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チート魔術……っていうか科学なんですけど  作者: Richard Roe
2.My Sister, My Princess with [Auto_Run.apm]
29/46

15.

『パパっ! 白の魔術師(エスリン)がやってきたわ!』

『何!?』


 状況が一瞬で悪くなってしまった。

 白の魔術師(エスリン)がもしも加勢した場合、バーチャルファイター(ドッペルゲンガー)と白の魔術師(フリッカ曰く白の教団の記録天使らしい)と戦わなくてはならない。そうなった場合の俺の勝ち目はゼロに等しい。

 認識を操る天使、ということはつまり、俺に対する認知バイアスを自由に操ることができるということなのだから。


『今ようやく状況的に五分五分以上なのは、ネット中継を通じてバーチャルファイターを応援する人とジト顔ブラッド★ミルキーを応援する人が均衡しているからであって、今認知バイアスによる補助を両者が受けている状態に等しい。もしこれを操られてしまうとなると、俺のみが一方的に不利になってしまう』

『大丈夫よパパ、フリッカが押さえ込むから!』

『やめろフリッカ、死んでしまう!』

『命がない物は死なないわよ』


 そんなこと言うんじゃねえ。

 ガツンと説教をかまそうと思ったが、彼女はとっくに臨戦状態に入ってしまったようだ。

 すぐに分かった。劇場のステージから客席を見ていると、客席の頭上を激しく飛び交って戦う天使が二人いる。二人とも背中から羽を生やして交戦し、強力な白魔術をぶつけ合っている。


【え、白の魔術師、え、何で】

「キャンディごめん! 状況が切迫してる! こっちに来て! お願い!」

【え、何だ、何故】

「ああもうごめん! 来ないならこっちから行くよ!」


 アミィに何とか接近したい。

 しかしそれを許さないのが、立ちはだかるスタミナ切れの発光ルミネセンスヒーロー・バーチャルファイター。随分と俺が振り回したおかげで、向こうは疲弊しきっているようで攻撃にキレがない。

 キレがないのに油断が出来ない。

 一撃一撃はやはり重たく破壊力抜群で、腕で受け流すとしばらく腕が痺れるぐらいの威力がある。


 この状態でも、Ippon!コールがある限りは全くもって警戒を解けないのだ。

 ある意味俺は釘付けにされてしまっているともいえる。


「気付いたかオカマ野郎、俺が無意味に時間稼ぎしたわけじゃないことを。白の魔術師(教団の記録天使)が駆けつけるのを待って状況を改善させつつ、オートランの戦闘学習のパターンをお前に追いつかせるために防御中心で試合運びしていたわけだ。もちろん、Ippon!コールを温存してな」

「この野郎」

「スタミナをこんなに消費したのは計算外だったが、まあいい。白の魔術師が駆けつけた以上、お前の伏兵だか切り札だか知らないがゆらぎ(・・・)はもう動けない。ゆらぎによる不意打ちの可能性がなくなったからには、これからはIppon!ラッシュでお前を追い詰められる」


 くそ。理由その七、俺には協力者フリッカがいるが向こうにはいないためIppon!の連発を牽制できる、の前提が崩れた。


 向こうはIppon!を連発すれば勝てる。Ippon!は回避不可能の理不尽な一撃。破壊力は増強されて現実に投影される。

 それなのに向こうがIppon!を出し惜しんだ理由は簡単だ。俺の背後に強力な協力者(フリッカ)がいるからだ。俺に対してIppon!を放ったとしても、その背中から一撃、大魔術をぶち込んだらそれでゲームセット。

 Ippon!は強力だが、一対一を想定した魔術であって、しかもギャラリーに見せるための魅せ魔術、そのためか発動後モーションに隙が大きいのだ。


【え、そっちに行く? は?】

「そう、キャンディ。あなたとなら戦える。あなたとなら私は!」


「Ippon!」

「ぐはっ!?」


 後ろに大きく吹き飛ぶ俺。斜めに浮かんだ体がそのまま地面に大きく弾んで、俺は一瞬息が詰まった。

 『パンチラwww』『殴られる瞬間の顔prpr』『ミルキー「兄になら!」 俺「えっ」』『ええ腹パンや』『もうそろそろ終わりくせえ』『ミルキー男かよwwww』とかネットのやつらは好き放題である。


【兄っ!?】

「来て、早く! 来てよ!」


 しばらく受けに集中する。絶え間なく響く「Ippon!」が俺の体を蝕んでいく。

 まずは腕をクロスさせて胸部に来る衝撃を殺す十字受け、しかし「Ippon!」の正拳突きが右腕の骨を軋ませる。くそ、短い時間だったけど骨に強化刻印彫っとくべきだったか、と思うも遅く、第二撃「Ippon!」でついに折れる。

 漏れそうになる絶叫。


「く、そ」

「Ippon!」


 今度もまた正拳突きが飛んでくるので、次は右腕のエルボーブロック。肘の硬い部分で相手の拳をつぶすことが目的。

 しかしこれもIppon!の破壊力を殺しきれないようで、折れた場所が火を噴くように痛んだ。

 痛み分け。向こうも拳をつぶしたらしく、随分と痛みに苦しんでいた。俺も同時に肘がいかれそうになったのを感じた。もう一回エルボーブロックしたら肘関節を破壊してしまいそうだ。


「この、こいつ」

「Ippon!」


 腹部にクリーンヒットするベンサォンの正面蹴り。俺は思わず後ずさった。

 カポエイラの蹴りは正直効いた。一気に状況が不利になったことを自覚した。


【でも、どうすればっ、なあ、どっちが本物の兄なんだよ!】

「俺だよアミィ! バーチャルファイターに変身できるのは俺のほうだ!」

【ぅ、やっぱり、そう、なのか? え、でも、どっちも】


 黙れドッペルゲンガー。

 俺は奴に向かって突進体制を取る。取りながら妹へと呼びかける。


「キャンディ!」

【やだ、戦うな、どっちも兄だ、決められない、何だ、どうすれば、なあ、】

「どっちだっていいんだよキャンディ!」


 俺はそのままバーチャルファイターに回し蹴りを食らわした。

 向こうの回し蹴りと相殺されて、体重が軽い分俺のほうが吹き飛ばされた。

 構うものか、叫んでやるとも。


「本物の兄とかどっちでもいいから!! そばに来てそばにいてくれ!!」

【っ!】

「そばで歌ってくれよ!! アイドルなんだろ!!」


 「Ippon!」と宣告が入り、俺はそのままスクリーンに体から突っ込んだ。透過型立体スクリーンの投影ジェルの中に沈み込んで、衝撃を半分ぐらい殺せたのでダメージは少ない。

 だが、出てこようとする俺を待ち構えているのが目に見えているので、俺はあえて投影ジェルの横から脱出しようと体を半分出した。


「――ぶはっ」

『パパ危ない!』

『何!?』


 フリッカがそんな警鐘を鳴らすということはつまり。

 俺に白の魔術師の攻撃が向かって来ているという意味で。


 間抜けなことに俺は、体が半分ジェルにとられている。つまりすぐ逃げ出せない。


「――やってくれましたねアル君、なるほどアル君は賢いですね。あの時のゆらぎ(flicker)と私の会話から『英雄』をアル君のことだと仮説立て、英雄性を失わせるためにあえて女装してネット中継で周囲に非英雄性を認知させる始末。軌道修正にはかなり骨が折れますが」

「!」

「認知を司る私にとっては問題ない。――聖典:旧約聖書『創世記』 第一章 三節」


 フリッカがあわてて白の魔術師に攻撃を仕掛けている。

 しかし白の魔術師(教団の記録天使)は体を白い羽で包み防御をするだけ。

 万事休すか、俺への魔術詠唱は止まらなかった。


 俺がもがいてジェルを掻き千切ろうと焦るも虚しく。


「【神は言われた。「光あれ」】」


 光条が俺を貫いた。






【――お前ら! スポットライト眩しすぎんだろうが!】


 貫いてはいなかった。


 俺の自動展開障壁と。

 俺が出した緊急展開障壁と。

 アミィが俺のために出した展開障壁が重なって。


【私に貢物してくれるファンがいるんだ! 一億も貢いだ大馬鹿者のな! ――ファンには手え出させねえからな!】


 光の槍は、そのまま掻き失せた。

 目を焼くような光の先には、すっと立っているアイドルがいて。


【ゲス顔ブラック★キャンディちゃんだ! 一曲だけお前らに恵んでやる! ぶひぶひ言って応援しろよお前ら!!】


 ようやくジェルから脱出した、ジェルまみれのダサい俺と隣に並んで。

 彼女はこの上なく、やる気に満ちた笑顔であった。

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