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チート魔術……っていうか科学なんですけど  作者: Richard Roe
1.バーチャルファイター with [Luminous Dancer.apm]
7/46

5.5

 俺とて無抵抗で『La Cosa Unione』に捕まったわけではない。

 ただ、予想以上に歯が立たなかっただけなのである。






 マフィア企業『La Cosa Unione』は非常に綺麗な外装をしていた。

 ガラス張りの開放的設計、流線形状のビルディングフレーム、上品なレタリングで『La Cosa Unione』と社名が刻まれている。高級感と近代感が両立しており、どこかしら企業全体に格調高いイメージを想起させる。

 遠くから見ても分かる。あの会社は『La Cosa Unione』だと。企業の外装だけで、見て分かるブランド感が既に漂っているのだ。


 マフィアでありながらブランド、それが『La Cosa Unione』。格調高い気品、彼らはある意味サザンマフィアのブランドと言っても過言ではないだろう。

 帝国南部に蔓延るマフィアグループ、それらをサザンマフィアと総称する。しかし実態はというと、『La Cosa Unione』とその他有象無象の二つに分かれる。『La Cosa Unione』はサザンマフィアの最大手であり、南領域のインフラ、市場、産業、全てに広く手を出している。南部の経済は『La Cosa Unione』の元にあると言って過言ではない。

 南部の独立政府、そう揶揄されるほどに大きな存在。それが『La Cosa Unione』。


 俺は正直、彼らのことを苦手としている。彼らはただのマフィアではない。エリートなのだ。

 高いブランド性はすなわち、高い能力を意味する。当然マフィアも能力社会、自然な結果として『La Cosa Unione』には有能な人間が集まるようになっていた。

 それゆえに、仲間を切り捨てる。損得勘定が非常に速い。例え仲間の下っ端だとしても、損になると考えたならば直ぐに使い捨てるのだ。

 油断がならない。いつ牙を剥くか分からない。ビジネスライクな連中、インテリヤクザ。


 俺は少しばかりの不安を胸中に抱いていた。


(……?)


 その不安はまた別の形で的中することになった。

 人影だ。『La Cosa Unione』の姿がはっきり見え、あともう少し歩けば到達すると言うところで、誰かがそこに立っていた。

 その堂々たる体躯は平均身長よりも高く、よく鍛えられた肉体であることが見て取れる。かといって戦いなれているような様子は見受けられない。重心が高いため、姿勢が戦士のそれではない。むしろ規則正しいロボットを髣髴させる。


 いや、まさにその通りロボットだった。

 機械であった。堂々の体躯は金属めいている。外骨格はぱっと見でチタン。四肢は全てピストン駆動を外骨格で覆っているようで、その実は炭素ファイバーによる運動補助までなされている。つまりメタルフレームの強度と筋肉駆動による柔軟さを兼ね備えているわけだ。

 これはサイバネティクス・オーガニック、略してサイボーグと呼ぶべき代物だ。


 サイボーグがどうしてこんな所に。

 そう思ったタイミングで、そいつは動いた。こっちに向かってゆっくり歩き出した。何だこれは挨拶か、挨拶すればいいのだろうか。

 俺はそう思い「どうも、こんにちは」と軽く頭を下げた。


「Enemy in sight.」


 え、敵発見とか言われちゃったんですけど。

 テンパっていると「Activate system: Combat mode. ――"Cast on."」という機械音声。コンバットモードって戦闘モード? と和訳しながら気付く。

 "Cast on?" それってバーチャルファイターの変身の掛け声だよな。

 などと思っている束の間に。


 突如サイボーグは変身した。バーチャルファイターに。その肉体はいつの間にか迷彩が施されていた。向こう側の景色が投影されて透けて見える。ランダムフラッシュにより体がサイケデリックに輝き、フラッシュパターンは綺麗だがずっと見つめていると頭が痛くなりそうだ。

 なんだこれ、こいつ何物だ。


「call "Ippon."」


 へえ、コール一本って言うのか。なんて思っていると、本当に間抜けな話だが。


 俺の腹部に強烈な衝撃が走った。

 『パパ!?』とフリッカの心配するような声が聞こえる。

 俺は遅れて、いま吹き飛ばされていることに気がついた。


「て、めえ!」


 吹き飛ばされつつ空中で態勢を整える。ごめんそんなの無理。吹き飛ばされる物体は当然フリーなので、回転力に身を任せ空中で錐揉みしながら吹き飛ぶしかない。

 しかし俺はそれを調節する。俺が無理でも『Auto_Run.apm』は可能だ。物理演算エンジン『Ph.D.Engine.apm』が計測する俺自身の運動を、俺に負荷が掛からないように計算、衝撃を殺す形での軟着地を可能にする。俺の加速度がセンサされ、絶対座標と時間変位を導出することしばらく、近似的に得られる運動方程式を俺は見た。ダッシュボードに記述される予測軌道と、オートランが自動調節する重心運動で、回転し過ぎないように足の裏から着地。


 無事俺が着地すると同時に、サイボーグは目の前に接近していた。


「このやろ!」


 一旦カポエイラの蹴り技で牽制。ケイシャーダの基本技から一旦後ろに飛びのいて距離をおく。

 距離をおくことは重要だ。間合い一つで命を落とす。


 サイボーグは離れることを許さなかった。俺が飛び退いた分しっかりと距離を詰めていた。なるほど接近か、それならこっちにも用意がある。


「cast(Fire_Bullet);」


 炎の弾丸を連射。俺の目前に魔法陣と数十の弾丸炎が生成され、サイボーグにむかって雨あられに降り注いだ。

 連射の効く小型魔術。同時に破壊力はそれ相応。

 サイボーグのように機械で出来ている敵ならば、CPUなり制御器なりが破壊されたらそれだけで機能停止だ。よってこのように小型魔術でも相性がいい。


 下手に接近した分回避できまい、破壊されるがいい。

 俺はそう確信した。

 それは相手の「call "Cancel."」という機械音声を聞くまでのことだった。


 魔術が掻き失せた。

 初級の魔術キャンセラーだと気付いたときには既に遅く、第二撃を受けて俺は右腕が折れたのを感じ取った。

 激痛が俺を苛んだ。思わず叫びそうになって、オートランが自動的に感情制御痛覚マスキングを実行した。おかげで痛みが和らいだ。


「こいつ初級の魔術キャンセラーを駆使するサイボーグかよ。無詠唱で複雑工程の魔術を出力するのは骨が折れる、あるいは中級以上の威力の高い魔術を使うのも同様に難しい。随分戦略を制限してくるな、ただの機械の癖に!」

「call "Ippon."」

「おっとさせねえ!」


 無詠唱で緊急展開障壁魔術を発動、しかしそれをも容易く破壊してくる鋼鉄の腕。

 あ、これやばいかも、そう思いながらオートランに任せ防御をする。受け止めた左腕が、文字通り骨が折れた。何ていう骨の折れる戦闘だ(物理)。

 痛覚マスキングが無かったら卒倒していたところだ。


「くそ、足技で対抗かよ!」

「call "Ippon."」

「やめろ!」


 今度のIpponは物理演算エンジンの軌道予測をフル活用して回避した。その際に「Cast(Full_Battle_Orchestra);」を発動させ、肉体強化を施しておく。自動回復に100%回していた体内マナを少しばかり肉体強化に回すことになるが、その価値はあった。

 少し回避するのが楽になったのだ。


 相手の動きは良く見ると単調だ。機械なのだから当然だろう、戦闘パターンは予めアルゴリズム指定されたルーチンしか不可能なのだから。

 これはオートランの自動学習が追いつけば、余裕で勝利出来るだろう。それまでの辛抱だ。

 俺は自分に言い聞かせた。今は回避する戦い、そのまま回復を待ち腕を治す、そうしてからの必殺だ。

 少しばかり気持ちも楽になる。笑顔を見せる余裕も出来るというものだ。


『パパだめよ!』

『え?』


 フリッカの忠告に気が取られること数瞬。恐らくこの数瞬の間に自分で動けば良かった、と後からの後悔。なんと、目の前のサイボーグは駆動パターンを変化させたのだ。

 相手には戦闘パターンが複数存在するのか。俺はその事実に驚愕した。

 オートランの予想ならば一旦安全のため距離をおくはずなのに、今回はどうやら防御を捨てて接近してくる作戦らしい。おかげでオートランも想定外の接近で防御が後手に回った。


 オートランが攻撃を弾き損ねた。胴体ががら空きの大ピンチだった。相手は必殺の態勢に入っている。どう考えても拳が俺の胴体にクリーンヒットする。

 あ、これ詰んだ。


「call "Ippon."」






 俺の意識はしばらく濁流の中にあった。

 「素晴らしい性能だ、この軍用サイボーグ『サイボーグ・パワード』は」「そうでございましょう、グランド・パードレ様」「これなら満足だ、開発資金を出した分は満足した」という会話が聞こえてきた。薄目を開けると、初老の紳士とモブ黒服がそこにいた。

 誰だこのおじいさんは。グランド・パードレ? そんな奴いたな、誰だっけ。ああ、マフィアのボスか、ああこのおじいさんが。へえ。

 そう思ったのもつかの間、意識が安定しなかった。


 『パパ! 大丈夫!?』『う、あ、』と意味のない会話を娘としていた気がする。

 そのまま俺はその体を引きずられる羽目になった。

 これが俺が牢屋に入る事になった顛末である。

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