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チート魔術……っていうか科学なんですけど  作者: Richard Roe
3. Captain of Love with [Utahime_NAVI.apm]
34/46

3.

『パパ聞いていい? 多分聞かないと命に関わると思うんだけど』


『どうしたフリッカ?』


『バイクの免許は持ってるの?』


『今インストールしてる途中』


『インストールって何!?』


 悲鳴をよそに、俺はフリッカを前に乗せてバイクの二人乗りを実行していた。背中じゃなくて前にしたのはフリッカが大人じゃないからであるが、なかなか走行が邪魔されて結構危ない。

 バイクのギアはフルスロットル。

 ブレーキングと車体の倒し込みでコーナーを曲がるバイクを最適サーボ制御駆動。オートランは物凄い速度で学習を開始しており、俺の生存確率を秒単位で向上させてくれている。

 つまり俺は今マジでやばい走り方をしている、というわけだ。


『やばいよやばいよやばいよ!』


 お笑い芸人のようなリアクションを返すフリッカだったが、あながちその心配は間違ってはいない。俺の走り方が乱暴すぎるのだ。

 通行人の間を針を縫うように精密に走り抜ける。人混みを爆走するバイク、というやばい光景が広がっている。

 クラクションがあって良かった、と思う。けたたましく鳴らすことで、モーゼの奇跡のように人の海が割れていくのだ。すげえマナーの悪いバイクの乗り方だ。というか非常識極まりない。


「待てー!」「待て待てー!」「待つんだー!」「うわー!」「どうした!?」「無事かーい!?」「きゃー!」


 後ろからついてくるのはコマワリmark2。車輪で走りながらもビルにワイヤーを打ち込んで立体駆動で縦横無尽に俺たち二人を追い回す。

 だが所詮は機械。俺が軽く画像解析認識齟齬の魔法をビルの特徴点にかけておけば、ビル画像のヒストグラム解析をしようとして失敗したコマワリmark2が落下するのだ。


「くそー!」「卑怯なー!」「仲間の仇だー!」「行くぞー!」「まだまだー!」「小癪なー!」「覚悟ー!」


 それでもリカバリーは早い。落下したところですぐに仲間が拾い上げるのだ。

 おかげで余り距離が稼げてない。寧ろ徐々に追いつめられている感すらある。このままではバイクで事故するかコマワリmark2に追いつかれるかでやられてしまうだろう。


「言理の妖精語りて……きゃあっ!? 」


「フリッカ!?」


 援護射撃しようとしたフリッカに、突如水鉄砲がぶちまけられた。いや、水鉄砲どころではなくホースによる放水攻撃だ。

 なるほど射撃だと市民を巻き込むからという配慮なのだろう、しかし慣れないバイクをフルスロットルで走らせる俺がそんな攻撃を受けたら言うまでもなく横転する。


「うおおっ!?」


 しかし横転するところを辛うじて持ちこたえる。一瞬だけ激しく車体がぶれるが、倒れそうになる車体を、膝すりハングオンから急旋回して火花を散らしながらも持ちこたえさせる。

 放水攻撃の第二の効果に気付いたのはその時だった。スリップするのだ、タイヤが。

 辛うじてこらえたからいいものの、本当に運が良かったとしか言いようがない。恐らくさっきの放水で俺とフリッカはバイクから投げ出されて捕まっていた、はずだったのだろう。


 奇跡的に持ちこたえたのは、オートランの学習とドライバーライセンス(ride sense)のインストールに間に合ったからだ。


『間に合ったぞ!』


『本当!?』


 間に合った、これで希望が見えてきた。

 今までのマニュアル(手動)操作では、バイクは所詮180km/hしか出なかった。速度制限があるからだ。

 しかしライセンス取得によりバイク内制御中枢デバイスにアクセスすることが可能となり、ここからはバイクによるオートドライブが実行できる。

 しかもリミッターなどの制約モジュールを今し方俺が書き換えた。つまりこのバイクは違法速度で走る暴走二輪駆動車になったわけだ。

 速度は優に300km/h、ハヤブサ級の走りが出来る。


「よっしゃここから俺たちの反撃のターンだ!」


「これで反撃に集中できるねパパ!」


 後ろを振り向く。

 コマワリmark2たちが「くそー!」「小癪なー!」「逃がすかー!」「攻撃だー!」などと賑やかに俺を追いかけてくる。ホースによる放水攻撃も遠慮なくバンバンと実行してくる。

 しかしそれを避ける、避ける、避ける。

 オートドライブってこんなに性能良かったっけと思うぐらいに回避する。


「……? 300km/hのはずなのにコマワリmark2が引き離せない?」


「……あれ!? パパおかしいよ! コマワリmark2も加速してる!?」


「おいおい嘘だろ、公安委員会のロボが交通速度違反するのかよ……」


「それ言うとパパも元公安委員会のサイバー四課出身だよね……?」


 放水攻撃をファイアバレット連射で撃ち落としながら、俺はコマワリmark2たちを見据えた。どうみてもあいつ等も300km/hを実現しているように見える。

 一般にコマワリmark2たちなどの警察車両には速度制限がかかっており、上位権限を持つ指揮官が現場に居合わせない限り、超法規的措置は取れないはずなのだ。

 意味することは一つ。

 指揮官(今回は恐らく歌姫NAVI)が現場に居合わせているのだ。


「パパ怒らないで聞いて? 降伏しよう? そしたらパパもきっとこんな風に追い回されることなんかないのよ」


「断る。どうせ俺は犯罪者扱いだ。しかも、フリッカと共に追い回される方がフリッカを失って平穏を過ごすよりいいんだよ」


「でも」


「なあフリッカ。パパさせてくれよ。……追い回されることなんか、どうだっていいんだよ」


「……でも、フリッカが嫁いだほうが目的の達成になるのよ?」


「尚更だめだ。いざとなれば警察や三代機関のコネクションを利用して俺たちを脅すような奴らと手を組むのは、余りにも危険すぎる。一方的に利用されるだけになるだろうさ」


「……」


 急に弱音を吐くフリッカを宥めつつ、俺は放水攻撃で放たれた水を操って地面を凍らせていった。ハイドロプレーニング現象でコマワリmark2たちを足止めするのだ。

 タイヤがスリップして、その先に障害物があれば衝突する他ないはずだ。

 程なくしてコマワリmark2が一体、電柱に衝突して停止した。


「例え橙の魔術師に利用されるとしても、最低限パパを守るように約束させることは可能なの。だってフリッカ、この世で二番目のハッカーなのよ?」


「危険すぎる。却下だ。フリッカはもう少し自分を大事にしろ」


「物はやり様よ。お願い、パパ」


「もっと別の方法を考えようフリッカ。物はやり様だろ? したくもない結婚なんかしなくていい」


「……」


 沈黙するフリッカ。それだけでフリッカの今の心情を推して知ることが可能であった。無言のまま静かに考えている。

 対照に、状況は限りなく騒がしく忙しい。

 飛び交う放水攻撃と火の弾丸、公道を爆走する300km/hのカーチェイス。

 一瞬が命取り。


「……見つけたであります!」


 まさにそんなタイミングで、歌姫NAVIは現れた。






『――続いてのニュースです、国際的犯罪者、朱の魔術師アルフレート・ユーラー、公道をカーチェイス、逮捕まで秒読みか』


『公安委員会の調べによると、朱の魔術師は小説『バーチャルファイター』の著者、フリッカさんを誘拐したものとみられ』


『知ってますか! 朱の魔術師っていうやつは所謂ペテン師ですよ! だってあんなに虫の良い話、あり得ないでしょ! 何がカガクですか! 口先八丁の出任せを言って、やれ「スタック再帰はあります!」だとか嘘を並べ立てるんですよ!』


『いやはや、最近の若者は知識さえあれば何でも出来ると思いがちで困ります。朱の魔術師だとかは、知識がなまじあるけどモラルが育たなかった典型的なアダルトチルドレンだと』


『尚、誘拐の動機について、同じ極彩色魔術師の橙の魔術師ジャハーン氏は、「フリッカとの婚約を発表しようとしたら、突如怒り出した」「フリッカと結婚するのは俺だ、と怒鳴った」「その後フリッカを誘拐して逃げた」と語っており、公安委員会は』


『いやー、誘拐したところで彼女の心なんか手には入らないのにねえ、馬鹿なことするねえ、って思うんですよ。勉強ばっかりやってると頭おかしくなっちゃうのかな。やっぱ人間は心ですよ心』


 ニュースの報道はいつも通り俺を攻撃するものであった。ネットの内容も似たような物だった。


『朱の魔術師とかいう、前髪黒その他白みたいなツートーン中二メッシュ入れちゃう奴が国家魔術師になれちゃう時代って』


『そもそもカガクとかいう胡散臭い理論でのし上がったんだろコイツ』


『亀レスだけど、何か理論を否定出来なかったみたいだよ。神がいることを証明せよ、みたいな悪魔の証明でのし上がった口先八丁魔術師らしい』


『見た目チャラ男なのにロリコンとか帝国終わっとる』


 そして、ニュースの内容もネットの書き込みも、歌姫NAVIが出てくると一気に変わるのだった。

 ミニスカポリスのNAVIたんが来た、と。






「もう逃げられないでありますよ!」


「逃げられないぞー!」「ぞー!」「だぞー!」「いえー!」「逃がさんぞー!」「そーだそーだ!」「いくぞー!」


「何でNAVIお前ミニスカでヘルメットもなしに走ってるんだよ……」


「障壁展開によって風圧を防いでいるであります! アイドルにとって顔は命であります!」


「いやお前アストラルネットワーク内の電脳アイドルだろうが、現実世界にどうやって顕現しているし」


「投影魔術であります! エピソードブラザーズにより実写化されたであります!」


「なるほどよく分からん」


 300km/hで繰り広げられる地上最高速のコミュニケーションに、無粋なまでに飛び交う魔法、魔法、魔法。

 こちらがファイアバレットの連射をすれば、向こうはアクアバレットの連射で応戦。ファイアバレットは炎という名のプラズマ体であり、アクアバレットは質量体として桁違いの密度を持つ液体だ。結果的には相殺のように見えて、やや俺の方が打ち負けていた。


 しかしそこにフリッカがいる。彼女はmirror_castが使える。俺ならば物理演算エンジン『Ph.D.Engine.apm』による空力弾性シミュレーターなどを立ち上げないとダメな物理計算を、彼女は即座に出来るのだ。

 脳が違うのだ。俺の脳の計算速度は一般的なコンピューターと良い勝負かそれに劣るかぐらいだが、フリッカのそれは優に百万倍を超える。量子コンピューティングデバイスまであるので勝ち目はない。

 彼女のサポートにより、打ち漏らした相手のアクアバレットに対してmirror_castしたアクアバレットをぶつけ、相殺が可能になっているのだ。


「ねえパパ、つっこむ場所はそこじゃないわ。……あの足よ」


 若干引きつった顔でフリッカが言うに「『知識』のママ、走っているわ、足で」と律儀に指摘する。

 そう、ダッシュなのだ。ミニスカポリスの歌姫NAVIは、あろうことか恐ろしい速度で走って300km/hの速度を実現し、俺たちに差し迫ろうとしていた。

 そう言えばオリエンタル・ジャポニズム文化には、ナマアシなる美学が存在すると聞いたが、なるほどこの歌姫NAVIのカミカゼ・スピード振りを見るに本当のことらしい。


「ああ、足で走ってるな。おかげでパンチラギリギリでかなりあざとい。小振りな胸のはずなのにちょっと揺れてて、それが柔らかそうなのを演出してるのがまた」


「気にする場所はそこじゃない気がするけど!」


「そうか? お陰で今NiceNice動画のNiceをめちゃくちゃ稼いでるの、歌姫NAVIの生中継だろ? 再生回数もう百万になりそうだってさ。笑いあり、サービスシーンあり、スピード感あふれるアクションありとなかなかどうして素晴らしい」


「もう! そんなのフリッカがいくらでも見せるってば!」


「そういう問題でもない気がする」


 そんな会話をよそに、俺は状況を再び整理する。

 爆速で走りあげる歌姫NAVIに、ファイアバレットといくつかの幻影魔術を沿えて発射。歌姫NAVIはそれらを正確にアクアバレットで撃ち落としていく。

 アクアバレットが幻影魔術にぶつかろうとしたとき、幻影魔術は実体がないのでそのまますり抜ける。それを計算にふまえ、俺は敢えてアクアバレットを放たれても俺にぶつかりそうもないようなポイントを狙って幻影魔術を生成し、歌姫NAVIをこれはファイアバレットの幻影なのか本物のファイアバレットなのか混乱させる作戦にでている。 

 これで、有効魔術攻撃数は実質倍以上。時々幻影魔術に本物を混ぜれば、歌姫NAVIも百%を無視するわけにはいくまい。

 デメリットはない。強いて言えば、これで手一杯、というところか。これだけの速さで幻影魔術を連射するのは普通に難しい技術だ。オートランの補助があってようやく今歌姫NAVIと互角、といったところか。


「ねえパパ! 良いニュースと悪いニュースがあるの」


「悪い方から!」


 そんな風に手一杯の俺に対して、同じく手一杯であるはずのフリッカが声を掛けてきた。しかも良いニュースと悪いニュースときた。


「悪いニュースね。パパの預金口座が凍結されたわ」


「構わん、クラックし直せる! ……で、良いニュースは?」


「橙の魔術師ジャハーンとの婚約、帝王側が正式にOKしたらしいわよ」


「何も良くねえ」


 吠えながら俺は答えた。

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