第3章19 アクラとヤオフー2
ヤオフーが近衛騎士団に入団し、一年が経過した。
当初は親の七光とも言われていたヤオフーだったが、持ち前のセンスでメキメキと頭角を現し、入団してから三ヶ月を過ぎた頃には他の騎士たちからも一目を置かれる存在となっていた。
アクラとは違う隊の所属であったが、勤めを終えれば、王宮でアクラから戦術指南を受ける日々が続き、才能に驕ることなく努力を続けてきた。
また、アクラが隊長になってからというもの騎士たちの指揮は上がり練度は大幅に増していった。
グリトニル王国が自ら打って出る事はなかったものの、国王に対するダキニからの提案もあり、遠征を繰り返し、戦乱に巻き込まれ壊滅状態にあった村々に救いの手を差し伸べ自国として迎え入れ、その領土を拡大していった。
その行動は一重に平和を願ったものではあったが、これをよく思わない他陣営からの攻撃も幾度となくあった。その度アクラたちはこれを退け、グリトニル王国の地盤を強固なものへとしていった。
そしてそれは戦乱の続くナーストレンドに平和の兆しを示し、疲れ切った人々に希望を与える光となりつつあった。
ヤオフーが入団してから一年。今日は近衛騎士団の入団式兼拝命式及び叙勲式の日だ。
昨年の今日、ヤオフーはこの式を持って、騎士団に入団した。そして一年の月日が過ぎ、兵としては年老い、パードレから降りる現隊長に変わり、その実績を積み重ね、国民や騎士内外から厚い信頼を得たヤオフーがその後継者となる。今日はそんな晴れやかな日だった。
王国の誰もが集まり、王女であり近衛騎士のトップに上り詰めた若き才女をこの目に見ようと王宮広場に集まった。
しかし、その日。そこでは惨劇が引き起こされるのであった。
式典が始まり、現パードレ隊隊長はパードレのパイロット登録を解除し、その任を終えた。そして新たにヤオフーがその任を拝命した。あとは国民にそれを示すため、機体を起動し、もう一機の隊長機であるスティンガーと結束の儀を交わし式典は終了するはずだった。
しかし、拝命を終え、アクラとヤオフーがそのデモンストレーションのため機体に乗り込んだ時、広場に上空から一筋の光が舞い降りた。
次の瞬間、轟音とともに激しい衝撃が周囲を襲う。
爆発が収まり、視界を覆っていた粉塵が拡散し周囲の状況が見えてくると、そこに広がっていた光景にアクラとヤオフーは愕然とした。
あんなにたくさんの王族や文官、騎士、国民たちで賑わっていた広場は火の海と化し、瓦礫が広がるだけで、つい先程まで人だったものたちは一塊の塵となり爆風とともに飛散し、その姿をこの世から消してしまっていた。
王宮内にいた者、広場周辺の警戒のためたまたまギアに乗っていた者たちなど数十名はこの攻撃に巻き込まれずたまたま難を逃れたものの、ショックに呆然と立ち尽くすばかりだった。
そんな彼らの頭上から大量のギアが舞い降りる。それらのギアは王宮脇に設置された騎士団基地や王国各所の基地を上空から攻め落とす。
広場への先制攻撃を受け、一度にほぼ全ての権力者や近衛騎士たちを亡くしたグリトニル王国の指揮系統は壊滅させられ、これに抗う事は叶わず、各地の基地も壊滅させられていく。
アクラは無線を開き各基地の状況を確認していたが、どこも混乱し要領を得ない。また、国土が広大に拡大していた事もあり、突如として国全体を襲った厄災に対処する術は最早残されていなかった。
アクラが自分の無力に打ちひしがれていると、非常放送が鳴り響いた。
「非常事態が発生しています。住民は騎士たちの指示に従い、王宮に避難してください。繰り返します。住民は騎士たちの指示に従い、王宮に避難してください」
その放送から流れてきた声はアクラのよく知る人物のものだった。アクラは通信のチャンネルを王宮の司令室にあわせる。
「今の放送は?」
「あなた!生きていて良かった」
それはアクラの妻ダキニが独断で流したものだった。ダキニが考えをアクラに伝える。
「時間がありません。なんでこんなことが起きているのかを考えている余裕も…。
あの光でお父様も大臣たちも、多くの者たちが亡くなってしまい、もうこの国はきっと持ちません。
それでも王家として、国民を守る義務は果たさなければなりません。二機のスティグマータと共に王宮が有事のために保管していた潜砂艦を今こそ使う時です。
あなたは残った騎士や兵たちをまとめ、国民を王宮に避難させてください。
国を放棄し、潜砂艦でここから脱出します」
ダキニは早口で語った。
今は余計なことを考えている余裕はない。アクラもそれには同意するほかなかった。
すぐさま騎士や兵たちに支持する。残ったギアはスティグマータであるスティンガーとパードレ、それと式典の警護にあたっていて、基地への先制攻撃を免れた数機しかない。
戦力として足りていないのは明白だったが、アクラはそれらのギアをまとめ、上空から未だ国を蹂躙し続けるギアたちからの国民を守るために戦うこととした。
そして、ギアを持たぬ騎士や兵たちには、ダキニと連絡を取り、国民の避難誘導を指示してすぐさま行動に移すのだった。
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