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異世界でも仮想通貨を流行らせてみた

作者: めめた

仮想通貨って知ってる? そうそう最近テレビとかでもよく聞くようになったアレだよ。ほら、ビットコインとかそういうの。

あれ、異世界でも流行ってるんだぜ。


異世界…つまりここは地球じゃない。現代日本人なら必需品のネット環境もスマホも、もっと言うと電話自体ない。

マジでRPGの世界。すごいよね。

なんで俺がここにいるかって? そりゃ召喚されたからだよ。RPGの世界だから魔法はあるんだ。

研究心がありすぎて、召喚魔法まで極めちまった魔法馬鹿がいるくらいな。

別に勇者になれとか神子だとかは無いぞ? ただ呼び出されただけ。「呼び出せて満足。別によその世界には興味ないから、特に何もしなくていい。今からちゃんと帰す」って言われたし。

でも俺は日本には戻りたくなかった。会社はクソだし、友達もいない。残念ながら両親は死別した。…振り返ってみると随分と悲惨な人生だな、オイ。

だからまぁ、俺がいなくなって心底悲しむ人間は多分いなかった。俺は新しい世界で、新しい生活をしてみたかったんだ。


それを聞いた魔法使いの反応は凄かった。こんな見ず知らずの人間に対して、「家事をやってくれるなら、この家にいて良いよ」だと。警戒心うっす! 平和ボケなんて言われてる現代人よりも薄いんじゃないか? ありがたく同居させてもらったけど。

毎日の食事、掃除、洗濯が俺の最初の仕事になったわけだ。食費は魔法使い持ち。一人暮らしだったから、極旨ではないもののマズくもない程度の食事は作れる。掃除機みたいなのや洗濯機みたいな道具(魔法で動いてる)もある。正直ラクショーである。むしろこれを面倒くさがる魔法使いが、人としてヤバい気がする。

とりあえず最初のうちは毎日買い出しして、市場で物価の相場をなんとなく把握してった。基本はパン食だから、まずはパン一斤より高いとか安いとかそんな判断基準から。惣菜作ってる屋台もあるから、それも基準にしたりな。

あ、言葉の問題? 最初に魔法使いに翻訳ピアス的なの付けてもらったよ。今も耳と唇につけてる。鏡見るとさ、フツメンが粋がってパンクファッションしてるみたいなんだよな。ヘコむわ。


こっちの世界にも大分慣れてくると、じゃあそろそろ仕事もできるようになろうかな~って思うようになる。魔法使いに生活費出させ続けるのも悪いからな。でも日本にいたときみたいに、誰かの下で働くのは絶対に御免だった。かといって剣や魔法が使えるわけでもない…異世界でやりたい仕事も特に思いつかない。

そんな時に思い出したのが、日本にいた頃に少ない休みの日に楽しんでた仮想通貨のトレードだ。

ブラックで毎日ヘトヘトだったし、副業禁止だったから課税対象にならないように少額をチマチマたまーに動かしてるだけだったけどな。本当はテキトーに取引してソコソコの金を生み出しつつ、気ままに生活するのに憧れてた。

…あれ、今ならできるんじゃないか? って思ったね。


とりあえずこの世界にも仮想通貨的なものがあるのか魔法使いに聞いてみたけど、結果はNOだった。そもそもネットが無いから、個人間の送金とか相場チェックとか無理だしな。

魔法使いは異世界の文化には興味なさげだったけど、「魔法で実現できないもんかねー?」なんて聞いてみたらめっちゃノッてきた。事象には興味なくとも、その手法を編み出す事には熱心なんだよ。コイツ。便利な魔法道具作っても、作業中はウッキウキだったのに出来上がった途端見向きもしなくなる…研究者とか開発者とかによくいるタイプだ。

とりあえず仮想通貨って言っても、そんなブロックチェーンとか大層なシステムじゃないくて良い。あれだ、ゲーム内通貨的なやつが作れればいいんだ。

条件としてはこうだ。

・個人間で送金可能

・マイニングできる

・コイン発行数に上限がある

・法定通貨と換金できる

うーん、意外とメンドイね。


とりあえず個人間の送金から解決した。

これは簡単だ。仮想通貨を管理するウォレットを作っちまえば、それ同士を魔法でつなげられる。問題はウォレットをどうするか…。パソコンもスマホもタブレットも存在しない。これのためだけにデバイスを作るしかないんだ。


「貨幣を一種の呪として扱うことになるのか……個人に呪を与えることで取引を可能に……」

「よく分からん。翻訳ピアス頑張れ。」

「巻物に個人を判別させる呪を組み込むか……。そうだ、精霊契約魔法の仕組みを応用すれば……! ああっ300年前に提唱された魔素循環理論を使うときがついに……! いや、ここはむしろ魔素付与理論をさらに掘り下げるべきかっ……!?」

「……とりあえず巻物がウォレットになりそうなことだけは分かった。」


魔法使いがめっちゃ話しかけてきたけど、俺にはさっぱりだ。それでもちゃんと俺のイメージに近い物が出来上がるから、あいつはスゴいと思う。

巻物に指紋認証的なものが組み込まれて、所持してる通貨の量とかステータス表示っぽいものが浮き上がるようになった。所持してる通貨ってのは、個人に紐付けられた「魔素」の一種になる。

これは精霊に作られたもので、契約している所有者以外には動かせない。

魔素は地の精霊に作ってもらった。マイニング( 採掘 )つったら、やっぱ地属性だよね?


マイニングとその上限は重要だ。これがあるから仮想通貨が普及するし、価値が生まれる。

ここは素直に精霊たちに相談させてもらった。魔法使いたちは精霊と契約するのは日常茶飯事なので、意外と話もすぐできる。

地の精霊に「魔素」を作り出してもらう仕組みを作りたい、そしてそれを人間の間で通貨として取引する……って言ったら、精霊界のお偉いさんまで話が行っちゃったけど。

将来的に色んな人間が色んな場所で地の精霊との契約マイニングするだろうし、まぁそりゃ大事になるわな。

でも人間と契約する事はあっちにも利点があるから、きっちり検討してもらえたよ。一応お偉いさん的には、きちんと上限を設けて地の精霊が酷使されなければOKらしい。

ちなみに精霊と契約する人間が増えると、精霊の力が高まってより長生きできるらしいよ。力と寿命ってのはどの種族でも共通の問題なんだなぁ。

あんまりすぐできる契約にするとマズイから、それなりに高位の精霊が何日も時間を掛けないと生み出せないような魔素にしてもらった。魔素っていってもそれ自体には何の力も持ってないんだけどね。地の精霊が産んだ魔素だから、どこにいくつ存在してるのか彼らはすぐ分かる。偽造不可能、上限以上の生産なんて一発で見つかっちゃうってわけ。


最後に取引所での換金。これはおいおい誰かがちゃんとやればいいから、とりあえず最初は俺と魔法使いが個人取引所状態になる。むしろ最初はこの通貨で取引する相手を作らなきゃいかん。

これにはアテがあった。他の魔法使い連中だ。

魔法使いが知り合いたちにどんどん連絡を取って、この「魔法で新しい魔素通貨の流通を実現させる」計画を持ちかける。いやもう、皆さん反応が大変よろしい。


「なぜ構想の時点で儂を呼ばんのだぁぁ!!」

「あー、地の精霊と契約して魔素を生み出すのか…。なるほど精霊による管理でヒトの介入を最低限に抑えると……」

「あえて我ら以外にも扱えるよう、巻物の形を取らせたか。フム、これなら使い魔にも持たせられるのぉー。」


「これ法定通貨と換金できるけど、みんなが使うようになったら価値が高まるんだ。……これを安いうちに買って、価値が高まってから売るっていうお仕事もできるようになるよ。」


「なにっ!! それではまるで土地転がしではないかっ。いや、しかし土地よりも随分手軽すぎないか!」

「無理して金を稼がなくとも、これの価値を上げていけば……ふふふ……あの研究に没頭する資金作りにっ……」

「使い魔に稼がせるかの……。最近の魔法理論特許、ことごとくウケが悪くて金にならんくてなぁ……。」


はい、仮想通貨取引にも興味持ってくれる人けっこういましたー。

彼らは研究第一だから、適当に放っておいて稼げるビジネスは歓迎らしい。本当は好きな研究で稼げたら良いけど、そうそう儲からないんだって。研究する時間を取られるのも嫌だし、最低限の努力で生活費と研究費を稼ぎたいんだろう。なんか俺よりもある意味俗物だ。


というわけで、最初は俺達の周りの魔法使いたちがこの「魔素通貨」を使うことになった。元々魔法使い同士で頼み事したり、研究の相互助言とかしてたらしいんだけど、それのお礼をこれで払っていくスタイルにする。そうすると、結構遠くの魔法使いなんかにも話が伝わって、季節が変わる頃には魔法使い連盟なんかが取引所を作ったりしてくれた。

元々カネに余裕があった貴族の魔法使いなんか面白がっちゃって、王宮や一般人からの依頼も全部「魔素通貨」でのみ受け付けるようになった人もいた。そのせいで魔法使い以外もこの取引用の巻物を入手して、魔素を取引所で購入したりして……。まさに新しい仮想通貨の流通が始まった。

今では魔素通貨の相場をチェックして取引所とやり取りする用の巻物なんてのも売ってるんだぜ。


俺? 俺は今でも魔法使いと暮らしてる。家事を続けて欲しいってのもあるらしいんだけど、一番大きいのは俺の世界の文化を聞きたがるようになったからかな。なんか異世界の未知の物を、いかに魔法で再現するかってチャレンジにハマったらしい。最近はずっとその話ばっかりだ。


「なるほど……遠く離れた相手と同じ遊技盤を写して、即座に勝負を進められるようにするのか……」

「人形みたいなの動かして格闘させる遊びは人気あったなぁ~。俺はあんま遊ばなかったけど、最近じゃ視界を全部覆って異次元にいるみたいにする装置とかあったよー」

「格闘っ……! 異次元っ…! これが実現すれば……新たな精神対話の手段を確立するだけでなく、かの身体認識限定の法則を覆すことになるぞ……!!」

ガタッ ドタドタドタッ

「俺はむしろ飛び道具持って複数対複数の生き残り合戦に参加する方が多かったかなー……って、あーこれ絶対聞こえてねぇなー」


取引も、まぁボチボチやってる。結構価値も上がってきたんだぜ。家事の合間にちょいちょい巻物いじって、気分はデイトレーダーよ。

魔法使い連中どころか、最近魔素通貨に興味を持った一般庶民の通貨所持数にも負けてるけどな!!

というかよくよく考えたら、取引する元手が最初殆ど無かったんだよね。異世界きてずっと無職だったし。


「いかん! 念話体系論の書物をもっと参考に読まなければっ……連盟の書庫へ…いや、こうなれば王宮魔法管理書庫の閲覧許可を…!!」

ドンッ……ドタドタドタ……ッ

「…あ、これ俺も一緒に連れてかれるパターンですねー。」


「なにを悠長にしているのだ! さぁ王宮から許可が下りるまで、連盟書庫に泊まり込むぞ!!」


家事より取引より、毎日こうやって魔法使いの相手してる時間が一番長いんだよね。

……なんか俺、頑張る方向性間違えたかなぁ?

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