初めてのゴブリン討伐へ
村長は食事中にも関わらず一旦食器を置いて改まった。
そして静かに自己紹介を始める。
「私がソノヘンノ村村長だ。よろしく頼む」
「「よろしくお願いします」」
結局名前は教えてもらえないらしい。
村長がぺこりと一礼して来たので俺とティナも慌てて返す。
その後は黙々と飯を食べた。
ジョセフィーヌさんの料理はまじで美味かった。
どれくらい美味かったのかは「まじで美味かった」という感想しか出て来ない辺りからも察してもらえると思う。
隣にいるティナも腹をさすりながら満足そうな表情をしている。
全て食べ終えるとごちそうさまを言った。
ティナがすぐに立ち上がって食器を集め、厨房に持って行く。
その際に奥さんと少しだけ談笑していた。
家庭的? なティナ……いいな。
少ししてからティナがこちらに戻って来る。
落ち着いたのを見計らうと、村長が声をかけて来た。
「それで、今日のクエストの事なんだがね」
「はい」
「村の敷地を僅かに出たところに畑があるんだが、その近辺に大量にスライムが沸いてしまったんだ。ゴブリンもそこそこにいる」
結界の中だけで農作物やらを育てればいいのに、どういうわけかたまにこうして結界の外で育てようとするやつもいる。
収穫量が足りないとかそんなところだろうか。
まあ、そのおかげでクエストが発注されるのだからそう文句も言えないけど。
ここまではギルドで見たものと内容に違いはない。
ティナが確認の為に口を開いた。
「では、そのスライムとゴブリンを全て討伐したらいいんですね?」
「そういう事だ」
村長が頷き、続いてティナが頷く。
それからティナは、椅子から立ち上がりながら言った。
「わかりました! ではさっそく行って参ります!」
「ああ、よろしく頼むよ。終わったらまたこちらに顔を出しておくれ」
元気よく出て行くティナの後を追い、村長の家を後にした。
そんなわけでようやくクエストがスタート。
スライムが大量に発生した場所はわかりやすかった。
村の外、結界の範囲にぎりぎり収まっていない場所に畑があり、そこを占拠するかのようにスライムの群れが闊歩している。
そしてその中に保護者とかお目付け役みたいなノリで数匹のゴブリン。
こんぼうとおなべのふたを取り出して鼻息を荒くしながら、ティナが言った。
「よ~し、じゃあ私がやるからジン君は休んでていいよ!」
「そうか。ま、ゴブリンに囲まれたりしたら助けるから、思う存分やってみ」
「うんっ」
俺はその辺に突っ立って腕を組んだまま、ティナを見守ることにした。
実際こういう狩りの時にどうするかを考えてなかったから、ティナの申し出は正直に言って有難い。
テイマーズの仕事の性質上、モンスターは基本的に倒さない方がいいから。
まあ、抜け道がいくつかあるにはある。
例えばスライムやゴブリンという低レベル帯モンスターは基本的にテイムする必要がない。
強いモンスターが低レベル帯にいるのは問題だけど、逆はそうでもないからだ。
それにその場にいるモンスターを殲滅してしまえば俺がモンスターを倒したという噂が広まる事もない。
だから低レベルモンスターは殲滅するなら倒しても大丈夫、という考え方。
ただし、この場合は良心の呵責と戦う事になる。
モンスターは人間や精霊とは根本的に生物としての作りが異なるとはいえ、紛れもなく生きているのだ。
特にテイマーズの俺は会話も出来る分、より悩まされる。
あと他にもいくつか倒しても大丈夫なパターンがある。
モンスターが言う事を聞かない場合、他のモンスターから「あいつは倒されてもしょうがない」と言われる程悪いやつな場合。
それと「イベントモンスター」である場合がそれに当たる。
あと、今は外見上の最大の特徴の一つである愛剣がないから、俺がジンとバレない可能性もあるにはあるけど……。
それはちょっと都合が良すぎるというものだ。
色々考えている内に、ティナの戦いは既に始まっていた。
「やーっ」
「ピキーッ」
「ていっ」
「ピキーッ」
こんぼうを振り下ろす度にスライムが光の粒子となって霧散していく。
どうやら対スライムに関してはもう何ら問題ないみたいだ。
そして辺りのスライムを全て片付けると、ティナはついにやつと対峙した。
「キキッ……」
「むむっ」
ゴブリンだ。
ティナはこんぼうとおなべのふたを構えたまま、慎重に間合いを測っている。
やがてしびれを切らしたのか、ゴブリンが先に攻撃を仕掛けて来た。
「キキーッ!」
「……っ!」
ティナは歯をくいしばり、おなべのふたを身体の前に出してそれを受ける。
新調した防具のおかげかほとんどダメージはないっぽい。
そして攻撃を防御された事によって生まれたゴブリンの隙を、ティナは見逃さなかった。
「はぁっ!」
「キキッ」
攻撃を受けて後退するゴブリン。
さすがに一撃ではまだ倒せないらしい。
ティナはすかさず追い打ちをかけようと地を蹴り、こんぼうを振り下ろす。
対するゴブリンは体勢を立て直して反撃に出た。
二つの影が交錯する。
ゴブリンの攻撃は届かずティナが一方的に攻撃をヒットさせた。
こんぼうの分、リーチで勝っていたからだ。
ゴブリンの身体が光の粒子となって空気へと還っていく。
ティナはその様子を呆然と見つめていたものの、しばらくすると我に返ってこちらを振り返った。
そして笑顔になると武器を持ったままでぴょんと飛び跳ねた。
「やった~っ!」
こちらに歩み寄りながら、ティナがせがむ様に聞いて来る。
「ねえねえ! 今の見ててくれた!?」
「ああ、もちろん! やったなティナ!」
「すごい嬉しい!」
とても嬉しそうにはしゃぐティナに、俺も思わず笑顔になってしまう。
でもクエストはまだ終わっていないし、周りには敵もいる。
俺は笑顔のまま今朝のノリで言った。
「ティナっ! まだ敵はたくさんいる、油断はするなよ!」
「はいっ! 師匠っ!」
「帰るまでがクエストだからな!」
「了解っ!」
びしっと敬礼してから、モンスター討伐に戻るティナ。
そんな後ろ姿を、俺は笑顔で見守り続けた。
討伐は特にトラブルなんかもなく順調に終わった。
数が多いので、俺も途中からはスライムをティナの方にぶん投げたりして少しだけ手伝ったりした。
ゴブリンをたくさん倒せてほくほく顔のティナと一緒に報告へ向かう。
昼の遅めの時間帯、村長の家ではジョセフィーヌさんが掃除をしていた。
こちらに気付くと笑顔で話しかけてくれる。
「あら終わったの? お疲れ様。ちょっと待っててね……あなた~!」
ぱたぱたと奥まで村長を呼びに行ってくれた。
すぐに村長がやって来る。
「終わったようだね。一応確認だけさせてもらおう」
村長も含めた三人でさっきの畑へ。
モンスターのいなくなった畑を見た村長は感嘆の声をあげた。
「おお、しっかりやってくれたみたいだね」
そう言って家から持って来た書類に何やら書き込んでくれた。
書き終わると、こちらにそれを差し出して来る。
「はい。これをギルドに渡せばクエスト完了だよ。ご苦労様」
「ありがとうございます!」
ティナは、書類を受け取ってから満面の笑みでそう言った。
そのまま俺たちはソノヘンノ村を後にした。
帰り道はティナは今日のゴブリン話で持ち切りだ。
戦った時の緊張感や、倒せた時に如何に嬉しかったかを何度も何度も俺に聞かせてくれた。
はしゃぐティナを見て、そういえば俺もゼウスのじいさんに初めて「爆裂剣」をぶちかました時には親父とお袋にこんな風に話したっけな。
二人とも青ざめてすぐに謝りに行ってたけど。とか思い出していた。
ゼウスの吹っ飛ぶ様が爽快で、その後しばらく病みつきになったんだよな。
そんな風に思い出に浸っているとツギノ町に到着。
クエスト完了報告の為にギルドへ。
この時間なら人はそこまで多くない。
待たされる事もなく、すぐに書類を受付に提出する事が出来た。
報告を済ませ、軽い足取りでこちらに戻って来るティナに言った。
「よし! 今日は初めてのゴブリン討伐祝いだな!」
「ふふ、毎日お祝いばかりだね。でもありがとう」
ギルドを出てからもそんな風に談笑しながら大通りを歩く。
そして部屋を取っている宿に向かおうと、小さい路地に入った時だった。
(モンスターテイマーズのジンだな?)
(あ?)
俺の頭の中に直接語り掛けて来る声。
「ワールドオブザーバーズ」専用スキル「コンタクト」だ。
対象とした人間や精霊と心の声で会話が出来る。
周囲を見渡してみるも、それらしき影は見当たらない。
どこで見張ってるのかは知らないけど、このスキルはそこそこの射程距離があったはずだ。
ティナに怪しまれない様、足を止めずに会話を続ける。
(オブザーバーズのやつか? 何の用だ?)
(今晩女勇者が眠りに就いたら、やつに眠りの魔法をかけてから町の南側の草原地帯まで来い)
(俺が出て行った事に気付かないようにって事か。念入りだな)
(確かに伝えたぞ)
そこで会話は途切れた。
セイラとノエルが言ってた、力づくで俺を連れ戻すってやつか?
草原地帯まで出て行けばテイマーズのやつらが待ち伏せてるって事か。
ご苦労な事だな……。




