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女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。  作者: 偽モスコ先生
王都ミツメ編 前編 新たな出会いたち
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宿屋にて

 宿屋に到着したジンを待ち受けていたのは意外な来客だった。

 扉を開けて中に入り、そのまま自室に向かおうと受付脇を過ぎて階段に向かう。

 すると聞きなれた声に呼び止められた。


「ジンく~ん! こっちこっち」


 振り返るとこちらに向かって大きく手を振るティナの姿があった。

 そこにはどういうわけかセイラとノエルの姿もある。

 宿屋一階の酒場で歓談に興じていた三人の元へ歩み寄り、片手をあげて挨拶をしながら席につく。


「よう。お前らもここに泊まりに来てたのか」

「ここに入ろうとしたら入り口でティナと鉢合わせたからびっくりしたわよ」


 セイラの言葉に、なるほどそういう設定かとジンは心の中で頷いた。

 エアの協力でティナが宿屋に戻るタイミングと合わせたのだろう。


 それはそうとジンは多少心の中で狼狽していた。

 呼んだのは呼んだけどまさかその日に来るとは。

 エアの仕事の速さと二人の行動力に感心するのであった。


 席順はジンとティナが隣合い、ジンの向かいにノエル、ティナの向かいにセイラとなっている。

 見ればテーブルには三人分の飲み物だけがあった。

 不思議に思ったジンが尋ねる。


「飯はまだか。俺が帰って来るのを待ってたのか?」

「ばーか。あんたが遅いから先に食べちゃったのよ」

「そうか」


 セイラの返答に、ティナと一緒に飯を食うために我慢したのにしまった美味い飯を逃したなと思ったジンである。

 しかしそんな事は置いてひとまず夕食を注文した。

 気付けば朝食以来何も食べてないので腹ペコなのだ。


 注文を終えたのを見てティナが話しかけた。


「ジン君、遅かったね。どこに行ってたの?」

「ああ、ちょっくら知り合いのところにな」

「ふうん」


 気になっても深入りはしないティナ。

 いつも一緒にいるからこそ、こういった配慮は必要だろうという考えか。

 次はジンがティナに聞く番だ。


「ティナはどこに行ってたんだ?」

「ロザリアちゃんに美味しいお店とか、可愛い装備を売ってるお店とか教えてもらっちゃった。見てみて」


 そう言いながら地図をテーブルの上に広げる。

 いくつか印が付いていて、どうやらそれがロザリアに教えてもらった店という事らしかった。


 楽しそうなティナにほっこりなジン。

 と、ここで二人を呼び出した案件を思い出して尋ねる。


「そう言えばよ、お前らにも美味い店とか良さげな武具屋とか教えて欲しいんだけど知ってるか?」

「そこまで詳しくないけど。まああんたよりは知ってるわね、こことか」


 セイラは地図上の何点かを指差して言った。

 その他にもこの街で過ごす上で知っておいた方がいい店や施設等の紹介が続いていく。


 やがて注文していた料理が到着した。

 他は全員食事済みという事もあり、ジンは迷わずに食べ始める。

 が、ティナの視線に気付いて食器を持つ手を止めた。


「な、何だよ」

「へっ? いや本当によく食べるな~って思って。ごめんね」

「別にいいけど。何なら一日中見ててくれ」

「ええっ、それはちょっと大変かも……」


 どこかシュールな会話を繰り広げる二人を眺めながら、セイラとノエルは苦笑するのであった。


 やがてジンの食事も終わり、雑談に興じていた時の事だった。

 ジンがそう言えばと何かを思い出して口を開く。


「何かめっちゃ偉い貴族の子供を助けて仲良くなったぜ」

「へ~。助けたって、誰かに襲われてたの?」

「いかにも悪そうなやつらだったぜ。今思えば誘拐とかしようとしてたのかもな」

「この街の悪そうな人たちって強そうだけど、ジン君すごいね」


 ティナの言葉にジンの身体が一瞬止まる。

 気付けばセイラが半目でジンを睨んでいた。

 ノエルは呆れ気味な表情で視線を明後日の方向に向けている。


「い、いやっ、結構大変だったんだぜ!? 戦っても勝てるわけなんてないからさ、めっちゃ必死に走って逃げたんだよ! いや~危なかった~」

「それでもすごいと思うな。助けた女の子はそれからどうしたの?」

「ちゃんと家まで送って帰った。何かすげーでかい屋敷だったな、城みてえな」

「へえ~いいとこのお嬢様だったんだねえ」


 のんびりとした二人の会話に違和感を覚えたのか、ノエルが口を開く。


「おいジン。その女の子の名前は聞いたのか?」

「おう。エリスって言うらしいぜ」


 ジンの言葉を受けたノエルが立ち上がろうとしたが、セイラの方が早かった。

 セイラはジンの首根っこを掴んで端の方に連れて行ってしまう。

 二人は周囲に聞こえない様に最小限の音量で会話をする。


「いててて……おい何すんだよ」

「あんた何やってんのよ! エリスって言ったらこの国の王女様じゃないのよ!」

「おう、あのちびっこもそんな事言ってたな。それがどうかしたのか?」


 セイラは顔を手で覆いため息を吐いた。

 それからこいつどうしたんだという表情のジンに返事をする。


「あんたまず王女って何かわかってる?」

「貴族の中でもめっちゃ偉いやつらの事だろ?」

「ちょっと違うしその時点で関わっちゃだめだって思いなさいよ」

「だって仕方ねえだろ! あの状況で見捨てたらティナに嫌われちまうじゃねえか」

「ティナちゃんを基準に物事を考えるのをやめなさい!」

「うるせえよオカン!」

「誰がオカンよ!」


 いつしか身振り手振りを交えた大激論に発展している。

 相変わらずな二人を穏やかな表情で見守るノエルに、ティナがおずおずと話しかけた。


「あの……」

「ん?」

「ジン君とセイラちゃんって、ずっとあんな感じなの?」

「あんな感じってなんだよ」

「いや、その……仲がいいのかなって」


 あれを仲がいいと言ってしまうティナに驚愕するノエル。

 別にわからなくもないが、何も知らない者が端から見れば口喧嘩をしている様にしか見えないのだ。

 

 だがノエルはそう聞いて来たティナの心の機微までは気に掛ける事が出来なかったらしい。

 特に何を気にするでもなく普通に返事をした。


「仲がいいと言えるかどうかはわからんが、しょっちゅう喧嘩はしてるな」

「そっか。ありがと」


 礼を言ったっきりティナは黙り込んでしまう。

 その様子を不思議に思う事しか出来ないノエルであった。




 やがて歓談の時間も過ぎて就寝の為に部屋へと引き下がった一行。

 だがジンにとってはようやくここから本題に入れるのであった。

 全員部屋は別々だがセイラはティナの部屋に、ノエルはジンの部屋にいた。


 セイラがティナを部屋から出ない様に引き留めている内にジンとノエルが用事を済ませるという算段だ。

 用事というのはティナが新しく覚えたスキルについてジンがノエルに質問をするという事。


 そんなわけでジンの部屋ではジンとノエルが話をしているところ。


 ジンは両手を頭の後ろで組んで枕にしてベッドに横たわり、ノエルは壁にもたれかかる形で立っていた。

 静かな部屋の中でノエルの低い声が響き渡る。


「……そりゃ『ゆうしゃのつるぎ』でほぼ間違いねえだろうな」

「『ゆうしゃのつるぎ』?」


 ジンは訝し気な視線を向ける。

 本当に知らないのかと呆れ顔でノエルは続けた。


「例えばお前が戦っても魔王は倒せない様に出来ている」

「えっ、あいつってそんな強いのか?」

「そういう意味じゃねえよ。『ゆうしゃのつるぎ』以外の攻撃じゃあいつのHPを10%までしか減らす事ができねえんだ」

「とどめはティナじゃないとさせねえって事か」

「そういう事だ。っていうかお前何で知らねえんだよ、精霊でどこかの部隊に入ってりゃ大体は知ってる話だぞ」

「ティナに会うまで勇者とか全く興味なかったからな……」

「そうだったな」


 ノエルは記憶の中を探っている。

 そこには『勇者』という単語を口にするジンの姿は見られなかった。

 意識を眼前に戻してノエルは続けた。


「まあ俺もそんなに詳しいわけじゃねえ。グランドクエストが終わる度にティナとエアにスキルやら何やらを確認していくってのが一番いいだろうな」

「そうさせてもらうわ」


 会話は一旦そこで途切れたかに思えた。

 しかし少しの間があってからノエルが話を切り出していく。


「王女と知り合いになった話、セイラからも散々言われただろうけどちっとは気をつけろよ」

「ああ。あれは俺も迂闊だった」

「状況からすりゃそうするしか無かったってのもわかるし、ゼウス様がすぐに処罰を下す事もないだろうが……まあ気をつけるに越した事はねえ」

「しばらくは様子見って感じか」

「ゼウス様はお前には甘いからな」


 ノエルは肩をすくめてため息を吐く。


 どうやら会話はそこで終わりのようだ。

 壁から背を離したノエルはそのまま扉の方へと歩いて行く。

 ドアノブに手を掛け、顔だけでジンの方を見てから言った。


「それじゃ俺は自分の部屋に戻って寝るわ」

「おう」


 そうしてノエルは部屋を後にした。


(今頃ティナはセイラと二人でいるのか。一体何を話してるんだろうな、めちゃめちゃ気になるな)


 そんな事を考えていると、いつの間にか眠りについていたジンであった。 

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