第二章☆[X0,Y−1,Z0]結子、貞操の危機
第二章☆[X0,Y−1,Z0]結子、貞操の危機
「柄本くん」
結子は跳ばされた先の空間にいる直也と一緒にいた。
「結子ちゃん!言われた材料ネットショップから届いたよ!」
「わあ、ありがとう!」
アンプルに香水にスポイトにエトセトラ。
これで人を操る香りの魔法が使える。
結子は香りに紛れて周囲の人に催眠暗示をかけることができるのだが、使用する香水にはこだわりがあった。
「結子ちゃん、他にやることない?」
「うーん」
結子は首をかしげた。もともといた空間の直也は、絶対、ちゃんづけで名前を呼ばなかった。ここの直也は微妙にヘラヘラしていて、なんかヤダ、と彼女は思っていた。
「結子ちゃんのお願い聞いたから、今度は僕のお願い聞いて」
「?」
直也が結子に急接近してきた。
「ちょっと!なにするの?」
「ちゅう」
「はあ?!」
冗談じゃない!!!
結子は逃げようとしたが、つまづいて転んでしまった。
「いやー!助けて!」
「まあ、そう言わずに。減るもんじゃないし」
「きゃー!」
早く助けに来ないと結子をとられるぞ。
「結子!」
梨華と一緒にやってきたもともとの直也がやっと結子のもとにたどり着いた。
「なによ!柄本くん、最低!」
「えっ?」
涙ぐんでいる結子。
横でここの直也が倒れている。
よく見るとぴくぴく痙攣しているようだが…。
「なんかあったの?」
「ファーストキス」
「?」
「私のファーストキス返せええええ!」
あまりの剣幕に直也と梨華は圧倒された。
間に合わなかった。
「野良犬に噛まれたと思って」
梨華が笑いを押し殺しながらそう言った。
「お姉さま!」
「私達、年、変わんないわよ」
「梨華!」
梨華は面白がって、隣に立っている方の直也に抱きつくと有無を言わさずキスをした。
「「何するんだっ!!!」」
直也と結子が絶叫した。
「こじれた関係をもっとこじれさせようと思って」
「何考えてんだ?!」
「まあ、それより、それぞれ元の時空間へ戻るんじゃないの?」
「えーと…」
直也と結子は顔を見合わせた。
「その使ってる装置、空間だけじゃなくて時間も移動できるんだよね?」
「そうだけど」
「じゃあ、この後、結子がもともといた時空間へ送っていこう」
「えっ…」
結子はなぜか胸が苦しかった。