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チート魔術……っていうか科学なんですけど  作者: Richard Roe
2.My Sister, My Princess with [Auto_Run.apm]
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4.

【だから! く・う・き・よ・め!!】

『うおおおおおおおおおお!!』


【――お前らー! ありがとー! 全部歌いきったぞ! もうこれ以上恵まねーからな!】

『うおおおおおおおおおお!!』

【うっせー! アンコールする義理なんかねーよ! とっとと物販するぞ! ぶひぶひ言って金を落とせよーお前ら!】

『うおおおおおおおおおお!!』

  

 彼女の曲演目が終了した。

 俺は少しだけ放心状態だった。実を言うと、俺は彼女のためサイリウムを振って応援していたのだった。


 『パパ一生懸命サイリウム振っていたよねー』とフリッカが脳内でからかってくる。

 うるさい、俺は一生懸命な奴を応援したいだけだ。

 ちょっと気恥ずかしいので目を逸らす。目を逸らすというが、別にフリッカがこの場にいるわけでもないので、俺は周りを見回すことにした。


「――ブラーヴァ!!」


 観客の中から最も大きな声がした。手を叩くのは荘厳の雰囲気をかもし出す老人だった。スタンディングオベーションをもって、盛大な拍手を送っていた。

 何に対して感動していたのか。それは知る由もない。

 ただこの男、グランド・パードレは、偉大なる父として、目の前の『偉大なるアイドル』に拍手を送る義務があった。全くもって素晴らしかった。サザンマフィアの矜持として嘘は吐かない、それだけだ。

 本当に尊敬できるものには惜しみない賛辞を。La Cosa Unioneの首領は、観客の中で最も大きく拍手をした。


「……」

『……』


 俺とフリッカは同時に固まった。


『ねえ、アレもしかして、La Cosa Unioneのボスのおじいちゃんだよね。あのツンデレおじいちゃん』

『気持ち悪いこというな、ツンデレじゃねえよ。ていうか、え、見間違えじゃないよな』


 遠目から何度も確認する。

 あの白いスーツ、間違いなく高級品の類だ。解析ツールにかけて鑑定すると、スーツの生地はウール100%、恐らくスーパー120程度の丈夫な高級品と見た。白蝶貝のボタンが落ち着いた高級感を出しており、スーツの袖口や襟元にドッグツースの千鳥格子の模様があって、正直お洒落だ。

 持っているステッキは仕込み杖。中に抜き見の白刃が入っていることが解析された。あと普通にスーツの内ポケットには拳銃まで入っている。

 どこからどう見てもマフィア。


 俺が怪訝な表情で見ていることに気付いたのかもしれない。ひょうきんなおじいちゃんグランデ・パードレはこっちに手を振って「おお、お前か」とやってきた。


「ええ、はい、オマエーです。奇遇ですね」

「拗ねるなアルフレート卿。私もまさかお前と出会うとは思わなかったぞ」


 そのまま何をどう勘違いしたのか、このおじいさんは隣に並んだ。

 え、俺とこのまま駄弁ろうっての? 何それマジか。

 「あの、俺、変装してるんですけど」「私の『目』はとても良いのだよ。気にするな」と鼻で笑うグランデ・パードレ。


 というか隣で突然タバコを取り出して火を付けようとしている。

 なんて非常識な。

 スタッフに告げ口しようかと思ったが止めた。グランデ・パードレが一瞥しただけでスタッフが「ひ」とすくみあがったからだ。全くこのおじいちゃんときたら。


「丁度いい、お前に話があった。お前も私に話があっただろう。バーチャルファイターについて少し話そうじゃないか」

「え、あ、おう。いいぜ」

「突然ずさんな口調になったな。まあいい、お前は敬語じゃない方が楽だ」


 そのままおじいさんはタバコを加えて息を深く吸い込んだ。

 アークロイヤル、甘くて重たい、酩酊感の強いタバコ。お洒落なタバコでちょっと有名だが、これのバニラなんか相当甘い匂いがする。お洒落なものを吸ってる辺りこのおじいさんはマフィアのドンなのだなあと思う。






「バーチャルファイター。結局エピソードブラザーズムービーは映画化を中止した。理由はネット上での八百長疑惑だな」

「そうか」


 『本当!?』と脳内でフリッカが声を弾ませた。

 俺も一応、事の顛末は調べた。俺の調べでは、エピソードブラザーズムービーは、エキストラが集まらなかったことと、エキストラを集めるための企画『ヒーローコロシアム』で不祥事があったらしく、映画化を見送ったという。


 その際、『金の天秤』の幹部が数名、サイバー四課による摘発を受け逮捕。関係者も書類送検にいたる事件になった。

 恐らくだが、その逮捕、書類送検の影響で映画化を見送ったのだろうと予想される。


 映画化を見送った反響はそこそこ大きかったはずだ。『やっぱ八百長かよ』『エピソードさん好きだったのになあ』『いやクソなのは金の天秤だろどう考えても』とかボツボツ意見が出ていた。『どうでもいいけど魔術師達ホントうざかった』とかいう意見も出てたが、概ね反響は、『金の天秤』への非難で終わっていた。


 しかし、映画化中止か。思うところがなくはないな。何と言うべきか、達成感だろうか。

 俺は少しだけ微笑んでいたに違いない。隣でグランドパードレが溜息をついたからだ。


「全く忌まわしい事件だ。我々は軍用サイボーグ『サイボーグ・パワード』に投資していたのに、それをふいにするような真似をしおって」

「お互いさまだろ」

「ふ、だがまあ見事なショーを見させてもらった。感謝はしているのだ」


 ふう、と煙を吐き出すグランデ・パードレ。

 感謝ねえ、と俺は思った。


 実はまだ現在も、『La Cosa Unione』と俺の関係は切れていない。というのも実は、なんと契約を結び治すことになったのだ。

 フリッカの原作どおりに従うことを条件に、しかしヒーローショーにおける興行収入は『La Cosa Unione』に収める。条件が少しだけ変わって、俺とグランデ・パードレは、未だにビジネスパートナーという関係にあった。

 今でも週一回、スラム街でもう一度ヒーローショーを繰り広げているわけだ。俺としても美味しいビジネスではあるので、その提案に甘えさせて貰っているわけだ。


「全く、年をとったものだ」

「どうしたおじいちゃん、耄碌か?」

「たわけ。……いや何、最近感動することがとみに増えてな。お前のあのヒーローコロシアムでの死闘も良かったぞ。だが、今回のアイドルも、どうして中々感動するもんだ」

「おいおいおい、おじいちゃんがアイドルとか言って大丈夫かよ」

「本当に尊敬できるものには惜しみない賛辞を。我々La Cosa Unioneは嘘を吐かん」

「そうですか」


 このおじいちゃん、全くお茶目な御仁である。

 俺は隣でアークロイヤルをふかすジジイと、何だか一瞬だけ一緒にタバコが吸いたくなった。ポケットからブラックデビルを取り出して咥える。そのまま火を魔術で付けようとして、「ほれ」とジジイに気付く。

 グランデ・パードレの手元にZippoライターがあった。火をつけてくれるらしい。


「これはこれは光栄だ」

「ふん、感謝せいよ」


 俺は火を軽く拝借した。

 ジジイの隣で吸うブラックデビルは旨かった。タバコを知ってる人間と吸うタバコは旨い。そして何かの感動の余韻で吸うタバコなら尚更だ。


 ステージは現在掃除中だ。

 アイドルは現在物販コーナーで商品を売っている。

 俺とグランドパードレは、それを傍目にタバコを吸っている。


 『あーっ! パパったら喫煙してる! だめなんだよ!』と脳内でフリッカがうるさいが無視。男には吸いたい時がある。






 ひとしきり一服し終えた後、俺とグランドパードレはタバコの吸殻をポケットの携帯灰皿に捨てた。その後二人して、ふう、と溜息をついたものだった。

 似たような心境だったのだろう。どちらともなくにやりと笑っていた。


「さて、物販に行くぞ」

「え、でももう店じまいっぽいんだが」

「ふん、最後にお前に一泡吹かせようとな。まあ老人の娯楽だ、付き合いたまえ」

「え、止めて下さい」


 そのタイミングで、まさかの「物販に行くぞ」。

 俺は面食らっていた。一泡吹かせるってどういう意味だよ。気付けば俺は普通の口調で止めて下さいと言っていた。普通に嫌だ、普通に嫌な予感しかしない。


「――おや、購入が終わったみたいだな」

「え、終わったってどういうことだ」

「すぐ分かる。着いて来い。別に着いてこなくても構わんが、その場合後で後悔するだろう」

「……着いて行きます」


 何ちゅう横暴だ。俺は目の前のおじいさんに対して内心抗議していた。こいつ無理やり過ぎヤクザかよ。ヤクザだった。

 『うわー……』とフリッカの声が聞こえる。そうだろうフリッカも無理やりだと思っただろ、と思ったが『違うよパパ、ニュースニュース』と耳打ちしてくれた。

 ニュースって何だ。あとジジイの狙いって何だ。何か嫌な事件に巻き込まれそうな気しかしないってばホント。


『あのね、史上最高値のアイドルのデートチケットが売れたんだって! 今日、今。何かね、勘違い系アイドルの癖に一億Cとか気の狂った値段設定のデートチケットでさー』

『もう分かった俺予想出来ちゃった』

『え? どういうことパパ?』


 俺は脳内拡張に逃げようかなあ、なんてどうでもいいことを考えてた。

 何故なら、目の前には顔が死んでいるアイドルが一人、顔が喜悦で歪んでいる狸ジジイが一人だったからだ。多分ゲス顔ブラックなの、このアイドルよりもジジイの方だと思う。


「喜べアルフレート卿! お前にアイドルとデートする権利をくれてやる。お前への労いだ、受け取れ」

【……】

「……」


 全くもって誰も得しない一億Cの使い道を、このジジイは思いついたわけだ。

 いやこのジジイが得しているのか。性質が悪い。

 俺と妹アミィはデートする羽目になった。ちなみに両方とも顔は死んでいる。

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