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女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。  作者: 偽モスコ先生
不死鳥との契約編 前編 ゴバンまったり道中記
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エリスと演劇 前

 フォースで伝説の武器を手に入れた俺たちは、長老とレイナルドに挨拶を済ませると早々にミツメへと発った。

 

 本当はもう少しゆっくりしてもよかったんだけど、あまりエリスを待たせるとかわいそうだというティナの意見を尊重した形だ。もう家族だな。

 お互いにどれくらい時間がかかるかもわからなかったから、トチュウノ町でラッドとロザリアを待つこともせず、最短で帰還。

 無事にティナとエリスは感動の再会を果たしたのであった。


 とは言ったもののティナがソフィア様から聞いた話によれば、俺たちはまた近い内にムコウノ山というところへ旅に出ないといけないらしい。

 だからせめてミツメにいる間はゆっくりして、出来るだけエリスの相手をしてやろうというのがティナと話し合った末の結論だ。


 そんな、フォースから帰って数日が経ったある日のこと。

 

 まだラッドとロザリアも帰らないので適当に一人で昼飯を食べた後、呼び出しを受けた俺はエリスの部屋に向かっていた。

 まあ、ティナがいつもエリスの部屋にいるからどちらにしろ行くつもりではあったんだけどな。


 エリスの部屋付近は警備兵の数も多く、すれ違うたびに挨拶を交わしていく。


「よう」

「ぺっ」

「よう」

「…………」


 以前フォースに向けての旅立ちの際に罵声を浴びせられながら城を出た俺は、ミツメに帰ってくるなりまず城にいる兵士たちをしばいた。

 兵士たちは鍛えているからそこそこ強いものの、所詮はミツメ周辺のモンスターになら対応できる、といった程度の強さだ。だから「偽装」したステータス値でもまだ俺の方が強い。


 だけどしばいたからと言ってエリスを肩車出来る恨みというのはどうにもならないほどに強いらしく、罵声を浴びせてくることはなくなった代わりに、唾が飛んできたり無視をされるようになった。本当になんなんだこの国。


 そんなわけでところどころでまたも兵士たちと乱闘騒ぎを繰り広げながら廊下を進んでいくと、やがてエリスの部屋に到着。

 扉を二回叩いてから一歩後ろにさがって待つ。


 するとすぐに、予想していた通りのものすごい勢いで扉が開く。

 その先には外行きの、ちびっこにしては背伸びしてお洒落してみましたみたいな服を着たエリスが腰に手を当ててしかめ面で立っていた。

 普段は被ってない白いベレー帽が窓から差し込む陽光を反射して淡く輝く。

 こいつどこかに出かけるのかなんて思っていると、怒ったような声が勢いよく飛んでくる。


「遅い!」

「悪い悪い、ちょっとその辺で兵士たちと乱闘しててな」

「ほんとにあんたたち仲良いわね」

「どこがだよ」


 このやり取りも割と慣れたもので、エリスは俺と兵士たちが仲良しでじゃれ合ってると思っているらしい。

 俺も面倒なのでいちいち訂正したりはしない。


「ティナは?」


 そう聞くと、エリスがくいっと親指で部屋の中を示す。この城の兵士たちよりもよっぽどさまになっていてかっこいい仕草だ。

 するとその先ではエリスと同じくお洒落をしたティナがテーブルのところに座ってお茶を飲んでいた。

 

 黒を基調としたドレス姿からは、いつもとは違う雰囲気が醸し出されていた。

 トチュウノ町でワンピースを着ていた時はお洒落をしたちょっと年上のお姉さんって感じだったけど、今日のは毎日私服としてそのドレスを着ている貴族のお嬢様みたいな感じだ。

 そんなティナが俺に気付いて手を振ってくれたので、鼓動が少し跳ねるのを自覚しながらそれに片手をあげて応じた。


「入るぞ」


 一応そうエリスに断ってから部屋の中に入っていく。そしてティナとテーブルを挟んで向かい辺りの椅子に座って改めて挨拶をした。


「おっす」

「おっす」


 おお、ティナがおっすって言うと何かすげえいいな……。

 結婚式はいつ頃にすればいいのかなと考えていると、エリスは椅子にも座らず立ったままで口を開く。


「落ち着いてるところ悪いけど、ゆっくりしてる時間はないわよ」

「ん、何かあるのか?」

「演劇を観に行くわよ!」


 エリスが俺をびしっと指差してそう言うと、ティナが優しく微笑みながら説明をしてくれた。


「トチュウノ町で演劇を観に行ったって話をしたらね、私も行きたい~って言い出しちゃって」

「なるほどな。で、俺は何で呼ばれたんだ?」


 ティナと二人で行きたいだろうに、と思ったけど経験上怒らせてしまうことがわかっているのでそれは口に出さない。

 エリスは腕を組みそっぽを向いてこちらをちらちらと見ながら言う。


「一人で留守番っていうのも寂しいでしょうからね。足代わりに使ってあげるわ」

「へえへえそうですかい」


 そう生返事をすると、エリスがこちらを振り向いてキッと睨みつけてきた。


「なによその態度は。何か文句でもあるの?」

「ございません王女様」


 びしっと敬礼の真似事をしてみた。

 そんな俺たちの様子を微笑みながら見守っていたティナが、少し間が空いたのを見計らって口を開く。


「それじゃ、そろそろ行こっか」

「おう」

「ちょっと待ちなさい」


 俺とティナが立ち上がろうとするのを、エリスが言葉で制した。


「何だよ」

「あんた、その格好で観に行くつもりなの?」

「あ、そっか」


 ティナは納得したような顔をしてるけど、何のことかわからない。

 ちなみに今の俺の服装は何の変哲もない普段着。そりゃあ城の中にいるし出かけるつもりもなかったんだから当然だ。

 下から上までざっと俺の服装を見てからエリスが言う。


「そんな服装で行ったら最悪追い出される可能性まであるわ」

「まじかよ。演劇こええな」

「エリスちゃんが予約してくれた劇場の席がね、正装みたいな感じの服を着てないと入れないんだって」


 ティナがそう補足してくれたのを見て、エリスが鷹揚にうなずいた。


「そういうことよ。だからちょっと着替えてきなさい」


 誰かに対してエリスがくいっと親指で扉の方を示すと、さりげなくいたらしい召使いが部屋の隅から出て来て一礼をする。

 正直、いるって本当に気付いてなかったからちょっとびびった。


「こいつに適当な服を着せてやって」

「かしこまりましちゃっ」


 そうして俺はさりげなく噛んだ召使いの人に衣裳部屋に連れていかれた。

 そこで執事とかが着てるみたいな、黒い礼服の背中の下の部分が無駄に長いやつに着替えた。何て言うんだっけこれ。


 少し窮屈だなと思いながらエリスの部屋に戻ると、二人からはほーとかへーみたいな声があがる。


「悪くないじゃない」

「結構いいかも」


 エリスはよくわからんけど、ティナには褒められてると思うので嬉しい。

 これからは毎日この服を着ようかなと考えていたら、エリスが椅子から勢いよく立ち上がって言った。


「それじゃ準備も出来たことだし、行くわよ!」


 廊下に出て、城門に向かって歩いていく。

 後ろからはさも当然のように兵士たちがぞろぞろとついてきて、その数は歩くにつれてどんどん増えていった。

 やがて城門に着く頃には、これから戦争にでも行くのかというぐらいの数にまで膨れ上がった兵士たちの方を振り向き、エリスが声を張り上げる。


「護衛はここまででいいわ! 今日は街からも出ないし、特に危険もないから」


 兵士一同に動揺が走る。一斉にざわめき始め、隣の者と顔を見合わせて何事かを相談している。

 やがてリーダー格のおっさんがその中から前に出てきて口を開く。


「エリス様。今日もまたあのいやしんぼに、珍しくお洒落をしてちょっと調子に乗ってるおませさんにお肩車をお許しになられるのですか?」


 聞かれたエリスは「う」と一瞬言葉に詰まったものの、少し間を空けてからいつもの調子で語り出した。

 ていうか本当に今更だけどいやしんぼってなんなんだよ。まあちょっと調子に乗ってたのは事実だけど。


「そうよ! 道中疲れるからね。まあ肩車役は誰でもいいんだけど、ティナと一緒にいくわけだしこいつを連れていくのが自然でしょ?」


 と兵士たちの方を向いたまま親指で背中越しに俺を指差すエリス。この間ティナは何をするでもなく、場の成り行きを静かに見守っている。

 俺はエリスの後ろで兵士たちに向かってこっそりべーっと舌を出したりして喧嘩を売るのに忙しい。

 するとリーダー格のおっさんがさらにずいっと前に出てから言った。


「ではエリス様! 帰ってきたらわっ、私にも! お肩車をお許しいただけないでしょうか!?」

「はっ?」


 エリスは身を引いて一歩後ずさった。

 それを皮切りに他の兵士たちも次々に前に出てきて「私も!」「私も!」と言って次々に腰を折っていく。

 やがてリーダー格のおっさんがそんな兵士たちを眺めた後、どこか遠い空の一点を見つめながら口を開いた。


「エリス様、私たちはあなた様が生まれた頃から、いつかお肩車をさせていただけることを夢見て日々を過ごしておりました……」

「あの、ごめんなさい。普通に気持ち悪いわ」


 めっちゃはっきり言われてる。なのにおっさんはめげずに言葉を続けた。


「たしかに我々は気持ち悪いかもしれません。ならばなぜ! あんなぽっと出のいやしんぼに! お肩車をお許しになられるのですか!」

「うっ、そ、それは」

「それは!?」


 迫りくるおっさんに対してエリスは言葉を詰まらせてから俯いた。ここからだとどんな表情をしているのかはわからない。

 それからエリスは勢いよくこちらに振り向くと、俺の足元までずんずんと歩いてきて、見上げながら言った。


「ほら、もういくわよ! 早く!」

「あいよ」


 肩車をしろということだろう。正直このやり取りを見た後にそれをするのはちょっと気まずいけど、もうそんな雰囲気にすらも慣れたので大人しく身体を反転させてから屈む。

 肩に軽いものがのしかかってくると、背後から悲痛な叫び声が聞こえてきた。


「ああっ、お肩車が!」「なんということだ!」

「くうっ、ジンめ」「我々も、我々もいつの日かお肩車を……!」

「ほら、早く行きなさい!」

「だから頭を叩くな、頭を」

「ふふっ、よかったねエリスちゃん。ジン君に肩車してもらえて」

「なっ……」


 そんなティナと俺の頭上との会話を聞きながら城を後にした。

 さすがのエリスもティナには反論できないらしい。やっぱティナはつえーな。

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