第3章18 アクラとヤオフー
物語の舞台は、三年前の南のナーストレンド地方グリトニル王国に遡る。
かつてアクラとヤオフーの暮らしていた場所だ。
かつて亜人と人間の間には、より数の多い人間の側から亜人へ対する差別と隷属の歴史があった。
ナーストレンド地方は、この世界で多くの亜人が暮らす地方である。
今日でこそ中央都市ミズガルズなど都市化の進んだ一部の場所では、その歴史を克服し人間と亜人が共存して歩み始めているが、ナーストレンドは未だに差別・隷属に対する解放を求める亜人と人間の戦乱の絶えない土地であった。
ナーストレンドの首都ギムレーでも人間のための政治をしており、亜人たちは自らの人権や社会保障を勝ち取るため戦いを続けている。
そんなナーストレンドにおいて、グリトニル王国は亜人と人間がお互いを尊重し共存する珍しい国家だった。そして中立の立場を貫き、自衛のための戦いはあったものの、地方内の両者間の戦乱には関わらず、亜人、人間を問わず亡命者を受け入れ、和平を説いて、ナーストレンドの平和への道を模索していた。
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グリトニル王国王宮——
王宮の一室、狐の耳を持つ二人の亜人の女が話している。
「ヤオフー、あなたも遂に近衛騎士となるのね。よくお父様が許したものだわ」
「そんなこと言って、姉さんだって散々父さんを困らせてたじゃない。それにしても、あのアクラ義兄さんが次期国王だなんて未だに信じられないよ」
「あら?明日からあなたの上司になるんだから、あの人にそんな口聞いちゃダメよ?」
「わかってるよ。でも、そっちの準備は進んでるの?」
「まだあの人は騎士として必要だから。早くそんなものがなくても良い世界が来てくれたら良いんだけどね」
女は、最後の言葉をその腕に抱いた自身の赤ん坊に向けて優しくあやすような声音で話しかけた。この子が大きくなる頃には…。そう、願いを込めるように。
赤ん坊を抱いた女の名はダキニ。ヤオフーの姉であり、アクラの妻である。そしてその赤ん坊の名はコビ。もうすぐ生後半年を迎える母親似の可愛い女の子だ。今は母親の腕の中でぐっすり眠っている。
ヤオフーは明日近衛騎士団に入団する。近衛騎士とは、剣や格闘などの体技やギアパイロットとしての力量だけでなく、様々な分野への知見に優れたトップクラスの兵で組織されるグリトニル王国最高峰の組織である。その任務は下位の兵を統率した王国内の治安維持や、国内外からの脅威に対する防衛、文官とともに政治への参画など王国を支える様々な分野に及ぶ。
騎士団は二体の聖痕機パイロットを隊長とした二部隊に分かれている。これらのギアはグリトニル王国建国の際に発掘されたもので、時には外敵から身を守り、時には土地の改良や土木工事の補助など文字通り建国の礎となった機体でもある。代々近衛騎士団の隊長たちに引き継がれてきた由緒ある機体だ。
一機は通常のギアよりも一回りか二回り大きく、その手足は太く、見るものを圧倒する頑強さを備えた赤い無骨な機体だった。その名をスティンガーという。
一機は白を基調とし、しなやかな細い手足を持った女性を思わせるフォルムをし、その背中には広げれば本体よりも大きくなる翼を備えた天使のような美しい機体だった。その名をパードレといった。
アクラは近衛騎士団スティンガー隊の隊長としてスティンガーを乗機としていた。また、ヤオフーの姉であり、現グリトニル王国国王の娘であるダキニと結婚し一児の子をもうけたところである。
ダキニとヤオフーの姉妹しかいない現国王はダキニの夫を次期国王と考え、誠実で知見の広い誰からも好かれるような男をその相手として探していたが、その国王の考えとは裏腹にダキニが選んだのは、騎士団に入りたてだった頃の物静かで、その場にいるだけで相手を圧迫するような迫力を持つアクラだった。
その当時国王は、アクラが近衛騎士団に入団した直後だったため、普通の人以上の素養がある事は理解していたが、その他人を寄せ付けないような雰囲気に、王としての資質を疑い二人の結婚を認めることができなかった。
しかし時が経ち、アクラは力だけではなく、実は仲間思いで、弱気を助け強気を挫くその姿に一目を置かれ、遂には隊長としてスティグマータを任される程になった。
その頃には国王もアクラのことを認め、二人の結婚を許したのだった。
そして明日、ヤオフーが父親の反対を押し切り近衛騎士団に入団する。
それは国民思いで姉思いのヤオフーが、悲願でもあった。
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