第7話
図書委員長のニヤリとした表情に一瞬まさかと思いつつも緊張が走るが、少なくとも今敵対するような様子はなかった。佐々木さんが不安そうに「先輩?」と声をかけるとガラッと雰囲気が変わり柔らかな笑顔で答えてくれる。
「ごめんごめん、冗談だよ」
「もおー! ビックリしたじゃないですか!! てっきり私何かやらかしたのかと!」
本当にホッとしたのか佐々木さんがバカバカ!と言わんばかりに図書委員長、田辺先輩にじゃれつくのを見て、意外さに驚きつつも何事もなくて内心ホッとした。田辺先輩の方も満更じゃなさそうでにこにこしてる。
「ごめん、でも昨日僕が手渡してるんだから、怒られるなら僕だから安心して」
「安心なんてできませんー! もうっ!」
学生らしいと言うよりはカップルのじゃれ合いに、何を見せられてるんだろうなと目が遠くなる。まあ、ここは素直に少し呆れている感を出しておくのが正解だろう。
ただし、警戒は解かない。この先輩は、どこか嫌な気配がする。
「んんっ」
わざとらしく咳払いして、にっこりと見ると佐々木さんが可愛いくらい真っ赤になっていた。田辺先輩は余裕のある感じで、笑顔であしらって来るあたり、女慣れしている感があり不信感が募る。
「さて、本気で怒られる前にちゃんと説明するよ。これは個人図書館の書籍だったんだけど、財産整理の一環で当校に寄贈されたんだ。個人の図書館だったから、ラベルも凝っててね、全体的にとても洒落ている上にその蔵書も貴重なものが多いからありがたくいただいているんだ。この本は先に状態チェックも終えたから、佐々木さんは貸出1人目だね」
「すごーい! だからこんな状態も良くて表紙からしてオシャレなんですね!」
「他にもいろいろ寄贈いただいたんですか?」
「うん、興味あるなら放課後に旧校舎の図書室においで。今チェックしているから誰よりも早く本を見れるよ」
「うう、興味はある……んですが、ちょっと今日はダメなんで、明日伺ってもいいですか? 従兄弟がお迎えに来てくれるんで……」
「従兄弟が?」
「神崎さん、身体弱いから通院もあるんだって」
「それは大変だね。明日お待ちしているよ」
その後は雑談を少しして、お昼休み終了のチャイムで解散となった。佐々木さんと共に教室へ戻る帰り道、やたらと背中に視線を感じているが無視する。色々問題はあるが、収穫もあった。
特に大きな収穫になったのは、本の元々の持ち主、寄贈者である「三塚八重子」さん。三塚はこの学校の創立にも絡んでいるこの地域の古くからある大きな家の1つだそうだ。「一家」、「二宮家」、そして「三塚家」と三家でこの地域の統治をされていたらしい。
一、二、三ってなんともあからさまな順位付けで分かりやすいと言えばとても分かりやすいけど、なんとも言い難い。これ絶対三塚はこの三家の中では格下扱いされるんでしょって邪推してしまう。
午後の授業も半分聞かず、校内に散らしたマーカーを確認しみるが、特に変化はなかった。恐ろしいほどの無反応で、全て把握された上で敢えて放置されている感じがして、自分の行動すべてが敵の掌の上にいるような不安さを感じる。
同時にここで引き返す事は出来ない。もうクラスメイトが妖魔に選定されている、その可能性が限りなく高い事を知ってしまった。そして、相手に私の存在も知られている。ならば、根性入れて受けて立つしかない!
一旦、田辺先輩はグレーなので保留。でもあの本の入手経路は確認しないといけないから今日はそれを確認する事にした。流石に授業中スマホで三塚の場所を調べるのはさすがにまずい。窓の外に視線を逸らすと――見慣れた黒い影が。物凄い機嫌悪そうな顔をしたクロが浮いていた。思わず反応しそうになるが、それとなく視線を机の上に、ノートに落とし、クロ宛のお願いを書く。
スッと横目でクロの浮いていたあたりを見ると、【ふざけんな、一昨日来やがれ!】と器用にも中指上げたポーズで言っていたが、相手は音も姿も消しているので【わからな~い】とこっそりジェスチャーして煽り返した。クロの目が座って、分かりやすく【てめえ、お・ぼ・え・て・ろ・よ】と言っていたが……うん、今は忘れよう。時間は有限なんだ!
例え、例え帰宅後、散々クロに文句を言われ、不注意だと説教され、ご飯の用意で許してもらえなくても! 今は進むべきだと思うから。それに、クロも分かっているから渋々従ってくれている。そう、物凄い渋々。
いつか、クロを私から平和に解放してあげられるまで、私は死ねない。だから、足掻く!例え今敵の手の内に居ようとも、絶対食い破って生き延びる!!
――授業を終えて校門に行くと、めちゃくちゃしかめっ面のクロ兄がいた。
はい、怒っていらっしゃいますね!知ってた!予想もしてた!!でもね、でもね、本から術を不意打ちで受けるとは思わないじゃん?と言い訳したいが、ここで話せる内容じゃない。ここでぼーっと立ってる訳にもいかない。目立つし。どうしようと困っていると、クロ兄が重いため息をついて、手招きする。
「ユウ、行くぞ」
「うん……」
歩き出してしばらくして人目が減ったところで、不意に鞄を取られた。「クロ?」と声をかけるが私の声は無視してカバンにつけていたお守りを外してマジマジと睨むように視ている。歩きながら時折舌打ちしているので、きっと何かが分かったのだろう。
そうこうしている内に自宅に着いたけど、クロはゴミを捨ててくるから新しい護符の媒体を用意しておけと言ってそのまま歩いて行ったので、私は帰宅して動きやすい服に着替えてから紐や自然石のビーズを出して編み始めた。正直組み紐を作るのは慣れているからストラップ程度のサイズならすぐに作れるので思わず凝ってしまう。
楽しくなりながら作っていたら、クロが帰ってくる頃には半分出来上がっていたが、あくまでもクロを待っていたので切り上げるとまだ機嫌が悪そうだった。
「結構遠くに行ってきた感じ?」
「いいや? バスに乗せてやったよ、山の方の総合病院いきのな。らしいだろ?」
「策士ね。さて、これはここまでにして、調べてくれたんでしょ? 三塚八重子さんのこと」
「チッ、まあ調べてはある。恐ろしいほど真っ当に生きてたぞ。アレは、もう何も知らないハズだが、まだ何か情報はあるかもしれねぇな」
「流石、じゃあご婦人に会いに行こっか〜」
クロと共にタクシーに乗って町はずれの瀟洒なお家というよりは、お屋敷というのが相応しい古風なヨーロッパ調の邸宅だった。緊張しながらインターホンを鳴らすと品の良さそうなご婦人が出てきてくださった。
「はぁい、どちら様かしら?」
「あ、あの、初めまして! 私並河高等学校に通う生徒です。実は昨日とても興味深い本が三塚様より寄贈いただいたと伺いまして、もし他にも書籍があれば拝見させていただきたいと思ってお伺いしました。初対面で大変失礼ですが一目個人図書館を拝見させていただけないでしょうか?」
「あらあら……とりあえずお上がりなさい。そちらはお兄様かしら?」
「はい、突然のご訪問申し訳ありません」
「いえいえ、お客様はいつでも嬉しいものよ。ささ、どうぞ」
ご婦人に案内されて広い居間に通していただいて、改めて私がこの土地の歴史に興味があり情報を探していると説明した。ご婦人は若いのに素晴らしい心がけだと褒めて下さり、離れの建物が1つ丸まる図書館というよりは書庫状態である事、全てはご婦人、三塚八重子さんの旦那様の所蔵だったことなどを伺った。
「正直を言いますとね、私は嫁いできた方でこの土地については詳しくはないのですよ。でも、主人は昔からこの地は何かと事故の多い地で一様と二宮様と工夫して治めて来たと聞いているわ。離れは主人の書斎の一面もあったので、この土地について情報が色々あると思うから歴史に興味があるなら是非見て行ってちょうだい」
「本当ですか!凄く嬉しいです!」
「ふふ、ただ埃っぽいから、お兄様は換気など気をつけて差し上げてね」
八重子夫人はそう言うと、早速離れへと案内してくれた。
離れは完全に別個の建物となっていて、母屋とは通路で繋がっていた。鍵を開けると目の前には一面の本箱と本が広がっていた。
「凄い……!」
「これだけの蔵書を個人でお持ちとは本当に凄いですね」
「ありがとう。少しは面白いお話しもあると思うけど、ほとんどは様々な報告書や研究論文みたいなのよ?では、空気が悪くなるからこの扉は開けておいてね。私はお茶を入れてきますので好きに見ててくださいな」
「何から何まで本当にありがとうございます!」
八重子夫人が離れを出たのを確認して、私とクロは能力を解放して一気にこの書庫?書斎?図書館?の書籍の調査を始めた。
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