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フジがおばあさんの家に来てから、十二年がたちました。
おばあさんは八十五歳、フジは十二歳です。
年を取ったフジは羽もボロボロになり、今ではほとんど飛べません。
歩き方もどこか、元気がなくなり始めていました。
「フジ、どうしたんだい?」
桜の花がちらほらと咲き始めたある日のこと。
おばあさんが声をかえても、フジは鳥かごから出てこようとしませんでした。
「フジのごはんを買ってくるからね。そこで待ってておくれ」
おばあさんがゆっくりと玄関へ向かうと、
「……イッテラッシャイ、ハルチャン」
フジは小さな声で、そう言いました。
いつものペットショップで、フジのエサを買ったおばあさんは、とぼとぼと家へと向かっていました。ひらりと目の前を通り過ぎた桜の花びらを見て、おばあさんは目を細めます。
もう十二歳だもの、フジだって疲れるよねえ……。
そう思った矢先、おばあさんの世界はゆらゆらと揺れ、やがて真っ暗になってしまいました。




