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女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。  作者: 偽モスコ先生
伝説の武器編 前編 トチュウノ町であれこれと
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「嫉妬」のキース

第三部スタートです!よろしくお願いします!

 荘厳な石造りの大神殿の中に硬質な足音が響き渡る。

 幅の広い通路の左右には石柱が並び立ち、その中央を一人の男が歩いていた。

 白いマントの背には羽根の生えた靴が描かれている。


 それは運搬・運輸、情報伝達などを担当する精霊部隊「ダンサーズ」のシンボルマークだ。

 

 ステンドグラス越しの陽光とやや冷えた空気、そして人気のなさから現在の時刻が早朝であることを窺い知ることができる。

 天界にも天候があり、それは下界のものと変わらない。

 精霊が下界の物語を順調に進行させる為には、人間と同じような生活をした方が都合がいいからだ。


 顎髭を蓄えた中性的な顔立ちの男はやがてある部屋にたどり着いた。

 扉を二回ほど軽く叩くと中からしわがれた威厳のない声が聞こえてくる。


「入りなさい」

「失礼します」


 中に入ると白髪の老神が執務机の椅子に腰かけていた。

 最高神ゼウス。このフォークロアーを始めとした数多の世界を管理する、神の中でも最も神格の高いスケベジジイである。


 ゼウスは腰かけたままで顔をあげると、男の姿を見てやや顔をしかめた。


「何じゃまたお主か。今日も別に呼んではおらんぞ、『嫉妬』のキース」

「承知しております。ですが、本日は私からお願いがあって参りました」


 キースと呼ばれた男は丁寧に一礼してからそう言った。


「……嫌な予感しかせんのじゃが、一応聞こう」

「ジンに会いに行く許可をいただきたいのですが」

「だめじゃ」


 天界では神々の思惑を推し測ることはあまりいいことだと思われていない。

 そのせいで一瞬ためらいが生まれたようだが、それでもキースは尋ねた。


「理由をお聞かせ願いますでしょうか」

「本気で言うておるのか? 追放扱いを受けた精霊に、仮にも一つの部隊の長たるお主が自ら会いに行ってなんとする。みなに示しがつかんじゃろうが」

「それは重々承知しております。ですが、このままでは私は死んでしまいます」

「どうして、いや待て言わんでもい」

「ジンが……ジン成分が! 圧倒的に足りないのです!」


 キースは両腕を天に向かって広げ、芝居がかった仕草でそう叫んだ。

 額に手を当ててため息をつくゼウスに構わずキースは続ける。


「ジンが下界に降り立ってどれほどの月日が過ぎたというのでしょうか! このままでは、このままでは私は枯れはててしまいます! ジンに会えない……これほどまでに残酷な現実などありましょうか! いやないでしょう!」

「元から避けられておったせいで会えておらんかったじゃろうが」


 演説の合間にゼウスは書類仕事に戻っていてキースの方を見ていない。

 キースは顔だけをゼウスの方に向けた。


「あれはただの反抗期です。今頃はすっかり元に戻っていることでしょう」

「元って……お主がジンに好かれておるのを見たことがないのじゃが」


 そこでキースは気が済んだのか、表情も腕も元に戻してから口を開く。


「というわけでゼウス様、許可をください」

「お主もジンも人の話を聞かんところはそっくりじゃの。仕方ない……」


 やれやれ、とため息をついて立ち上がると、ゼウスは後ろ手を組んでキースに顔を向ける。

 互いの鋭い視線が交錯する中でゼウスが平時と変わらない口調で言った。


「だめじゃ」


 キースは前のめりにこけそうになったが何とか持ち直す。


「てっきり許可を頂ける流れかと」

「お主とジンが下界で遭遇すればろくなことにならんからの」

「それもそうですね」


 自覚があるのか、キースはこともなげにそう言った。

 それから顎に手を当ててしばらく何事かを思案する。

 少しの間があってから、ゼウスに視線を戻して口を開く。


「では勝手に行って参ります」

「何のためにここに来たんじゃ」

「申し訳ありません。どうしてもジン成分の補充が必要でして。それでは……」


 もはや何を言っても無駄であるとの判断なのか、ゼウスは黙ってその背中を見送った。

 そして自らも部屋から出ると何かを探すように神殿内を歩き始める。


 それから数少ない早朝の時間帯担当の警備兵を見付けて話しかけた。


「ちょいとそこの君」

「これはゼウス様。おはようございます」

「うむ、おはよう。突然で悪いが、モンスターテイマーズ所属のセイラとノエルという者たちを呼んでくれんか」




 数時間後、セイラとノエルは下界の王都ミツメの街中を歩いていた。

 ミツメにはグレイスという連絡用の精霊が常駐しているため、今回の二人はオブザーバーズの隊員を伴っていない。


 二人は一度ギルドに寄ってからグレイスにジンの現在位置を確認し、今は王城に向かっている。

 セイラが歩きながら話しかけた。


「話はわかったけど、それでも王城に住んでるなんてびっくり」

「まあティナが人間の間でも勇者と認められたのはよかったな。これでジンもいくらか楽になるだろ」

「楽って何よ」

「王家から資金も物資も色々支援してもらえるらしい。だからいくらかあいつが自由に自分の金を使っても不自然じゃない状況になった」

「それもそうね。まあティナちゃんのそばにいる為だし、元から苦労とは思ってないだろうけど」

「違いねえ」


 そう言って二人は笑い合った。

 

 穏やかな陽射しに照らされながら歩くとやがて王城に到着。城門の見張りをしている兵士に話をつける。

 すでにグレイスの「コンタクト」を使ってジンに話を通してあるので、すぐに中へと案内された。


 部屋の前に到着して扉を叩くとすぐにジンが二人を出迎える。


「よう、久しぶりだな。まあ入れよ」

「まるであんたの家みたいな口ぶりね」

「少なくともティナが魔王を倒すまでは自由に使えるだろうな」


 そんな小言を交わして中に入って行く。

 客室と言えど部屋はそこそこに広く、一人で使うには充分すぎる広さを持っている。

 調度品も一般家庭よりは少しだけいいものが置かれているようだ。


 ジンはベッドに腰かけ、セイラとノエルがテーブルにつく。

 現在ティナが城にいないのは調査済みで、どうやら仲間とクエストに出かけたらしい。

 当然ジンも誘われたが、セイラとノエルが来るからと断った形だ。


 するとジンが真っ先に話を切り出した。


「それで、今日はどうしたんだ? よほどの用件だって言うから、ティナの誘いを断ってまで残ったんだぜ」


 グレイスには用件を伝えないように言っておいた。

 それだけジンに対しては扱いの難しい用件だからだ。

 

 あらかじめ打ち合わせをしていたのだろう。

 セイラと顔を見合わせて頷くと、とても言いにくそうな表情でノエルが語り出した。


「その、何ていうかよ。……落ち着いて聞いてくれよ?」

「お前がそんな感じになるなんて珍しいな」


 ジンに対しては何でもはっきり言うノエルが口ごもっている。

 その事実を妙に感じながらも徐々に嫌な予感を覚え始めるジン。


「あの人が、来る」


 その言葉を発すると同時にノエルが、次にセイラも、機嫌を窺うようにジンの顔を見た。

 ぴくっと眉を動かした後、ジンの顔はみるみるうちに歪んでいく。


 ジンは怒りに震える口で言葉を紡いだ。


「何だと?」


 口だけでなく握った拳まで怒りに震え始めたのを見てセイラが慌てて口を開く。


「もし暴れてこの部屋のもの壊したらティナちゃんに迷惑がかかるわよ」

「くっ……」


 どうにか最悪の事態は避けられそうだとセイラとノエルは安堵の息をつき、内心でティナに感謝の言葉を送った。

 ジンが落ち着いたのを見てノエルがゆっくりと話を続ける。


「まあこんな人の多いところには来ないだろうが、これから先ティナと色んなところに行くだろ。心の準備はしておいた方がいいと思ってな」

「くそっ、何であいつが。名前すら思い出したくねえってのによ」

「だろうな。だからゼウス様もどうしたもんか迷ったらしく、俺たちに伝えた後は『どうするかはお主らに任せる』だってよ」

「ふん、あのジジイもわかってんじゃねえか」

 

 しばらく仏頂面で黙っていたジンだったが、次第に言いにくそうに口を開いた。


「その、悪かったな。気使わせてよ」


 するとセイラはノエルと視線を合わせて、からかうような笑みを浮かべる。


「そこはありがとう、でしょ」

「ふん」


 不機嫌そうな顔ながらもどこか照れた様子のジンに、思わずセイラとノエルは吹き出してしまう。

 その後もしばらく談笑をしていると、早めにクエストを切り上げたティナが戻ってきてジンの部屋にやってきた。


「セイラちゃんにノエル君、やっほ~」

「やっほ~」「おう」

「おいノエル、そこはお前もやっほ~だろうが」

「うるせえ」


 王城の客室に、とても楽しく暖かい談笑の声が響き渡るのであった。

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