれるような苦痛を感じるため、アクラはペンダントをゴミ箱に捨ててしまった。
ある日、たまったゴミを回収していたヤオフーがそれに気づき、アクラを問い詰めたが反応を得られなかったため、諦めて自分が預かるとアクラに告げ、その場をあとにしていた。
アクラが気を失っている間、ヤオフーは国を襲った者達を調べるため、ナーストレンド地方の方々を周り他国の有識者たちから話を聞こうとした。
しかし彼らは王家の人間であり、これまで確かに交流があったはずのヤオフーの事を忘れてしまっていた。いや、それどころか彼らの反応は初対面の人間に向けられるそれであった。
ヤオフーのことだけではない。グリトニル王国の存在を知らないという者まで現れた。
なにが起きているのかわからない。しかしこれはただ事ではない。どうしてこのような事態になったのか?その手がかりはあの日彼らを襲った正体不明の部隊しかなかった。
国を追われ、人々の記憶からも消え去った彼らは、ヤオフーを筆頭として、あの日自分たちを襲った者たちを調べ、来たる日のために戦力を整えるため、潜砂艦を旗艦とし盗賊となっていくのだった。
ご高覧いただきありがとうございました。
ブックマーク、評価よろしくお願いします。




