そっくりさんたちの正体は
「ジン君、私ね……」
「おう」
声の方に寝返りをうってから返事をした。
ティナは今にも消え入りそうな細い声で語りかけて来る。
「いつかは本当の……」
おっ、遂に打ち明けてくれるのか? ティナは自分が勇者だってことをまだ隠してるもんな。
隠してる、というよりは自分がそうだってことが信じられないとかそんなところだとは思うけど。
ティナはまだ言い淀んでいて言葉が続かない。
本当に勇者の話かどうかもわからないので、急かすことをせずにのんびりとその先を待つ。
そして十分に間が空いてからの事だった。
「zzz」
ささやかな隙間風の様な寝息が聞こえて来た。
どうやら寝言だったらしい。
何だよ、変に緊張しちまったじゃねえか。
ていうか一つ屋根の下を意識してたのも俺だけで、ティナは何とも思ってなかったらしい。
まあ当然と言えば当然か。俺もさっさと寝よう……。
翌朝。よく眠れずに重くなった瞼をこすりながらの起床。
すると横から鈴の音を鳴らす様な声が聞こえて来た。
「おはよう。よく寝てたね」
「おう……?」
寝顔を見られてたのか。何か恥ずかしいな。
軽く朝食を摂ったら片づけをしてまた出発。
トラブルとかがなければ今日中にはミツメにつけるはずだ。
朝の爽やかな空気の中を、ティナと一緒にのんびりと歩く。
ティナは都会に憧れを持っていて、それが冒険者を目指すきっかけの一つになったと教えてくれた。
いつかはミツメに定住したいらしい。
俺もミツメなら入った事くらいはあるけど……。
人が多くてうざいだけだったけどな。
やがて森に差し掛かる。ここを越えれば王都はもうすぐだ。
この森はツギノ町とミツメの間にあるおかげで人々の往来が多く、そのため俺たちが歩いてきた街道がそのまま通るように整備されているから道に迷う事はない。
梢によって作られる天井から漏れ出る陽光を浴びながら、鳥や虫、獣やモンスターの生み出す喧騒の中を歩く。
たまにティナが花や草木に興味を示して二人で立ち止まる。
途中座って水を飲んで休憩していると、モンスターに遭遇したりもした。
そんな感じで歩いていると、やがて森を抜けて草原地帯に出る。
さらに少し歩いて王都が遠くに見えてくると、ティナが目を輝かせながら歓声をあげた。
「わ~すごい! あれが王都!?」
「ああ。ティナは来るの初めてなんだよな」
「うん。楽しみ!」
まあ俺も入った事があるってだけで詳しいわけじゃないけどな。
早めにセイラとノエルに会って情報を収集しておきたいところだ。
あいつらも詳しいわけじゃないと思うけど、俺よりは下界に興味を持ってたし。
ミツメに近付くにつれて、モンスターを狩ってレベル上げをする冒険者も増えて来る。
その様子を眺めながらティナがぽつりと呟いた。
「やっぱり、みんないい装備をつけてるんだね」
ここいらのモンスターを狩るって事は、ミツメを拠点にする冒険者の中でもレベル的には下層のはずだ。
なのにティナの言う通り、中々にいい装備をつけている。
中にはてつのつるぎやてつのよろいを装備してるやつなんかもいた。
お金を貯めに貯めて買ったんだろうな。
ティナにはそんな苦労をさせずにいい装備をつけさせてやりたいと思った。
しばらく歩いてようやく街の入り口に到着。
街の中に入ると、早速人と人が生み出す喧騒に包まれた。
物珍しそうにきょろきょろしながら歩くティナ。
やがてツギノ町ではあまり見られない光景が目に入って、それを俺に教えようと口を開いた。
「エルフにドワーフ……だよね、あの人たち」
人間の中でも亜人種と呼ばれる人たちだ。
ツギノ町にもいなかったわけじゃないけど、数は随分と少なかった。
それがここミツメでは当然の様に目の前を闊歩している。
このままゆっくりと街を見て回るのもいいけど、既に空が暮れ始めている。
はしゃぐティナに声をかけた。
「そろそろ暗くなり始めてるし、宿屋を探すか」
「ご飯のおいしいところがいいな」
エアじゃなくても、誰かしらオブザーバーズの連中と連絡が取れればティナがお望みの宿屋をすぐに見つけてやれるのに。
次にエアが通信を繋いで来たら相談してみよう。
オブザーバーズは仕事柄、精霊部隊の中では最も人間の街に精通している。
それも王都ミツメの事とあらばかなり詳しいはずだ。
まあ連絡が取れないやつらの事をあれこれと考えてもしょうがない。
それからしばらくはいい感じの宿屋を探してうろついた。
ティナとはぐれていないかを確認しながら、人混みをかき分ける様にして進んで行く。
やがてツギノ町でも泊まった様な、ボロ過ぎず高級過ぎずな宿屋を発見。
はしゃぎ過ぎたのか人混みに酔ったのか。
ティナが少し疲れた様子で言葉を漏らした。
「もうここでいっかな……どこかで見た感じで何だか安心感あるし」
「そうだな」
返事をしてから扉を開けて中に入ると、少し騒々しいベルの音と店員さんの挨拶が迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
「えっ」
受付に歩いていく事すらせず、入り口で立ち尽くしてしまった。
挨拶をしてくれた受付の店員さんが、ツギノ町で使っていた宿屋のお姉さんだったからだ。
俺の後ろにいたティナも、ひょこっと顔を覗かせるように受付を見て何が起きたのかに気付いたらしい。
ティナが大きく開けた口を手で隠しながら驚きの声をあげる。
「お姉さん!?」
「あら、どこかでお会いしたかしら?」
「どこって、ついこの前までツギノ町で」
言われなれているのか、お姉さんは即答して来た。
「それはきっと妹ね。よく間違われるのよ」
「「妹!?」」
ティナとハモってしまった。どう見ても双子で、姉妹じゃない。
俺なんて未だにお姉さんが冗談を言っているんじゃないかと思ってるくらいだ。
そんなこちらの様子に構うことなくお姉さんは会話を続けた。
「ちなみに、他の街の宿屋にも私のお姉ちゃんたちがいるわよ?」
「お姉ちゃんたち?」
「ええ。同じに見えるかもしれないけど、全員別人だから。もしお姉ちゃんたちに会うことがあったら、よろしくね」
二の句が継げない俺たちを置いて、お姉さんは営業を始めた。
「旅人の宿屋へようこそ。今日はこちらにお泊りかしら?」
手続きを済ませて部屋に入ると、ティナは早々に風呂に入って寝てしまった。
旅と人混みで疲れ切ってしまったのだろう。
つまらないので俺もさっさと風呂に入ってベッドに寝転んでいる。
せっかく王都に来たんだし、暇な時にセイラやノエルを呼び出してみたい。
でも連絡役の精霊がどこに配置されてんのか聞き忘れたんだよな。
さてどうするかと悩んでいると、タイミングよく通信が入った。
(聞こえるか?)
(エアか)
(ああ。ようやくお前たちが人混みを抜けて「テレパシー」の照準を合わせやすくなったので、声くらいかけておこうと思ってな)
恐らくオブザーバーズの「テレパシー」は別のスキルで表示した脳内マップ上の点に照準を合わせる形で使用するのだろう。
別のスキル、というのはテイマーズで言えば「レーダー」に当たるスキルだ。
オブザーバーズなら確か「マップ」とか言ったっけかな……。
とにかくこのタイミングでの通信は渡りに船だ。
(ちょうどいい。連絡用に配置されている精霊がどこにいるのか教えてくれ)
(何だ知らなかったのか)
(テイマーズは街の中にまで入るような仕事はないからな)
(そうだったか。まあいい、連絡役はこの街ではギルド職員に化けている)
(なるほど。じゃあクエストを受けに行くついでに会ったり出来るな。ついでにギルドの場所も教えてくれ)
(少しは自分で調べるくらいしろ、全く……ギルドならその前の通りを真っすぐ行って大通りを再び真っすぐ行けばあるぞ)
(説明下手かよ。全然わかんねえんだけど)
(何故わからないんだ)
(逆に何でその説明でわかると思ったんだよ)
(しょうがないやつだな……地図は持っているのか?)
(持ってない)
(では明日道具屋に寄って買って来い。印をつけてやる)
(道具屋の場所は受付のお姉さんに聞いた方がいいな)
俺が道具屋の場所を知っているというのは少し不自然だ。
ティナの目の前で無くてもいいけど、一度誰かに道を尋ねたという事実を作った方がいい。
だから下手くそなエアの説明を理解するより、明日受付のお姉さんに教えてもらった方が色々と効率がいいという判断だ。
(そうしてくれ)
(わかった。じゃあ悪いけどまた明日通信を繋げて欲しい)
(ああ、またこのくらいの時間にな。それでは失礼する)
そこで通信は途絶えた。
どうでもいいけどエアって友達とかいるんだろうか。
ベッドから降りて窓際に歩み寄り、外を眺めた。
夜の帳が下りても、ミツメでは人々の活動が止むことはないらしい。
建物の中から漏れる明かりや、松明の灯りを頼りに人々が通りを行き交う。
忙しない街並みは活気に溢れているとも言えた。
明日はティナとどんな事が出来るのだろうか。
いつものちょっとした期待に胸を躍らせながら、再びベッドに身体を沈めた。




