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「フジ!」
おばあさんが叫ぶと、フジは飛びながらも「ぴい」と鳴きました。
ゆっくりと、けれどもしっかりと。
すっかり飛べなくなっていたはずのフジは、その翼で、おばあさんの元へとたどり着いたのです。
フジはおばあさんの病室の窓際に着地すると、もう一度羽ばたき、ベッドの上に移りました。
フジの体は、ボロボロでした。翼は折れまがっていて、とても飛べる状態ではありません。
それでもフジは、おばあさんの隣まで飛んできたのです。
「ハルチャン」
フジは息も絶え絶えに、けれどもいつものように首をかしげながら、おばあさんの名前を呼びました。おばあさんも、フジ、と名前を呼びました。
「ハルチャン、ナカヨシ。ダイスキ」
おばあさんは、笑いました。
「春ちゃんも、フジが大好き」
おばあさんはそう言うと、ゆっくりと目を閉じました。
フジはおばあさんの手の上に乗ると、最後にもう一度言いました。
「ダイスキ」
おばあさんはその日、ひとりぼっちではありませんでした。
寂しくないし、悲しくない。
一人と一羽は、そっと微笑みました。
とても暖かな、春の日のことでした。




