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女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。  作者: 偽モスコ先生
王都ミツメ編 前編 新たな出会いたち
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ミツメの街の人気者

 声のした方向を振り返ると、今度は鎧を身に纏った男たちが数人。

 どう考えてもさっきの荒くれ者たちとは種類の違うやつらだ。

 確かこいつら衛兵とか言うんじゃなかったかな。


 衛兵は身分の高い人間の下で働くちょっと強いやつら。

 住民の安全を守る為に街をうろついてたりするんだよな。

 ん? って事は俺、悪いやつと間違われてんのか?


 さてどうするかと考えていると、俺の肩に乗るちびっこが口を開く。


「待ちなさい!」


 衣擦れの音。ちびっこがフードを取ったのだろう。

 すると男たちはどこか安堵した様な表情を浮かべた。

 衛兵らしきやつらの内の一人がちびっこに話しかける。


「やはり王女様でしたか。今回も上手に抜け出されるものですから、大変に感心して現場検証をしていたら完全に見失っておりました」

「あんたら何やってんのよ」


 頭上から一つため息が聞こえてきた。


「こいつは私を助けてくれたの。軽率な言動は慎みなさい。それと、礼をするから王城まで連れていくわ」

「そうでしたか。しかし……」

「何? 私の命令が聞けないの?」

「めっ、滅相もございません。どうぞこちらへ!」


 男が手で示した方向へ別の衛兵が歩き出す。

 どうやら先導してくれるらしい。


「さっ、行くわよ。後はこいつらについて行けばいいわ」


 表情は見えないけど、どう聞いてもドヤ顔になってそうな声の調子だ。

 こいつすげえな。思わず感心しながら話しかけた。


「薄々そうかなとは思ってたけど。お前すごい良い家のお嬢様だったんだな」

「はぁ!? あんた本気で言ってるの!?」

「何がだよ」

「……あんた王族って言葉知ってる?」

「し、知ってるぜ。貴族よりもっと上ですげー偉いやつらの事だろ?」


 確かそうだったはずだ。

 いくら人間に関心が薄かったとは言ってもそれくらいは知っている。

 人間でも身分が高い貴族の中で特に身分が高いやつら……だよな?


 自分の解答に自信がなくてハラハラしていると中々返事が来ない。

 しかも気付けば衛兵たちまで立ち止まってこちらを見ていた。

 俺は少し動揺しながら口を開く。


「なっ、何だよ……違うのか?」


 すると俺の頭上から笑い声が漏れて来た。


「ぷっ……ふふふ、あはは! あんた変なやつね」

「お前に言われたくねえよ」

「ほらあんたたち! ぼさっとしてないでさっさと歩きなさい」


 ちびっこの号令で再び衛兵たちはこいつの家に向かって歩き始める。

 何とか冗談と思われて済んだ、のか?

 首を傾げながらその後をついていった。 


 衛兵たちについて行くとやがて人の多い通りに出た。

 すれ違う人たちが皆俺の上に乗るちびっこに挨拶をしている。


「エリス様こんにちは!」

「今日も可愛いねえ」


 若い男に主婦っぽいおばちゃん。


「エリスしゃまこんちゃ~」

「ご機嫌麗しゅう」


 おじいちゃんに貴族っぽい女性。

 どうやらこのちびっこは老若男女問わず人気があるらしい。

 エリスという名前もようやく知ることが出来た。


 自分で言うだけあって町中の人たちがエリスの事を知っているみたいだ。

 って事は俺の周りのやつらもエリスの事を知ってるんだろうか。


 そんな人気者を肩車しているせいで行き交う人々の視線が痛い。

 こいつ誰だよという好奇心や嫉妬心が渦巻くのを感じる。

 もう肩車する必要もないし降ろそう。

 

 肩の上のちびっこに呼び掛けた。


「おい、お前そろそろ降りろよ。嫌な視線を感じるしさ」

「文句を言わずにさっさと歩きなさい」


 このクソガキどうしてくれようか。

 すると俺とエリスの周りを囲む衛兵の一人がこちらを睨みつけながら言った。


「きっ、貴様さっきから黙って聞いていれば……」

「何だよ」


 衛兵はわなわなと震えている。

 そして俺を指差しながら声を荒げた。


「エリス様をお肩車させていただける事がどんなに羨ましい事かわからんのかぁ!」

「わかんねえよ! だったらお前が肩車しろよ、ほれ」


 衛兵に背中を向けてエリスを譲ろうとしてみた。

 背後からはちょっと危ない感じの声が聞こえて来る。


「ほ、ほあぁ……エ、エリス様、本当に私のような者がエリス様をお肩車してもよろしいのでしょうか!?」

「何だよお肩車って。いいから早く」

「いいわけないでしょ! あんたもさっさと進みなさい」

「わかったから頭を叩くな頭を」


 ぺしぺし、と俺の頭を叩いて来るエリス。

 振り返って衛兵を見ると露骨に肩を落としてため息を吐いていた。

 どんだけエリスを肩車したかったんだよ。


 結局生意気なちびっこが肩から降りる事はなかった。

 そんなこんなで歩いていると、家が見えて来たらしい。

 エリスが家らしき建物を指差しながら声を張り上げた。


「あれが私の家よ!」

「ほ~ん」


 でっか……やけにでかい屋敷……っていうか城じゃね? あれ。

 こいつ城に住んでるのかよ。

 俺は無駄に壮大なエリスの家を眺めながら言った。


「お前すげえとこに住んでんだな」

「……もういちいちツッコまないから」


 頭上からはそんな呆れた感じの声が返って来た。

 気付けば空は茜色に染まりつつある時刻。

 エリスの家の前に架かっている橋の上を歩いて行き、入り口っぽい門をくぐる。


「お帰りなさいませ!」

「お帰りなさいませ!」


 何か城で働いてる兵士みたいなやつらからめっちゃ挨拶されてる。

 もちろん俺じゃなくてエリスが。

 しかもこの子、挨拶を返したりもせずにシカト気味だ。


「おい、お前人から挨拶されたら返せよ。ティナに怒られるぞ」

「別にいいじゃない全部私の部下なんだから。……誰よティナって」

「俺の恋人……じゃねえよばかやろぉ! な、仲間だ」

「何一人で興奮してんのよ。ふ~ん、ていう事は女ね。好きなの?」

「な、何だよ急に。好きっていうか、結婚はしたいかな」

「それ好きって言うんじゃないの? ふ~ん」


 何だか妙に含みのある「ふ~ん」な気がするな。

 そんな会話をしているといつの間にか城の中に入っていた。


「おいちょっと待て、これどこまで行くんだよ」

「ここまで来たんだから私の部屋まで送りなさい。お礼もしたいしね」

「別に礼とか要らないから帰らせてくれ」

「えっ。あんたが普段食べられそうにない料理とか食べさせてあげるわよ?」

「飯ならティナが宿で待ってるかもしれないからいい」


 頭上から降り注ぐ声はちょっとだけ動揺している。

 まさか礼を断られるとは思っていなかったのだろう。

 ていうか普段食べられそうにないって、俺を何だと思ってんだ。


「じゃあお金とか……」

「別に困ってない」


 持ってるけど使えない今の状況でこれ以上金を増やしてもな。

 あっでも貴族から金貰ったって事なら堂々と使えるか?

 いやいや待て待て。これ以上有名人との関りを増やすのはまずいだろう。


「何よ、でも助けて貰ったのに礼をしないなんて王家の恥だわ」

「じゃあさ、さっきの事を絶対に黙っといてくれ」

「…………」


 納得がいかないのか返事は来ない。

 そこそこの間を空けてからエリスがぽつりと呟いた。


「その内またここに遊びに来なさいよ」

「は? 何で?」

「何か別の礼を考えておくわ。あんたには借りを作っておきたいしね」

「そうかい」


 よくわかんねえ事を言うやつだな。

 それからは会話が極端に減った。

 何かを考え込んでいるのか、エリスが喋らなくなったからだ。


 案内されるままに歩いていると、やがて一つの部屋の前にたどり着いた。

 どうやらここがエリスの部屋みたいだ。


「ほれ、着いたぞ。降りろ」


 腰を屈めてやると背中がスッと軽くなった。

 確認して俺は立ち上がる。

 それからエリスは部屋の扉の前に立ち、こちらを振り返る。


「あんたたち、もういいわ」


 手で追い払う仕草をすると衛兵たちは散って行った。

 周りに人がいなくなったのを確認してエリスは話を切り出す。


「あんたの名前、まだ聞いてなかったわね」

「ジンだ」

「ジンね。覚えたわ。その……必ず、また遊びに来なさいよね」


 エリスはちょっと俯いていて、身長のせいもあり表情はわからない。

 でも何だかようやく歳相応の顔が見れた様な、そんな気がした。

 だから頭に手を置いて諭す様に言ってやった。


「ああ、必ずな。また変なやつらに絡まれたりしない様に気を付けろよ」

「うるさい! 子供扱いしないで!」

「はいはい。じゃあな」


 挨拶をして踵を返してから片手を上げる。

 そうして俺はその場を後にしてエリスの家からも去った。

 だけど城門をくぐって橋に差し掛かろうとしたその時のことだ。


「待てい」


 後ろから声をかけられた。振り返ると薄暗い路地で最初にエリスに話しかけて来たおっさんがこちらに向かって歩いてくる。


「なんだよ」

「その、ワシの口から言うことでもないのじゃが、エリス様はその……寂しい身の上でな。よければ今後も仲良くして差し上げてくれ」


 おっさんは、とても言いづらそうに頬をかきながら言った。

 だから俺もそれ以上は追及しない。


「ああ。悪いやつじゃねえみたいだしな、また遊びにくるよ」


 言いながら踵を返すと、俺は振り返ることなくその場を去った。

 

 外に出るとミツメの空には夜の帳が下りていた。

 昼とそう変わらない喧騒の中をくぐって宿屋を目指す。

 

 松明と月明かりに照らされた人々の表情は決して暗くなんてない。

 それは夜になっても衰える事の無い街の活気を象徴している様でもあった。

 ティナはもう宿屋に戻ってるかな。


 そう考えながら帰路についた俺の足取りはとても軽かった。 

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