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女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。  作者: 偽モスコ先生
伝説の武器編 後編 ドキッ! 男だらけの試練の迷宮
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許してもらおう大作戦

 ソフィア様を見送った後は、訓練が終わるまで街をうろついた。

 ティナのご機嫌を取る為に何かいいものが売っていないか探すためだ。

 嫌われたとか仲直りとかそういう話以前にただ怖い。


 あんな表情のティナは……それはそれで悪くなかった気もするけど、やっぱりあまり見たいものじゃなかった。

 

 でもこういう時何を買えばいいのかわかんねえな。

 ミツメにいればグレイスにセイラとノエルを呼び出してもらって聞けばいいんだけど。


 適当に歩いていると食料品店の前を通りかかった。

 例によって素材そのままな建物なのでどういった食料を取り扱う店なのかはわからない。とりあえず入ってみるか。


 軽快なベルが来店した客の存在を店内に知らしめる。

 店員の挨拶を受けながら中に入って行くと、甘い香りが鼻腔をくすぐった。

 商品の置いてある平台やらを見てもおやつを中心に売っている店だとわかる。


 どれどれと適当に見ていると、店内に他に客がいないためか店員が直接話しかけてきた。


「いらっしゃいませ。こちらなんて焼きたてなのでおすすめだよ」

「あ。いや自分で食べるわけじゃないんだ」

「じゃあ、プレゼントかね?」

「そんなところかな」


 食料品店は一つの街にいくつもあるので、さすがに武具屋や宿屋みたいにどこかで会ったことのある店員、とはいかないだろう。

 そう思っていたんだけど、この店員には見覚えがあった。


 優しそうな柔らかい表情に、後ろにまとめた髪にはところどころに白く染まった箇所が見受けられる。

 ミツメにてエリス行きつけのおやつ販売店の店員さんに瓜二つな人だ。


 まあ、今回はわざわざ姉妹がいますかと話しかけることはしない。素直に意見を求めようと話を続けていく。


「あの。女の子を怒らせちゃったんだけど、どんなものをあげると機嫌なおしてくれるかな?」

「あらあら。彼女さんかしら?」

「かのっ……ま、まあそんなところだ」


 彼女という響きが少し照れくさくて言葉に詰まってしまった。

 恋人同士になれたら、さっきの「しんくうぎり」も毎日のようにお見舞いされるのだろうか。

 ティナに命を奪われる。それもありか……なんて考えていると、店内の商品を眺めていたおばさんが口を開く。


「だったらこっちのクッキーなんておすすめだよ」


 そう言っておばさんが手で示した先。平台の上に乗せられた大きなかごの中に無数のクッキーが入っていた。

 全体的に茶色がかっているからチョコレート風味ってところか。ところどころにチョコの欠片も埋まっている。


 それらを眺めつつつぶやく。


「なかなかうまそうだな」

「でしょ? サクサクしてておいしいし、一つ一つが小さいからお喋りしながらでもつまめるよ」


 お喋りか。これを持っていったらまたお喋りしてくれるんだろうか。

 このクッキーを食べながら微笑むティナを想像してみた。その笑顔とさっきの剣を構えていた時の無表情とは似ても似つかない。

 ちょっとだけ切なくなりながら、クッキーを指差しておばさんに言った。


「じゃ、これもらおうかな」

「ありがとねぇ」


 おやつにしては少し多いかな、くらいの量をカウンターに持っていった。


 会計を済ませて店を出ると少しずつ陽が傾き始めている。

 暗くなる前に宿屋に戻った方がいいから、訓練も次期に終わるだろう。

 レイナルド宅に向かって歩を進めていく。


 何だか微妙に自分の足が重いような気もするけど、頑張らないと。

 ティナに嫌われたままだとそもそも下界に来た意味すらないのだ。

 レイナルド宅が見えて、いよいよ緊張しながら庭に顔を出す。


 誰もいないらしい。家屋から灯りがもれているから中にいるんだろうか。

 家屋の前まで行って扉をノックする。誰何の声に応えてから扉を開けると、中ではテーブルの椅子に座ってくつろぐティナとレイナルドの姿があった。


「お帰りで」


 一番に声をかけてきたのはレイナルドだ。どうやら腹が減っているらしい。

 ティナの方を見るも、俺とは目線を合わせようとしない。でもこれに負けじと声をかけてみる。


「よ、ようティナ。暗くなってきたし、宿に戻ろうぜ」

「…………」


 こちらをちらりと目だけで見てくる。一瞬だけ目が合った。


「……ふん」


 でもすぐにそっぽを向いてしまう。ぐうっ。

 そしてティナはすぐにレイナルドの方に向いて口を開く。


「じゃあレイナルドさん、宿に戻ります。今日はありがとうございました」

「御意」


 俺の良く知る笑顔でぺこりと一礼してから席を立つ。

 そして目を合わさずに俺の横を通過して家を出ていった。


「おいティナっ」


 取り付く島もないティナを追って、レイナルド宅を後にした。


 外に出ればさらに陽は沈みつつある。

 茜色の空を背景に、俺を無視してのティナの行軍は続いていく。

 駆け足で横に並んでから顔を覗き込みつつ話しかけてみた。


「今日の訓練はどうだったんだ?」

「…………」

「…………」


 す、すげえ。俺の声が耳に届いてるのかどうかすらわからない徹底ぶりだ。

 足は一定のペースで前に進み、瞳は真っすぐに正面を捉えたまま微動だにしていない。

 ならばと、さっき買ってきたチョコクッキーの入った袋を取り出す。

 袋も女の子用に可愛い装飾のあしらわれたやつにしてもらった一品だ。

 

 それを無表情なティナの目の前に掲げて語りかけた。


「ほら。おやつ買ってきたんだ。今から食うか?」

「…………」


 ティナは袋をじっと見つめた後、それを俺の手からひょいっと取り上げた。するとおもむろに中身を取り出してばりぼりと食べ始める。

 ……食うのか……。いやその為に買ったんだけどさ。


「…………」


 食べ終わると、空になった袋を無言で俺の方に差し出してきた。


「お、おう」


 何がお、おうなのか自分でもよくわからないままにそれを受け取る。

 

 まあいい。効果があるとわかっただけでももうけものだ。

 いくつか小分けにしてもらったからクッキーはまだまだある。夕飯を食った後にもまた差し出して、少しずつ機嫌を回復していけばいい。


 やがてティナの進軍は宿屋にまで及び、ついに夕食が始まった。

 席に着いて料理を注文したものの、待っている間は相変わらず無言だ。

 それでもちゃんと同じテーブルについてくれる辺りやっぱり優しいな。


 これ以上機嫌を悪くしないように無駄口は叩かない。

 俺の方を見ようとしないのをいいことに、ティナの顔をじっくりと観察しながら料理を待つ。

 やがて料理が到着すると任務開始だ。


 くっくっく……帰り際、俺は一つの秘策を思いついていた。

 名付けて「クッキーだけじゃなくてティナの好きな料理もどんどんおすそ分けしていこう」作戦!!

 そもそも俺が注文した料理自体ティナの好きなやつじゃないけどそこは何とかなる。付け合わせの野菜とかをあげればいいだけだ。


 よし、何だか段々楽しくなってきたぞ。

 早速自分の皿をティナの方に近付けていきながら話しかける。


「ティナ、これ好きだろ? ほらやるよ」


 ティナの好きな野菜とかをスプーンですくって渡していく。

 食器を手に持ったまま固まって、自分の皿に移住して来た野菜たちを静かに見つめるティナ。

 すると次の瞬間、その野菜たちを自らの口に運び始めた。


 よっしゃ、と俺は心の中で一つガッツポーズを取る。

 どうやら食べ物系はかなり安定して受け取ってもらえるみたいだ。

 それ以降もどんどんおすそ分け作戦を実行に移していく。


「…………」


 黙々と俺から分けられた好物たちを口に運んでいくティナ。

 これなら大天使ティナエルは俺を無下に扱うことはできないだろう。

 そして俺はダメ押しの一手を実行に移すことにした。


「ティナ。そろそろ料理も少なくなってきたし、食後のおやつにどうだ?」


 懐から取り出したクッキーをさっとテーブルの上に置く。

 でも次のティナの行動は俺の予想を裏切るものだった。

 じっとテーブル上のクッキーを眺めながら久々に口を開いてくれる。


「なに、もので釣るつもり?」

「えっ……」


 率直に言ってしまえば正にその通りなので何も言い返せない。

 ところが続くティナの言葉は怒らせてしまってから初めての、少しばかり暖かい声音によって紡がれたものだった。


「別にいいけどっ」


 いくらかツンとした表情ながら次々におやつを口に運ぶティナ。

 これは許してくれたってことなんだろうか。そう思って眺めていると、不意にクッキーを食べる手を止めたティナが目を合わさずに言った。


「これ、まだあるの?」

「……あ、ああっ」

「じゃあ後で部屋に持ってきて」

「えっ」

「そ、それで今日のことは……ゆっ許してあげる」


 そう言って少し俯きがちになったティナの頬は朱に染まっている。

 俺は一瞬立ち上がって走り出し、叫びながら外に出て行きたい衝動に駆られたものの、何とかそれを抑え込んで返事をした。


「本当か? ありがとうな」


 その後約束通りに部屋にクッキーを持っていくと、それを食べながら二人で楽しく話をして無事に仲直りを果たすことに成功。

 明日の「試練の迷宮」攻略に向けて万全な運びとなる。

 部屋に戻って来た俺は即座にベッドへと身を投げると、安堵の息をつき、気付けば心地のいい闇の中へとその身をおとしていた。

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