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女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。  作者: 偽モスコ先生
ツギノ町編 第一章 初めてのクエスト
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初めてのギルド

 朝の大通りはギルドに向かう冒険者や仕入れ・買い出しを行う商人が忙しなく行き交い、喧騒を生み出している。

 すれ違う男共の視線で優越感に浸りながら歩く。


 町の中央まではそこそこの距離があった。

 相変わらずきょろきょろと興味津々な様子で視線を躍らせるティナにニヤけながら歩いていると、やがて目当ての建物に到着。


「あっ、ソフィア様だ! 可愛い!」


 建物の入り口にあるエンブレムを見てはしゃぐティナ。

 ティナの方が可愛い……なんて事はもちろん言えない。


 妖精姿になったソフィア様をモチーフとしたエンブレムがシンボルマークとして入り口に飾られているここがギルド。

 冒険者たちの本拠地とも言える場所だ。


 ソフィア様と言うのはゼウスに続いて二番目に強い力を持つ女神様だ。

 主に冒険者たちを守護してくれる神様とされているけど、人間の一般人の間では職業を問わずとにかく人気が高い。

 その理由は至ってシンプルで、可愛いからだ。


 仕事っぷりも真面目でしっかりしているので、精霊たちも断然ソフィア様の方を慕っている。

 何を隠そうこの俺もそうだ。


 ゼウスとは違って様付けで呼んでいる辺りからも察してもらえると思う。

 ただまあ人間たちの間での宗教とかいうやつではゼウスの方が勢力としては大きいらしいけど、その辺の事情はよくわからない。


 扉を開けて中に入ると、丁度クエスト受諾ラッシュ時だったらしく人でごった返している。

 ティナがその様子を見るなり感嘆の声をあげた。


「わあ、人がいっぱいだね」

「わざわざこの時間に来なくても良かったかもな、悪い」

「ううん、私は人多いの平気だから……一緒に来てくれて、ありがとう」


 そう言って微笑んでくれたティナに思わず照れてしまう。

 いい加減慣れないと……いつまでもこれじゃまずいぞ。


「じゃあまずは登録だな。あっちの受付に行くぞ」

「うん」


 照れ隠しがてらにそう言って歩き出す。

 

 クエスト受諾と冒険者登録の受付は別になっているので、思ったよりも待たずに済んだ。

 ティナが必要な情報を伝えると、受付のお姉さんは一度奥に引っ込んでいく。

 それから少し待つとティナの冒険者カードを持って戻って来た。


 営業スマイルを浮かべながらカードを手渡すお姉さん。


「お待たせしました。これがティナさんの冒険者カードです」

「ありがとうございます」


 カードを受け取るとティナは宝物を手に入れた子供の様な顔で戻って来た。


「見て見てジン君! これ、私の冒険者カードだって!」

「おめでとう。これでティナも冒険者の仲間入りだな」

「えへへ……」


 嬉しそうに自分の冒険者カードを見つめるティナ。

 何だかこっちまで嬉しくなってくるな……。


「冒険者カードの使い方は必要な時に逐一説明するけど……まずはこれだな」


 そう言って、袋から取り出した冒険者カードに魔力を送り込む。

 同時に精霊専用スキル「偽装」を発動。

 名前の通り、自由に自分のステータスを偽装出来るスキルだ。

 

 すると、カードに偽物の俺のステータスが浮かび上がって来た。

 それをティナに見せながら説明する。


「これ……わかるか? 俺のステータスだ。カードに魔力を送り込む事で自分のステータスを表示する事が出来る」

「わ~すごい! 魔力を送り込む……こうかな?」


 むむっ、とカードを両手で持って見つめたまま真剣な表情になるティナ。

 少し時間はかかったものの、何とかステータスを表示させる事に成功した。

 その瞬間、ティナは喜びと悲しみの入り混じった複雑な表情になる。


「出来た~! ……でも、やっぱりステータス低いなあ」

「最初は誰だってそうだよ。それじゃ、早速クエストを探そうぜ」

「うん……そうだね」


 二人でクエストを受諾するためのスペースに移動。

 現在発注されているクエストが紙に書いて壁一面に張り出されている。


 さて……どんなクエストを受けるか。

 冒険者の安全も考えて、クエストにはレベル制限というものが存在する。

 

 そしてレベル制限はパーティーの中でも一番レベルの低い者を基準としていて、当然俺とティナではティナの方が低い。

 つまり、ここではティナのレベルで制限をクリア出来るクエストしか受諾出来ないという事になる。

 ちなみに、現在のティナのレベルは2だ。


 それにティナはあまり戦闘もした事がないようだから、討伐系のクエストは避けた方がいいだろうな……。

 あれこれ考えていると、横にいるティナが弾む様な声で言った。


「困ってる人を助ける事が出来るクエストがいいなぁ……あっ! これ、ゴブリンの群れの討伐なんていいかも!」

「ティナ……気持ちはわかるけど落ち着け。まずは安全なクエストでレベルを上げつつ装備を整えてからじゃないとだめだ」

「うっ、そうだよね。ごめんなさい……」


 肩を落としてしょんぼりとするティナ。

 俺は慌ててフォローを入れる。


「それにな、クエストを発注するって事はそれだけで発注した人が困ってるって事だろ?達成して誰の為にもならないクエストなんて無いと思うぜ?」

「……そっか、そうだよね!さすがジン君!」


 ぱあっと花が咲いた様に表情を明るくし、両手をぽんっと合わせて喜ぶ。

 そんなティナにまたしても照れてしまい、顔を逸らしてクエスト探しに戻る。


「……お、これなんていいかもな。『薬草類の採取』。近くの採取スポットで指定された薬草やらを採って来るクエストだとよ」

「ジン君のおすすめなら間違いないね、それにしよっ」


 だから俺の事を信頼し過ぎだっての、この子は……。

 そう思いながら、紙を壁から剥がして受付に持って行こうとした。


 でもティナにやってもらった方がいいなと思い直す。

 こういう事を俺がやったら意味ないし、ゼウス的にもあまり良くはないだろう。

 初めてのクエストを受けに行くティナも見たいしな。


「ほら、ティナ」

「えっ?」


 振り返って俺がクエストの書かれた紙を渡そうとすると、ティナは不思議そうな顔をした。


「初めてのクエスト、手続きしてみたらどうだ?」

「えっ……いいの?」


 子供が「この最後に残ったケーキ……食べていいの?」という時の様な表情で確認をして来るティナ。


「もちろん。後ろで見てるから行って来な」

「うん……じゃあ行って来るね」


 こちらに小さく手を振って受付に向かう。

 それからティナは、受付のお姉さんの指示に従って必要な手続きを済ませた。


「受付を完了しました。それではよろしくお願いします」


 営業スマイルかつどこか事務的なお姉さんの喋りを聞いて踵を返す。

 そうしてこちらに戻って来たティナは、やはりどこかワクワクを抑えきれないと言った表情だ。


「クエスト、受けて来たよ!」


 はしゃぐティナを見てこちらまでニヤけてしまう。

 でもこのままじゃいつまでも出発できないので、次の作業に移る。


「よし、それじゃ次はパーティーの結成だな」


 俺の言葉を聞いたティナは首を傾げた。


「パーティーって、ただ一緒に行動してるだけじゃだめなの?」

「そうだ。二人で狩りに行って別々のモンスターを倒すとかならいいんだけど……クエストの報酬をメンバー分受け取ったり、モンスターが落とす経験値、お金やアイテムを山分けにするなら正式にパーティーを結成しないとだめなんだ」

「ふぅ~ん……何だか色々と大変なんだね」

「それにパーティーを組むメリットはそれだけじゃない。回復魔法や支援魔法によっては、その効果範囲がパーティーを組んでいる者を対象にしたものがあったりするからな。同じモンスターを倒したりクエストを受ける際には、パーティーを組んでおいて損はない」


 説明を聞きながら、ティナは感心した様に頷く。

 ちなみに、人間ならパーティーメンバー間のレベルが離れすぎていると経験値が減ったりアイテムがドロップしなかったりなどのデメリットがある。

 でも精霊の場合はステータスを「偽装」していればそちらのレベルが優先して適用されるので、俺とティナに関してはその心配はない。


「へぇ~……じゃあそれはどうやってやるの?」

「こっちに来てくれ」


 そう言って手招きしながら、奥のスペースを目指す。

 そこには水晶の様なものが埋め込まれた、俺の身長と同じ程の高さの台座がいくつも並んでいる。

 ティナとその台座の前に並んだ。


「これがパーティーを結成する為の装置だ。最初にパーティーのリーダーになる人間が水晶に触れる。そうすると水晶が光るから、そこにメンバーが冒険者カードをかざしていくんだ。全員分が終わったら、最後にリーダーがもう一度水晶に手をかざして終わり、って感じだ」


 ティナは説明を聞いてうんうんと頷いている。

 それを見て、俺は一歩横に避けて台座の正面を空けた。


「よし、それじゃ実際にやってみよう。今回はティナがリーダーだ」

「えっ……何で私?ジン君の方が強いのに……」

「そういうのは関係ねえよ。いいからほら、練習だと思ってやってみ」


 驚き、戸惑うティナの背中を言葉で押してやる。


「わかった……それじゃ……」


 そう言いながらティナがそ~っと手をかざすと、水晶が光り出した。


「わあっ……すごい、綺麗……」

「で、次に冒険者カードをかざすんだ」

「こうかな?」


 ティナが左手に持っていたカードをかざすと、光りっぱなしの水晶が一瞬だけ光を失う。

 次に俺も同じ事をした。


「これで、最後にもう一度ティナが手をかざして完了だ」

「わかった……」


 ティナが手をかざすと、水晶は光るのをやめた。

 それを確認してから俺はティナの方に向き直る。


「よし、これで俺とティナは正式にパーティーを組んだ事になる」

「あっ……よ、よろしくお願いします」


 大袈裟に礼をするティナ。

 思わず笑顔になりながら、こっちも簡単に礼を返す。


「こちらこそよろしくな」


 こうして俺たちの初めてのクエストがスタートした。

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