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ゲームをするお話

 姉貴が急に帰国してきたり、志野の突然な訪問。かと思えば夕飯の食材がなくて、またデパートに出かけたりと三が日は色々あった。買い物を済ませた後に、俺は姉貴の着せ替え人形になったことはもう忘れたい。姉貴が福袋を買ってくると、毎回決まってああなるので忘れることは出来ないのだが。小雪も帰り道では得意げな表情をしていて、何やら秘策でもあるのかと思ったが、やはり姉貴に通用するはずはなかった。むしろいつも以上にもふられていた。

 

 そんな忙しない三が日も終わり、今日は一月九日である。姉貴は未だにこたつでぬくぬくとしている。


「なぁ姉貴。一体いつまでここにいるんだ?」


「いやだなぁ凛空。期限なんてないんだよ?」


「小首をかしげられても困るんだが……」


 期限なしと言うことは、半永久的にこの部屋に住むつもりかこの姉貴は。というか仕事はどうするのだろうか?そもそも日本に支店が出来るから帰ってきたはずではなかったか。それなのにまだ働きに行かなくても大丈夫なのだろうか?もうそろそろ仕事が始まっていてもおかしくない日頃なのだがな。


「仕事はどうするんだ?」


「ん?あぁ、それはまだ大丈夫だよ~」


「何故に?」


「いまちょっとした休暇もらってるんだよね。だからまだ平気」


「休暇とかあるのか……」


 え、普通でしょ?みたいな顔を姉貴はしてくるが、世の中には休暇なんて存在しない会社もあるのだ。だから俺にとって休暇という単語は聞き慣れない単語なのだ。


「じゃあ、休暇ってことはまだここにいるのか?」


「だからさっきも言ったじゃん。期限なんてないのだよワトソン君」


「いや俺助手じゃないし。はぁ、もう分かったよ好きなだけ居ろよ」


「さっすが凛空!出来の良い弟を持ってお姉ちゃんは幸せだよ」


 にこやかに言ってくれるが、正直気乗りしている訳では当然なく、単純にこのまま粘っても埒が明かないので不承不承仕方なくだ。食費は姉貴にも出してもらおう。というか自分の食費は自分で賄って欲しい。俺にも貯金が有り余っているが、それは小雪の為に使いたい。異次元空間の中に吸い込まれていくなんてまっぴらごめんだ。まぁそれでも、一日三食作る俺は相当姉貴に対して甘いのだろうな。


####


 今までこたつに包まり、ぬくぬくと幸せそうに眠っていた姉貴がいきなり飛び起き、こんなことを言い出した。


「ねぇねぇ、暇なんだけど?」


「知るか」


「なんかないの?」


「なにもない」


 急に飛び起きるものだから、こたつの上で丸まっていた小雪が驚いている。ごめんね小雪、全ての原因はあれだよ。そう姉貴の方に指させば、小雪は納得したように再び丸まりだした。それから、姉貴よ良いかげん覚えてくれ。この部屋には何もないのだということを。


「つまんない~」


「……ゲームでもするか?」


 ふと、この部屋に唯一存在する楽しめる物を思い出した。もう何年も触っていなかったし、正常起動するかも分からないが多分大丈夫だろう。そういえば昔もよく姉貴とゲームをしていた。姉貴は格ゲーが大得意で、俺もそこそこ腕に自信がある方だが毎回決まって勝てない。良い所まではいくのだ。だが最後の一機がどうしても落とせない。一方俺は、パズルゲーやレースゲーが得意だ。格ゲーに関しては姉貴に一勝も出来ていなかったのだが、この二つに関しては唯一姉貴に勝てるゲームだ。というか格ゲーで勝てなさ過ぎてこの二つを猛練習した。今でも感覚は残っている。


 押し入れから本体を出し、その隣に整理してあるソフトもあるだけ外に出す。テレビに接続してみると、なんと普通に映った。流石は某ゲーム会社。数年使っていなくても問題なく使える。


「何からする?」


「腕ならしにスマ〇ラでいいんじゃない?」


「最初から自分の勝てるやつをもってきたな……」


「まぁまぁ」


「……一本でも勝てるようにしよう」


 久し振りにするので、最初は操作を思い出すので精一杯だった。姉貴も俺と同じような感じだろうと思っていたが、そんな考えは浅はかだった。あの頃となんら遜色ないプレイスタイルで俺の残機をどんどん落としていく。おいやめろ。投げ連とかするな。こっちはまだ操作思い出していないんだから少しは手加減しろ。


 三機設定を通算五回程度やったが、相変わらず一度も勝てないでいる。というか多分昔よりも落とせる残機が減ったような気がする。だがしかし、容赦なく姉貴が叩きのめしてくれたおかげで俺も大分操作を思い出してきた。次は勝てそうな気がする。


「最後にもう一戦だけしないか?」


「お、やる気だね?いいよかかってこいやー」


「一本取るからな」


「こっちも本気でいくからね」


 姉貴はその言葉通り、昔から使っていたキャラクターを選択してきた。当然俺も、使い慣れたキャラクターを選択する。ロード画面で久し振りに胸を高鳴らせている自分がいることに少々驚きつつも、俺は今日こそ姉貴に勝つべく意識を集中させた。


 アイテムも制限時間もない戦場は静かに、けれども激しく操作キャラが戦っている。派手なエフェクトがあっちこっち飛び交う。打撃音と共に空を切り裂くような、そんな音をたてながら俺のキャラが飛んでいく。まだまだ大丈夫だ。たかが一機やられただけだ。姉貴の方もあと一撃当てれば一機落ちる。焦るな。しっかり確実に落とす。

 

 復帰早々投げれたが、そのおかげで背後を取れた。その隙を確実に落とす。息もつかぬ間、姉貴のキャラは復帰して俺のキャラを容赦なく吹っ飛ばす。回避しても掴まれるし、かと言ってしなければ飛ばされるし、相変わらず姉貴は上手い。だが、俺も負けていられない。小さい頃に散々負かされた鬱憤を今日こそ晴らすのだ。俺の方はかなりダメージが溜まっているが、姉貴の方も小刻みに積んできたおかげで、そこそこ溜まっている。今までと同じなら絶対に勝てない。それなら今までとは違う事、姉貴が想像もつかないことをしなければ。


 ……ここで上スマ。


「ひゅ~、やるねぇ」


 リスク承知で放った上スマは、姉貴にも予測できなかったらしく、それはもう綺麗に入った。真剣勝負で姉貴が声を上げるくらいにしっかりとたたき込めた。しかし、これで油断してはいけない。最後の一機になった時に姉貴は今まで以上のコントローラー捌きで向かってくるのだ。それは正に神業と呼ぶに相応しく、それ故に俺は今まで一勝もできていないのだ。落ち着いて立ち回り、しっかりと姉貴にキャラに攻撃を当てていく。姉貴も姉貴で、小刻みにかつ派手に攻撃を当ててくる。ダメージパーセンテージがどんどん上がっていくが、ここで焦ってしまうと飛んで火にいる夏の虫で、潰されてしまう。冬場だと言うのに額から汗が零れる。まるで死合いでもしているようだ。一瞬たりとて気が抜けない。


 回避、ジャスガ、左横投げ、空後ろ、弱A、横強、NA、回避、回避。淡々と静かに俺と姉貴は行動を繰り返していく。緊張が解けたとき、どちらかが負ける。不意に、小雪が視界の隅で立ち上がった。とテトテとこちらに来ているようだが、意識をそちらには向けられない。〝ふみゅっ〟と小雪はジャンプし、次の瞬間姉貴の膝に飛び乗った。


「ちょ、小雪ちゃん!?」


「隙あり!」


 小雪が膝に乗ってきたことで、姉貴の集中力は途切れ、その隙をついて横スマを叩きこむ。赤色のエフェクトがスローで画面外から現れる。


「……勝った?」


「いや~流石に小雪ちゃんが来るとはねぇ」 


「……」


 未だに現実を受け入れられていない俺は口を半開きにして、画面のリザルトを見ていた。


「それにしても、さっきの上スマは予想つかなかったなぁ。うんうん、成長したね凛空」


「……頭を撫でるな!」


 姉貴が頭を撫でてきたことにより、俺は意識を取り戻した。頭を撫でられるのは流石に恥ずかしく、手で一度払ってしまったが、そんなことは意に介さず姉貴は俺の頭を撫で続ける。そんな様子を小雪は姉貴の膝の上で欠伸をしながら眺めていた。そのうち俺の膝に移って来て、しっくりきたのか満足そうな顔をして丸まった。可愛いなぁ。死闘の後に見る小雪は癒しである。有難う。 


「そういえばさ、新しいス〇ブラ出るんだって」


「へぇ、まだ需要あるんだな」


「そうそう。しかも今度は、今までのキャラ全員出るらしいよ!」


「それは凄いな」


「でがしょ!?だからさぁ……」


「買わねぇぞ?」


「えぇ~ケチ!」


 大体姉貴が食べ物いがいの商品で話題を振って来る時は、買いたいもがあるときだ。まぁだからと言って俺が買うわけがない。というか姉は俺よりも給料もらっているだろう。頬を膨らまして拗ねるな。


「じゃあさじゃあさ、割り勘しようよ!」


「……何故?」


「いやだって、どうせ凛空もやるじゃん?それに凛空の好きなぷ〇ぷよもでてるよん」


「よし買おう」


 スマブ〇だけなら渋っていたが、〇よ〇よが出ているのなら話が別だ。実際にはテ〇リスの方が得意だったりもするのだが、それと同じぐらいに〇よ〇よは好きなのだ。なのでこの二つを合わせたソフトが発売された時には、天にも昇るような気持ちで眼を子供のように輝かせていたと思う。だがまぁ、仕事のせいで遊ぶことはおろか買う事すらできなかったのだが……

 

 そんなこともあり、ぷ〇ぷ〇が発売されているというのなら買っても良いだろう。当然姉貴にも半分は出してもらう。そうでなければ割りに合わない。ただでさえ、姉貴の食費は俺がほぼほぼ出しているというのに、その上ゲーム機なんて買わされたら流石に貯金が崩れると思う。正確に貯金残高を把握している訳ではないのだが、姉貴ばかりには使いたくない。俺は小雪を拾った時から、俺の貯金は小雪の為に使うと決めたのだ。小雪のためならいくらでも出せる。


「ねぇ凛空。どうせ暇なら、早速買いに行かない?」


「そうだな。サクッと買ってぷ〇〇よしたい」


「そうと決まればLet's Go!」


「姉貴も半分出せよ?」


 アメリカに五年もいたからなのか、簡単な言葉でも中々流暢に話す姉貴。学生時代はそこまで英語が得意だったとはお世辞でも言えないのだが、やはり現地に行けば話せるようになるのだろう。何も知らない所に放り出されると、人間は五感を最大限に活用しその場に慣れようと、必死に生きようとする。現在の日本の英語教育がどうなっているのかは知らないが、英語を学ぶという考えはあまり意味がないようにも思う。日本語でさえ、学ぶというよりも何度も話している内に自然と耳に馴染んだのだ。英語も同じく、学ぶというよりは何度も会話を聞かせて、或いは会話を実際にさせて慣れていった方が良いと思うのだが、いかんせんそう簡単にいかないのが教育なのだろう。


 ……何故俺はここまで日本の英語教育について考えているのだろう?あぁ、英語が嫌いだったからか。


「小雪ちゃんも一緒に行くよね?」


 姉貴のそんな問いに小雪は、やれやれといった感じ半分、面白そうという感じ半分で〝にゃぁ~あ〟と何とも言い難い返事をした。未だ眠りから醒めていないのか、眼を片手でこする姿は、さながら眠り姫のようだ。いや別に眠り姫は眼をこすらないか。この場合は眠り姫ならぬ眠り猫か。


「じゃ、行こうか」


「よーし。なんか初売りのときからそんなに時間たってないような気もするけど、気にせず行こーう!」


「姉貴、外出るとき決まってテンション高いよな」


 姉貴だけかと思ったが、隣を見れば小雪もそわそわとしていた。今までの眠気は吹っ飛んだように、キラキラと眼を輝かせて、姉貴の後ろをトコトコと歩いてる。このまま放っておくと、店内で迷子になりそうだな。しっかりと愛用のエコバッグを持っていくことにした。


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