第5章31 バルムンク12
「こりゃ、凄いな」
穴を通り抜けてフリンが言った。アクラは身を屈めなければ通り抜けられなかった。
「兄さん、なんとかなりそうかい?」
ヤオフーが階段を塞いだ菌の壁を顎で示してアクラに言った。
「道はここしかないんだ。なんとかするしかないだろ」
そう言ってアクラは菌に触れる位置まで階段を登る。フリン、ヤオフーもその後について行った。手を上に伸ばし、アクラは隆起した菌の一部を掴み腕を下に振り下ろす。キノコ状に隆起した菌はごそっと剥がれ落ち、当たりに胞子が舞った。アクラは胞子を気にせず更に菌を剥ぎ取り、舞った胞子を頭から被ったフリンは髪の毛や服についた胞子を払い落とす。二回にわたり菌の壁を剥ぎ取ったところでアクラが手を止めて、視線は上に向けたまま言った。
「手で崩せないことはないがそれなりに力仕事だな。何か道具はないか?」
「そうだね。探してこようか」
アクラが言い、ヤオフーが答えた。道具を探すのは二人に任せて再びアクラは上に手を伸ばす。と、その時————
「きゃあああぁぁぁあああ!!」
穴の向こうから悲鳴が聞こえてきた。外にはユニとボウの二人きりである。
「——ユニっ!?」
フリンは慌てて穴を潜る。穴を通り抜けた先でフリンが見たものとは————
立っていられないほどの頭痛に襲われていたはずのユニが自分の足で力強く立っている。しかし、その顔には表情がなく、普段の茶色い瞳は今は黄色い光を放っていた。そのユニの前でナニカが跪いている。
「エフタル、あなたずっとここにいたのね——」
そう言いながらユニはまるで飼い犬にそうするように右手でナニカの頭を撫でながら言った。ナニカはユニを攻撃したり抵抗することもなく気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らしてユニの手を受け入れていた。階段室の菌の入り口の前でフリンが訳もわからず呆然とその様子を見ていた。いや、フリンだけではない。ボウは力が抜け床に座り込みながら恐怖に満ちた表情でその様子を目を離さず見ている。フリンに続いて穴を抜けて出てきたヤオフーとアクラも驚愕しざわめいていた。
「——私たちをブリッジへ連れていって」
ユニにそう言われると、エフタルと呼ばれたナニカはユニと歩調をあわせて階段室を覆う菌の中に入っていく。穴の前にいたフリンたちは臨戦体制に入ったが、ナニカは三人には目もくれず穴の中に入っていった。フリンたちが穴の中に入っていくと、ユニが見ている前でナニカが階段を塞いだ菌の壁を破壊していた。
「エフタル、ありがとう。もうお行きなさい」
壁を破壊し終えたナニカの頭をユニが撫でる。ナニカは再び嬉しそうに喉を鳴らし穴を通って姿を消した。フリンたちは呆気に取られ、訳もわからずユニのことを見ていた。ナニカと入れ違いにボウが穴の中に入ってきた。フリンがボウに話しかける。
「————何があったんだ?」
「——私もよくわかりません。ユニさんは頭痛が本当に酷かったようでほとんど気を失ったように眠っていたんです。そこにナニカが現れて、私とユニさんしかいないところに向かってきたんで、もうダメだと思ったんです。そしたら、ユニさんが急に起き上がって、まるで別人が乗り移ったみたいにナニカに話しかけて……。それからは見たとおりです」
「——ユニ」
フリンは心配そうにユニのことを見つめている。そんなフリンの視線に気づきユニは悲しそうな表情を浮かべたが、それもほんの一瞬のことですぐに顔から表情が落ちる。
「みなさん、ついてきてください」
ユニが四人に向かって言い、階段を登っていった。
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