第3章1 出発
「それじゃ出発しよう!私もコックピットに乗って大丈夫だよね?」
ユニが尋ねる。
コカヴィエールを持って行かなきゃいけないため、フリンはコックピットに乗って操縦することになる。そうなるとユニは歩いてギアのスピードについてくるわけにもいかないので、必然的にギアのコックピットに一緒に乗るか、手のひらに乗るかとなる。
今は天気こそ穏やかではあるが、ギアの手のひらに乗って、ずっと移動し続けるのは現実的には厳しいであろう。
ギアの移動によって起こる振動や空気抵抗などを考えれば、それらに対応がなされているコックピットに乗れたほうが良いに決まっている。
しかし、今まで誰かを乗せるような考えはなかったので、中がどのくらい広いのか気にしたことがなかった。二人乗りができるか確かめるため、とりあえずコックピットを開いてみる。
「きゃっ!何これ!?血!?」
ユニが声をあげた。開かれたコックピットの中央に設けられている操縦席、その向かって左側。席に座った時にちょうど右の太腿があたる位置に赤黒い染みができている。その光景を見て、フリンは自分の身体のことを今更ながら思い出した。慌てて右足を確認する。
「傷がない…?昨日確かに銃で撃たれたはずなのに」
出血が止まっているというだけではない。傷そのものがなくなってしまっていた。
昨夜は確かに痛みを気にしていられないほど色々あったし、いつのまにかその痛みすら感じなくなっていたから忘れてしまっていたが、これは明らかにおかしい。
昨日、コカヴィエールに乗った時には確かに怪我をしていたはずだし、その証拠に操縦席に血の跡も残っている。
——俺の身体、どうかしちゃったのか?
「フリン、大丈夫?どこか怪我してるの?」
「いや、なんでもない。大丈夫だよ」
フリンは咄嗟に嘘をついていた。自分でも何が起きてるのかわからないし、今は、これ以上ユニに心配をかけたくなかった。
「とりあえずどこかで水場を見つけたら、そこでシートは掃除するよ。ユニもシートの後ろに乗れそうだな。どうする?」
「うん。そうする」
「よしっ!んじゃあ、行くか」
ユニから順番にコックピットに乗り込む。フリンが操縦席に座ると相変わらず後頭部にケーブルが接続される。
「きゃっ!?え!!??」
ユニがびっくりして言葉を失っている。当のフリンはケーブルが接続される際の痛みにも慣れつつあった。
「ああ、これか?痛みもないし、多分大丈夫だ」
「え?あ、そうなの?」
フリンはコカヴィエールを動かし村を離れていった。街道は避け、ブーストジャンプは使わず、背面や腰部、脚部のスラスターを使い、地面を滑るように移動する。
「これからどこへ行くの?」
ユニが話しかける。フリンは振り向きはせず、声だけで返事する。
「とりあえず中央か南に向かおうと思ってる。中央は今、ギアとパイロットを求めてるって噂だし、中央で仕事が見つからなくても、すぐ南との境に闘技場があっただろ?こいつがあるから、ギアに理解のあるところじゃないとまずいよな」
「なら中央がいい!私、村から出たことないから、都会ってずっと憧れてたの!」
最初から行くあてなどないのだ。
ユニがそうしたいならそれで良いだろうと、フリンは思った。
ヴィーグリーズから中央都市ミズガルズまでは、村のすぐ東にある森を抜けたあと、砂漠を抜けることになる。
フリンは、砂漠には盗賊がいると聞いた事があった。街道を避けるため砂漠ではそいつらに出会うリスクが高まるだろうが、しかし堂々街道を通ってアストラン軍に出会すなどのトラブルはごめんだったし、コカヴィエールなら3日もあればミズガルズまで辿り着けるだろう。盗賊に出会わずにすめばそれに越したことはないが、出会ってもコカヴィエールなら何とかできると判断した。
「よし!水や食料はあるから中央まではこのまま行けそうだな。飛ばすからしっかり捕まってろよ」
そうして二人は中央都市ミズガルズを目指して進みはじめた。
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