第5章30 バルムンク11
五人はナニカとの遭遇を警戒しながら通路を先へ進んだ。五人を道案内するようにナニカの血痕が、五人の目指す階段に向かってまっすぐ伸びている。しかし五人はナニカと再び激突することなく階段までたどり着いた。血痕は上階へ続いている——
「————っ!」
ユニが苦しそうに頭を押さえている。フリンが心配して大丈夫かと尋ねると、頭が痛いと答えた——
階段を登り切った頃、ユニは立っていられないほど頭痛が酷くなり、五人は一度階段の前で小休憩した。
「ユニ、大丈夫か?」
フリンが再び心配そうに尋ねる。ユニはごめんと言って、壁を背もたれにした頭を押さえたまま座り込んでしまう。ボウが渡した薬を飲み、ようやく一息ついた。
「みんなありがとう。もう大丈夫……」
そう言ったユニの顔はまだ青ざめたままだった。ヤオフーはユニの様子を一瞥すると、行くよと言った——
第二区画第一階層に着いた五人は、ブリッジへ行ける階段を目指して再び歩き始めた。頭痛を訴えているユニの足取りはふらつき、フリンの支えを受けやっと歩けていた。ユニの頭痛はブリッジが近くにつれ段々強くなっていた——
「————あそこですね」
タブレットを見ながらボウが言った。ボウが示した先は第二階層でナニカと会敵した場所の丁度真上、ブリッジへ続く階段のある部屋だった。しかしそこは、扉の代わり幾層にも重なり合った分厚い菌の壁に覆われ、人がようやく一人通り抜けられるほどの穴が空いている。階段室に繁殖した菌の根は深く、穴の中は暗くて、先を見ることはできなかった。
「————巣、かね?」
「——かもしれないです。あそこだけ菌が一際濃く繁殖してますもんね」
「もしかしたら巣の真下で私らが騒いでいたから、奴は様子を見に降りてきたのかもしれないね」
ヤオフーとボウが目の前の空間について話し合う。他の三人も二人の見解に異論はなかった。
「ユニはここにいな。ボウ、頼んだよ」
ヤオフーが言った。ユニは頭痛が最高潮に達し、再び立っていられなくなった。座った姿勢でいることも辛く、床に寝そべってしまっている。先ほど飲んだ薬はすでに効かなくなっているようだった。ボウはヤオフーの言葉に頷き、気をつけてと三人を送り出した————
——三人は階段室の前、菌に覆い尽くされた狭い穴の前に立っている。
「最初に私が行くよ。この中じゃ獣型の亜人の私が一番索敵能力が高くて素早いからね————」
ヤオウーが言った。しかし、
「お前にもしものことがあったらどうする。船長はお前だ。俺が最初に入る」
とアクラがヤオフーを止めて自分が最初に入ろうとする。フリンは何も言わず二人のやりとりを見守っていた。
「兄さんじゃ、私ほど鼻も耳もきかないだろ?身体が大きすぎてこの狭い通路内で襲われたら逃げれないじゃないか。私にまかせてよ」
と、アクラが静止するために伸ばした腕を上から両手で押し下げて、そのまま穴の中に入っていった——
——穴の中は、狭い通路が五メートルほど続き、その奥に広い空間が現れた。そこは周囲隙間なく菌や菌糸に覆われ大きな繭玉の中にいるようであり、ナニカの巣であることは間違いないとヤオフーは思った。中には隠れられるような隙間などはなく入り口から全て見渡せる。ナニカの姿がなかったためヤオフーは警戒は怠らずに中の様子を調べた——
ナニカなりに寝床やゴミ捨て場を決めてあるのかヤオフーの立つ入り口の脇にはネズミや蝙蝠、蛇と思われる動物の骨が散らかっている。奥にはベッドのような菌糸で鳥の巣状に編み込まれたものがある。空間の中には階段もしっかりあったが、床と天井のラインに沿って菌の壁に塞がれ上にも下にも行けなくなっていた。
「ったく、これじゃあ上に行けないじゃないか。ブリッジに上がるにはこの道しかないんだ。あの菌をどかすしかないね」
ヤオフーは後頭部をぼりぼり掻きながらボソッと呟く。そして、
「兄さん!フリン!ナニカはいない!中に入ってきてくれ!」
と外に向かって大声で呼びかけた。
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