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チート魔術……っていうか科学なんですけど  作者: Richard Roe
2.My Sister, My Princess with [Auto_Run.apm]
31/46

17.

 さて後日譚。


「ねえパパ、家はペット禁止なんだけど?」

【ペットでもいいけどペットじゃねーよ、姫だよ姫】

「メンヘラこじらせた女が自称姫とかフリッカ超受けるんだけど」


 いつぞやか、ホテルに帰ると黒の魔術師アミィがいた。

 どうやってかは知らないがアミィは俺のホテルを特定できたらしく、俺の部屋に勝手に入り込んでいた。

 そこでフリッカと鉢合わせて、今ご覧の通りという訳である。

 しかし場所を教えていないのに何で俺のホテルがわかったのか、というところに寒気を感じる。もしかしてストーカー?


 それに聞き捨てならない発言があった、ペットでも良いってどういうことだおい。

 ペット。まあ、何というか悪くはないが。


 どうでもいいところに引っかかりつつ、俺は二人を回避してベッドの上に座る。

 あの騒いでいる二人に巻き込まれては敵わない。


【そばにいろ、って言われたことのない女は惨めだな、せいぜい粋がって嫉妬してろよ】

「図々しい女ね、一回パパに手を出された程度で恋人面、ていうかそもそも一回も手出されてないじゃん、超惨め」

【娘の癖に偉そうな】

「妹の癖に出しゃばらないで」


 こういうのキャットファイトって言うんだっけ、実は傍から聞いててちょっと楽しい。

 どちらかというと肝が冷えるし、あと地味に俺が遠回しに責められているような気分になるので罪悪感が刺激されるのだが、まあどっちも俺に好意を持っているんだと思うと正直嬉しかったりする。


「でもまあ止めろ二人とも。正直二人が争っているのをみてて良い気分ではない、冷や冷やする」

『嘘ね、パパこういうの喜ぶ人よ?』

【嘘だな、お前クズだから絶対楽しんでる】


 ばれてた。






「女装ネット中継作戦は成功。まず俺の『英雄性』とやらを低くさせることに成功した。ネット中継することで、認知の圧力をうまくコントロールして俺に有利に運んだ。アミィを全国レベルの知名度を誇るアイドルに押し上げた」

「そうねパパ」

「それだけじゃない、BitCoinは結構儲かった。『ジト顔ブラッド★ミルキー』という新コンテンツも生み出した、おかげでファンタズマを纏う種類が増えた」

「まあ、そうだけど」


 俺は今回の戦いの結果をもう一回思い返した。

 全くもって収穫しかなかった。


「さらにはネット中継で白の魔術師(白の教団記録天使)をセクハラしたことにより、副次的効果として聖女様の神聖さのイメージを汚すことに成功。つまり、白の魔術師にかかる神聖さの認知バイアスは弱まった。更には俺ががっしりホールドしてホワイトノイズ印加式魔術ジャミングシールを埋め込んだことで、それを剥がすまで向こうは弱体化している。敵の弱体化まで果たしてしまうこの俺の計算高さよ」

「……」

「加えて俺は、オートランにより三〇分じっくりかけて白の魔術師エスリンを学習した。あいつの魔力の量、外見、マナ色相パターンマップ、匂い、それらのデータを記録した。俺の認識能力が例えエスリンに操られたとしても、オートランが俺のかわりに認識してくれる。つまりエスリンは俺をだますことが出来なくなったわけだ」

「……」


 相手の弱体化に加えて相手のデータ採集までしてしまうこの俺の完璧な立ち回り、自分の中では百点満点で非の打ち所がないと思っている。

 合理主義的な深慮遠謀。そのためのセクハラ。

 だというのに何故だか、フリッカはジト目のままであった。


 セクハラは俺は大成功だと思っている。

 全国ネット中継で行われた聖女様セクハラ公開処刑は相当人気を集めたようで、PVが百万の大台に乗ったかと思ったら一気に伸び続け、後もう少しで一千万に行くかどうか、までになったのだ。

 悩ましい声で悶絶し続ける天使の姿は大変好評で、YourTubeやニケ動では今現在でもPVが伸び続けている始末。多分あと一週間で一千万回行くわ、というレベルだ。


 何が大成功かというと、記録媒体で彼女を捉えたというのが大きい。

 今までは人の認識を操ることでさまざまな場所に潜入していたに違いない認識の記録天使エスリンは、こういう記録媒体などにその姿を捉えられることはなかったはずだ。あったとしても、目立つようなポジションではなかったりそれとなく認識されにくいように立ち回っていた。

 だが今回はそうは行かない。

 直視するのも憚られる色っぽい姿、視聴者のインパクトは非常に大きかっただろう、認識できるかできないかとかそんなレベルではなく目を離せないレベルで記憶してしまった。


 こうなってくると人の無意識を突くというのは難しくなる。いくら認識齟齬などをフル活用したところで、インパクトが大きくなればなるほど人の認識をだますのは難しくなるのだ。

 これから白の魔術師エスリンは、認識齟齬に裂く魔力を多くしたり上級の認識齟齬魔法を使うなどの手間を増やさなくてはならないはずだ。


「パパそうやって理屈を後から補強してセクハラを正当化してるけど、本音はあれでしょ、思いっきり触りたかったって」

「はい触りたかったです」

「……」

「いや嘘どっちかっていうとめっちゃ腹が立ったから性的なお仕置きを下したかったというか前一回偶然胸触ったときにめっちゃ反応が敏感だったからこれ思いっきりやったら楽しいだろうなあと思ったっていうか何かごめん」

「…………」


 ますますジト目具合がひどくなった。

 そうなのだ、楽しかったのだ。悶え苦しみながら反応しないように堪え続けているエスリンの姿を見ていると、ついオートランによる最適制御でそれを妨害したくなるというか、最適解でいじめたくなったというか。


【本当スケベ丸出しだったよな、なあ兄よ】

「一応突っ込んでいい? お前なんでナチュラルにこのホテル居座ってるの?」


 フリッカにジト目で攻撃されている俺は、とりあえず話題の矛先をアミィに変えた。


 黒の魔術師、妹のアミィ。

 【いや別にいいじゃねえか兄と妹なんだから】とへらへら笑っている彼女の姿は、今は落ち着いたシックな格好である。

 服装のコーディネートが世間一般の女子のファッションと遜色ないのを確認して、俺は、妹も成長したなあとしみじみ感じた。

 もうあの頃の、俺がいないと何も出来ないアミィじゃない。


「いや別に居てもいいけどさ。ビスケット食うぞ」

【おう、お好きにどうぞ】


 俺は立ち上がって机の上にあるビスケット(アミィの差し入れらしい)を手に取った。

 アミィはそう、料理だって出来る。お菓子作りも出来る。もうアミィは守られてばっかりのお姫様でもペットでもない。

 今はもう、立派な一人前の魔術師だし、そして立派な一人のアイドルなのだ。

 ビスケットを口に含むと、ちょっと大人な味がした。


「美味いなアミィ。……お前、変わったよ」

【ん? まあそうだろうな。変わったら駄目か?】

「いや、変わって正解。その方が活き活きしているっていうか、人生を生きているっていう感じがする」


 【どういう意味だよそれ】と苦笑するアミィ。


 俺は思う。

 本当ならばこの兄と妹の間には、もっと交わさなきゃいけない会話があるはずなのだ。あの映画館での独白だけでは足りない、もっと言葉を尽くした長年の思いのぶつけ合いが。

 そう、この兄妹はこじれすぎた。お互いに思うところがあって、お互い何かしら苦味というか感情的な苦悩のようなものを抱えていて、だけどもずっと長い間その思いを積もらせるばかりだった。


 でも、これでいいような気がした。

 その殆どは伝え終わった気がするのだ。多分足りないけど、しばらくはまだこれでいい。心の中にあった最も大事な何かを伝え終わったはずだから。

 ――ずっと一緒過ぎてね、勘違いしたの。……これからもずっと、一緒に着替えて、遊んで、お風呂に入って、寝たいなって。

 ――私は! 兄にならっ! 良かったんだ……っ!

 回想の言葉は、かなり鮮明に俺の中に残っている。


【……じっと見られると困るんだが】

「悪い悪い」


 本当、アミィは変わった。

 言葉にするならば、彼女は運命を変えたのだ。

 未来ではアイドルとして成功していない「ゲス顔ブラック★キャンディ」は、しかしその運命を変えて、今ネット上で密かに話題になっている。


 俺がネット中継をしたからなのかも知れない、だがしかしそれは最大の要因ではなくきっかけでしかないと俺は思う。

 彼女は、ネット中継の中あの歌を恥じることなく堂々と歌いきったから、人気が出たのだ。

 その堂々と歌いきる勇気。皆の視線に晒されてもアイドルらしく振舞おうとする姿勢。

 つまり、彼女は以前の根暗な彼女から『変わった』からこそ、運命を変えることに成功したのだ。


 運命は変えられる。

 そのモデルケースが今俺の目の前ではにかんでいた。






【じゃあ帰るぞ、またな】


 そういって立ち去る妹アミィを見送ることしばらく。


「フリッカ、そういえば運命って存在するのか?」

「あるよパパ」


 ふと気になって聞いてみると、まさかの即答だった。

 運命は存在するらしい。

 「ほら、アカシックレコード(永遠の絵画ギャラリー)のことだよ」と補足してくれるフリッカを傍目に、俺はやべえそういえばそうかもう一人の俺すまんと今更思った。


「ああ、もう一人のパパのこと? 大丈夫よ、そもそもパパも意図して魂を入れ替えたわけじゃないでしょ? 魂が入れ替わっちゃったのはただの事故、誰の責任でもないの」

「まあ理屈では分かるんだけど、向こうの気持ちも良く分かるからなあ」

「いいの。そもそもアルフレートは朱の魔術師になる運命じゃなかったし」

「え」


 マジかよ。


「そうよ、だってパパが異世界から転生した知識を使ったからこういう魔術論理チートが生まれただけであって、元々のアルフレートはその魔術センスを培うことはなかったし、せいぜい普通の魔術師止まり。確かにパパはアルフレートの運命を一部奪ったかもしれないけど、奪い取ったものと別に自力で掴み取ったものもあるから、パパの人生は全部が全部彼のものって訳じゃないの」

「そうか、ちょっとだけ罪悪感和らいだかも」

「そうよ。朱の魔術師になる予定だった人は別の魔術師。アルフレートじゃない。だからパパはアルフレートから朱の魔術師になる運命を奪い取ったってわけじゃないの」

「まあ、それでもまあ少し何かを奪い取ったかもしれん。それは否定できない。だから、まあ、今度アイツがやってきたら、もう一回全力で戦ってやるよ。逃げないつもりだ」

「パパのそういう所、フリッカ好きよ」


 フリッカが隣に座る。

 俺が全てを奪ったわけではない。そんな当たり前の事実の指摘だったが、それだけで少し気が楽になった。

 俺ももちろん清濁飲んで人生を歩んだ人間、別にエゴを押し付けて自分を優先することぐらい必要ならばするが、基本的に必要最低限に抑えたいと思うぐらいにはちょっと潔癖なところがある。

 なので、アカイアキラ(ドッペルゲンガー)のあいつには、少しばかり思うところがある。


 また遠くない未来、戦うこともあるだろう。

 受けて立つ。その方がフェアだ。

 俺はそんな先行きを想像して、心意気を新たにした。


「ところでフリッカ、聞いてもいいか?」

「ん?」

「朱の魔術師になる予定だった人って誰さ」

「ああ」


 微妙に聞き逃せなかった重要単語。

 朱の魔術師になる予定だった人、何となく気になる存在ではある。


 そもそも俺は三つ考えなきゃいけないことがあるのだ、俺のもう一つの人格(これは解決済み?)、俺の浮気相手、そして俺が殺してしまう人。

 もしかして俺が殺してしまう人ってその人なんじゃ、向こうがこっちを襲ってきて俺が反撃したら殺しちゃったとか、或いは俺が知らず知らずのうちに死に追い詰めてしまってたりとか。

 などと想像はいくらでも張り巡らせられるが、まあ考えても埒は明くまい。

 なのでフリッカに聞いてみる。


 フリッカはたっぷり含めて答えた。


「砂漠に生きる不死のアンデッド。リッチーにして魔王。『金の天秤』の首領を努める砂漠の魔王(フンコロガシ)。『蟲の魔術師』、赤い成金(ロスマンゴールド)よ」


 その名前、凄く聞き覚えがあるんだけど。

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