ストレス
小恋はドシドシと足を踏み鳴らしながらトイレに行った。大きな鏡の前で神山奏音が長い髪を2つに結っている。
「ちょっと、あなたストーカ?」
神山奏音は鏡越しに、小恋の目を冷たい目で見ながら言った。小恋は眉間にしわをよせた。
「それで威嚇してるつもり?私にはまったく効かないわよ。何度も言うけど、私に関わらないほうがいいわよ。」
小恋は何も言い返せずにいると、神山奏音は、小恋の弱みを握ったのか、どんどん痛いところを突いてくる。
「あら、委員長さん、もうすぐでチャイムが鳴るわよ。それでも委員長?」
「なっ…何よ!今日入ってきたばかりの分からず屋のくせに!」
一瞬、神山奏音は目をさらに大きく見開いて、「まぁ」というような顔をしていた。小恋は言い負かした!と密かに心の中で喜んでいたが、すぐに神山奏音は言い返した。
「分からず屋はあなたじゃないの?私がこれだけ関わらないほうがいいって言っているのに、ストーカーのように付け回ってくる。ね?あら、図星かしら?」
神山奏音は鼻で笑うと、軽い足取りでトイレを出て行った。小恋は相変わらず、はらわたが煮えたぎっていた。
午後練はまったく集中できなかった。詩菜がいやというほどからかってくるので、ストレスはケージ以上を記録した。
「小恋ちゃん、大丈夫?」
何人かの先輩も心配してくれた。そのたび、小恋はとろけるような笑顔で「大丈夫です」と答えた。
クタクタに疲れて帰ると、中3の姉の実恋がいた。実恋は演劇部だった。
「お帰り、小恋」
パステルカラーのふわふわルームウェアーに身を包んだ美人姉が出てきた。
「ただいま」
かばんを床に投げつけると、甘いココアを飲んでいる実恋のもとに寄った。実恋は足を組んで、洋楽を聴いていた。
「どうしたのさ、小恋」
伊達メガネをはずすと、長いまつ毛が顔をのぞかせる。小恋は姉にとても似ているので、その長いまつ毛は、小恋も持っていた。実際のところ、小恋も相当な美人だった。神山奏音が来なければ、それこそクラス1、いや、学校1、2の美人だっただろう。
「今日ね、新しい子が入ってきたの。」
ため息交じりに、小恋は話し出した。思ったことが、マグマのようにドロドロと流れ出てくる。
一気に話し終えると、実恋は眉を顰めた。
「もしかして、神山奏音って子?」
「え、なんで知ってるの?」
小恋の心臓は、ドクンといった。