第5章24 バルムンク5
五人は第二区画のエレベーター前まで来ていた。バルムンクの断面図によれば、このエレベーターに乗れば一気にブリッジまで行けたはずだが——。
「これじゃ、エレベーターはダメですね」
ボウが言った。エレベーターは五人がいる最下層に停車していたが、扉は開きっぱなしでエレベーターの内側から扉を跨いでエレベーター前の広場までキノコのような奇妙な菌類が壁一面に蔓延っていた。エレベーターは菌の根っこで固定されボタンを押してもびくともせず、気色悪く伸びた菌糸からは時折胞子が舞っている。フリンもユニもこんなものは山で見かけた事がないと言う。
——ん?
ふと、ヤオフーが何かに気づいた。頭の上についた狐のような三角の大きな耳をピンッとさせ、あたりを見回す。その様子に気づきユニが言った。
「ヤオフーさん、どうかしたの?」
「ああ、何か聞こえた気がしたんだが……」
「そうか?何にも聞こえないけど?」
フリンは耳に手を当て周囲を探ってみるが何も聞こえない。しかしヤオフーは——。
「いや、確かに何か動いてる」
——と警戒をとかない。アクラが、ヤオフーについて獣型の亜人で五感は俺たちの何倍もある。信用していい。と補足する。
「フリン!危ない!!」
ヤオフーがフリンに飛びかかる。フリンは前から飛びかかってきたヤオフーと一緒に後ろに倒れ込んだ。倒れていくフリンの目の前を黒い影が横切っていった。
「フリン、大丈夫!?」
重なり合って倒れた二人にユニが近づく。大丈夫だと返事を返すと、不倫はすぐさま横切った影を目で探した。フリンの頭目掛けて飛びかかってきた影は、フリンの頭を捉えられなかったが、着地した先で新たな獲物に襲いかかっていた。
「何だ……。こいつ……」
そこには二匹のネズミがいた。襲われている方の一匹は普通のネズミだった。しかし襲っている方のネズミは身体中からキノコのようなものが生えている。頭も身体もキノコ状に変形し、もはや目も鼻もなく、音だけに反応しているように、当初襲いかかったフリンには目もくれず、目の前のネズミに襲いかかり食い散らかしている。その姿は悍ましく、そのネズミが既に自我を失っているのは誰の目からも明らかだった。
「ふんっ」
キノコに覆われたネズミをアクラが踏み潰す。ネズミは金属がひしゃげたような耳障りな断末魔をあげると絶命した。
「これ、エレベーターやそこら中にあるこの菌が寄生してるんでしょうか。ネズミの意思に関係なく操られてるようでしたけど」
「さあな。だが、この周りのキノコみたいなのには触らない方がいい。できる限り胞子も吸わないほうがよさそうだな」
ボウとアクラが言う。ヤオフーはそんな二人をよそに耳をピクピク動かしながら言った。
「どうやらそいつだけじゃなくて、他にもうじゃうじゃいそうだよ」
「ふんっ。エレベーター以外に道はないのか?」
「エレベーターの後ろに階段室があります」
「じゃ、決まりだね。そこら中からさっきのネズミと同じような足音や息遣いが聞こえる。いや、どんどん近づいてきてるんだ!早く逃げるよっ!!」
ヤオフーの言葉を待っていたように、フリンたちの周り中から金属を擦り合わせたような不協和音の鳴き声が鳴り響く。アクラとフリンが後ろを警戒し、ヤオフーが素早く扉を開く。扉が開くとすかさずボウとユニが飛び込み。
「フリン、早く!!」「兄さん!!」
ユニとヤオフーが同時に叫んだ。フリンとアクラは一瞬顔を合わせると、互いに頷き合い、扉に向かって走り出した。その後ろを、ゆうに二十匹を超えるネズミが追いかけてくる。二人との距離はどんどん近づき——。
——まずは、フリンが扉の中に飛び込む。次にアクラが扉に入ろうとしたところで一匹のネズミが追いつき、後ろからアクラに飛びかかった。——しかし、これはボウが構えていた拳銃で撃ち落とす。間一髪のところでアクラも間に合い、階段室の扉が閉じられた。
「はぁはぁ、助かった……」
フリンが思わず安堵の声を漏らしたその時、頭上から何者かの雄叫びが聞こえた——。
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