第一章☆XYZ軸
第一章☆XYZ軸
「えーとね、今、あなた【柄本直也】が存在している時空を仮に[X0,Y0,Z0]としたとすると、あたし【梨華】がもともといたのは[X0,Y1,Z0]。そして【結子】がもともといたのは[X1,Y0,Z0]。」
「Xが時間軸、Yが空間軸。Zは?」
「次元軸」
「そんなのあるの?」
「うん。…で、今、あたしがY軸をマイナス1移動してきて、その反動で【結子】が跳ばされたのなら、[X0,Y-1,Z0]にいるはずなのよ」
「その理屈でいくと、結子の居場所が特定できるんだね?」
「まあね。でもあなた、本当に彼女のこと思うなら、元の時間に戻してあげないと、ずっと不安定なままで可哀そうよ」
「それは…」
直也は打ちのめされたような顔になった。
結子が未来からやってきたから、同じ年齢で一緒に過ごせたのだけれど、結子を未来へかえしてしまったら、直也より十年も二十年も年下になってしまうだろう。どこかで会えたとしても、結子から恋愛対象として見てもらえる自信がなかった。
だけど、本当に結子のことを思うのなら、未来へ返すべきだろう。
「わかった。結子を元の時空へ戻します。梨華さん、手伝ってください」
「OK」
梨華は、もし直也が結子を自分の元から離さないと言ったのなら、見捨てて移動するつもりでいた。しかし、直也は梨華の満足する答えを導き出したので、彼女は彼に好印象を持った。
「この空間の未来のあたし、どんなだった?」
「自信に満ちた女性だった。ルージュの口紅が印象的だった」
「ルージュ…」
今はリップスティックだけ塗った唇を指でなぞる。
そうね。ルージュ、好きかもしれないわ。
梨華は微笑んだ。