第6話
佐々木美優さんと教室に向かいつつ、昨日のことを思い返していた。
放課後確認した地域新聞の死亡や行方不明について調べて、かなりの数がある事が分かりクロを通じて本部にも調査依頼を出した所、以前に調査済みと帰ってきたが数が全く合わなかった。
公式な戸籍調査をしているはずなのでそのデータを改ざんするのは容易では無いはず。そこでこの地域の新聞データと戸籍との比較をした際にそのカラクリは判明した。
亡くなったり行方不明となった人の3~4割の人の戸籍はこの地域に無かった。つまり余所者、転勤や引越しできて戸籍を移してない人達だった。
この地域に戸籍のある人の死亡理由は大体が病死、自然死、交通事故で不審な点は無かった。逆にこの地域に戸籍のない人の死亡理由はほぼ記載が無かった。
「クロ、これなんで誰も今まで気付かなかったのかな?」
『ん? ユウが言ったじゃないか、余所者だからだよ』
「去年亡くなった学生の友人が直前に会っていて、自殺はありえないと大騒ぎしてくれなかったら未だに見つかって無かったって怖いね」
『まぁな』
「気のない返事〜!」
『ユウ、こいつはガチで厄介だ。力押しじゃ厳しいだろうから、無理すんじゃねーぞ』
「ん、了解」
そんな会話をしつつ、今日も旧校舎の図書室で調査をするつもりだったのだけど、朝に佐々木さんと会って予定変更となった。
前日と同じようにクロと登校していると、クロが小声で注意を促してきた。
「ユウ、普通のフリをしろ」
頷いて答え、視界に入ったクラスメイトの姿に驚きたのを悟らせない為に微笑んで小さく手を振った。
佐々木さんは嬉しそうに手を振り返してこちらに走り寄ってくれた。ただし、普通は視えない蟲を付けて。その蟲は佐々木さんの周りを守るようにぐるぐると飛んでいる。
「おはよう、神崎さん!」
「おはよう、佐々木さん。こっちが昨日話したクロ兄だよ」
「クラスメイトの佐々木美優です! 昨日から噂の従兄弟さんに会えて光栄です!」
「噂?」
「クロ兄がカッコイイって昨日からみんな凄いんだよ」
「……帰る」
めんどくさいと言うのを隠さずに去るクロに苦笑をしつつ、佐々木さんにフォローをする。同時にクロからのハンドサインで佐々木さんに目印を付けろと来ているのは見逃さない。
「あ、もう!! ごめんね佐々木さん、クロ兄は照れ屋さんだから……」
「いーのいーの、さっ遅れるし教室いこっ!」
「うん」
そして、冒頭に戻る。
多くの生徒たちで混み合う下駄箱を通り抜けつつ、佐々木さんと話しながら進む、
佐々木美優さん、クラスメイトの中では話しやすい、距離を見ながらコミュニケーションを取ってくれる人当たりの良い女生徒で友人、挨拶する人も多い。家族は両親と兄の4人家族で仲は良い。
目の前の佐々木さんのデータを思い出しながらそれとなく関係ない事から話をしていく。
「佐々木さん、何か良いことあった?」
「えっ? 特にないよー?」
「そうなの? 何か楽しそうだな〜って見えたから」
「そりゃ朝から美男美女に会えたからね! 神崎さん美人さんだし、従兄弟のお兄さんもカッコイイから絵になるねー!」
「ええっ!? そ、そんな事ないよぉ……」
「ほんとほんと。あ、そうだ図書委員の先輩にこの地域の昔話をまとめた良い本を教えて貰ったんだけど、もしかしたら持ち出し禁止かもだからお昼に先輩に確認したら教えるねー!」
「ほんと? 嬉しい、よろしくね〜」
そんな会話をしつつホームルームの準備をして席に着くなり、私はクロに連絡を取ろうと髪で隠しているイヤーカフに手を伸ばす。
『ユウ、ここにいる。念じろ』
【佐々木さんに憑いている蟲の媒体は本かもしれない。現物は見てない】
『危険性は?』
【不明。昨夕時点では白、その後で推測すると接触は数名、そして本】
『チッ、確認する気だろう? なら行動前に連絡しろ。オレ様は校内を掻き回しておいてやる』
【助かる】
言うだけ言うとクロの気配は消えた。クロは一昨日やった妖魔の解き放ちと更に自分も暴れ回るつもりなのだろう。その後は何事もない振りをしつつ、佐々木さんを確認すると、僅かだけども妖魔の気配がある。特に深刻な影響はなさそうだけど、アレはそれこそ妖魔が佐々木さんは自分の獲物だと主張する目印だと思われる。
昼休みに入り、朝から約束していた通り佐々木さんと図書室へ向かう。もちろんクロにも図書室に行く事は伝えてスタンバって貰っている中、校内は平和で賑やかだった。
「もしかして、その本が今朝話してくれた本?」
「うん、表紙からして素敵でしょ?」
そう言われて見せられた表紙が目に入った瞬間衝撃が全身を貫いた。一瞬意識が遠のきそうになったけど、即座に『ユウ!』とクロの声が聞こえて持ち直す、【大丈夫】と答えつつ不審な顔をしている佐々木さんに笑顔を向ける。
「ごめん、すごい素敵で驚いちゃった!」
「なぁんだ、良かった。この模様とかが独特よね~」
佐々木さんがにこにこと嬉しそうに話しているのを聞き流しながら、自身の状態を確認する。心身共に異常はない、同期ズレもない。ただし、クロのお守り、護符とも言うべきお守りが壊れた。そして今確実に視られた。
「ねね、佐々木さんこの本の表紙と目次だけ写メ撮らせて貰ってもいい? もし借りられなければWEBで注文しようと思って」
「もちろん、興味持ってくれて嬉しいな。私も読み始めたんだけど、結構お話しっかりしてる感じで先のお話読むの楽しみなんだ!」
「へえ~! 本好きの佐々木さんが言うなら期待しちゃう!」
そんな軽口を利きながらも、内心では冷汗ダラダラだった。この状態で旧校舎の図書室に行くのは不味いが、現状断る理由もなく、むしろ私の都合で行くようなものだ。
どうしようかと悩んでいた時、ふいに佐々木さんが方向を変えた。
「あれ? どこいくの?」
「あ、さっき図書委員長の先輩からお昼は新校舎の図書室にいるから、そっちに向かってるよ?っあ、ごめん、言ってなかったかも……」
「そうだったんだ、大丈夫よ。じゃあ、向かいましょう」
助かったと思う反面、見透かされている感があってやはり油断はできない。この学校は敵地なのだと改めて気を強く持たないといけない。クロにもイヤーカフを指でトントンと軽く叩き、モールス信号で移動先変更を伝える。
ー・ー・ ・・・・ ーー・
送ったのは「変更(CHANGE)」のみだけど私の居場所は常にクロが分かるので、行き先が変更された事さえ伝われば問題ない。
即座にイヤーカフが小さく震えて「了解」の返信を受けてホッとする。今は制服なので武器も最低限しかないから、打てる手は打って生存第一で動く必要がある。
真昼間の青空が眩しい。にぎやかで平和だった校舎を恨めし気に見つつ、私はゆっくりと息を吐き出し、呼吸を整えていく。思考はもうクリアだ、武器もポケットに武器化できる黒いビーズが五個。壊れたとはいえお守りも対妖魔なら投擲武器にはなる。後は最悪学校中に配置したマーカーで攪乱して、逃げる。学校は今、私にとって生死のやり取りの場に変わっていた。これだから、妖魔はイヤなのよ、と心の中で愚痴を吐く。
妖魔は、長く生きるほどに狡猾になり、残忍になり、用意周到になる。私たち祓い師は奴らの罠の中に敢えて向かって対処する事を求められているから仕方ないけど、基本アウェーでの戦いなので不利だ。だからこそ、いつでも武器は持っているが、制限が多く援護も見込めない状況で戦闘の可能性があるのは久々だ。
そんな愚痴は全く表情には出さず、佐々木さんと着いた新校舎の図書室はいつも通り明るく静謐で清浄だった。クロの気配を纏う私は、間違いなく異物だ。そんな皮肉な事を考えている私とは対照的に、迎えてくれた図書委員長も、穏やかで優しそうに見えた。
「田辺先輩! すみません、お昼休みに!」
「佐々木さん、こんにちは。いいんだよ、元々今日はここで新しい図書を受け取る予定だったから。君が佐々木さんのマドンナの噂の転校生さんだね? はじめまして、僕は田辺誠一です。よろしくね」
「えっ、マドンナ!? え、えと、2年C組に転校してきた神崎結子です。佐々木さんから面白い本の話を伺ったんですけど、その……」
「そうだった! 先輩、この本禁帯出のラベルがついてるんですけど、これうちの学校のラベルじゃないんですよ~」
「うん? 見せてくれる?」
そう言って田辺先輩は佐々木さんから本を受け取ってラベルを確認するとニヤリと笑った――。
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