表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家族と共に殺されかけた少女、妖魔と契約して祓い師として立つ  作者: あるる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/43

第43話

 神とは、便宜上人間があまりに強大な妖魔に付けた敬称だ。多くの人間に祀られることで十分に生命力を得られるため、人間を守ってくれている。というよりは領域に住むことを許してくれている存在だ、と習った。

 祓い師はそもそも妖魔の力を借り受けているため、その妖魔よりも強大過ぎる妖魔である神に対抗する事は不可能だから、従っているとも言える。


 そんな強大であるはずの神の一柱が廃されて、三塚が祀る権利を貰って、ひっそりと祀っている。

 仮にこの地域の伊津那(いづな)の名前が神の名から来ているのであれば、三塚にはどんな神であったか由来が残っているかもしれない。山神とは異なるこの土地本来の神。

 推測ばかりでは埒が明かない。確かな情報を求めてクロ兄と共に古い書物を漁っているけれど、それらしき名前は見当たらなかった。


「私の考えすぎかな……」

「まだ確認していないものがある。古い存在であればあるほど、祝詞とか唄とかに残ってるだろ」

「そっか、八重子夫人なら知っているかも! ありがと!」


 書庫になっている別館から飛び出して、本館へ渡り廊下を歩いていると、縁側で涼んでいた八重子夫人と目があった。

 ふわりと微笑む夫人の優しげな表情に、私も表情が緩む。


「あら、結子さん。どうかなさったの?」

「お邪魔してごめんなさい。実は、江戸の頃の三塚当主の手記を見つけたので拝見していたところ、神様を祀るとの記載があったんです。しかもその神様はこの地を治める神様だったようなので、なにかご存知かな? と思って伺いに来ました」

「まあ、そんな古い神様のお社だったのかしら? でも、ごめんなさい、私が嫁いだ頃にはもう……主人もそんな祭祀のようなことはしていなかったのよ」


 申し訳なさそうに眉を下げる八重子夫人に嘘は見えない。


「そうなんですね。うーん、それでは、この地域に伝わっているわらべ歌とかありますか?」

「まあ、それなら知っているのがありますよ! この辺りは昔は稲作が盛んだったみたいで、その様子を歌った唄よ」



 金きら 原や ゐづなの庭

 伊豆那いづなの子等が 世話すりゃ善し


 良き子が 撫で撫で 光ぞ守る

 ゐづなの神は 優しきぞ


 悪い子 何処いずこや 空を見よや

 ごろりと ぴしゃりと 落ち来るぞ


 伊豆那いづなの神は

 仲良し 仲良し 友がらぞ



 軽やかに歌い上げる八重子夫人のわらべ歌は聞き取りやすく、そして情景が広がるようだった。

 人と近く、親しい。

 同時に、雷を落とすような厳しさも持つ神なのだろう。

 まるで昔話を聞いているようだった。


「素敵……ありがとうございます!」

「ふふ、拙い歌でごめんなさいね」

「そんな、お上手でした! それに、神様らしく厳しくも豊かさをくれる、愛された神様だったんですね」


 八重子夫人に唄の歌詞を書いていただいて、クロ兄に共有すると、難しい顔をしていた。


「気になるのは二つだ。伊豆那の漢字、今は「津」だよな?」

「そうだね。字から受けるイメージだと、豆は身近、小さいかな」

「津には境界の意味合いもあるし、豆は供物を入れる器だ」

「それ、洒落にならないんだけど」


 この神様が供物を捧げるための器、と言うよりも、神自体が供物にされた?

 そして、この境界である土地を今支配しているのは……。


「ユウ、もう一つ、山神は眷属となる山人を選定していたな?」

「田辺先輩や理事長の話を聞く限りはそうだね」

「この『伊豆那の神』は仲良しな友だと言われている。この唄の神とは合わねえな……」

「うん。この土地の神は新旧で入れ替わってるのは間違いなさそう」


 金の原が、単に稲穂を指すだけなのか、その神様の見た目をも暗示しているのかは今はまだ見えない。どちらにしても、当時この地にいた、人と近い距離で在った妖魔は、もう居ない。

 一方で、この地の権力者たちが祀る山神。山神が勝利し、この土地の神の交代が行われたのは、ほぼ確定した。



◇◇


 時は遡り、結子とクロが八重子夫人宅に訪れていた頃、晶と仁もまた合流していた。


 生憎の曇り空ではあったが、その分多少涼しい。驚く程に人は多いので、やはりこの湖跡公園は地元の人にとっては親しまれている場所なのだろう。


「やあ、仁先輩。お待たせして、すみません」

「……」


 何とも微妙な顔をしている仁に、晶は不思議そうに覗き込もうとする。すると仁が後ずさった。


「先輩? ボクなんか変ですか?」


 晶は自分の姿を軽く確かめていた。そんな行動さえも、男性でありながら整った容姿をしており、葵にそっくりなこともあって、どこか中性的で倒錯的な雰囲気がある。


「いや、行くぞ」

「そうですね、暑いので途中で飲み物でも買いましょう」

「晶、唯子と蜃気楼は?」

「もちろんお留守番ですよ。あ、心配してくれてます? 大丈夫ですよ、ちゃあんと色々準備はしてありますんで」


 にっこりと笑む晶に何も言えず、そのまま出発した。曇りでも蒸し暑い中、例の曼珠沙華の群生地近くまで移動した。

 近くにある売店でスポーツドリンクを買って、飲みながら人の流れを観察している。


「なんだかんだ暑いですね〜。ユウちゃんじゃないけど、スポドリが染みる」


 そう笑いながら話す晶が、周りが不審がらないようにまめに話しかけてくれるのに仁は「ああ」とか「そうだな」と返す。


「さーて、先輩! 行きましょうか?」

「分かった」


 さりげなく仁はトレパンの一番大きなポケットに入っている符を仕込んだ警棒を確認。物理での戦闘であっても、引けを取る気は無い。

 晶は小さなボディバックに飲みかけのスポドリをしまい、かけ直して曼珠沙華の群生地に向かう。


 曼珠沙華の間にある細い通路に一足踏み込んだ瞬間、音が遠のいた。


「凄いですね、綿密に作り込まれている」

「人の作った結界だな。……何処の系統だ?」

「混ざっていて、重ねられているので見分けにくいですが……新しいもので50年は前。

 古いものは恐らく江戸のころ、古典的なフレーズが一部見えますね」

「中は?」


 にこにことしていた晶の表情がスっと消える。

 何やら呟きながら人差し指と親指で枠を作って真剣に見ている。


 晶を待ちつつ周りを確認していると、高齢の女性が近付いて来たので、そっと仁は警戒する。


「あら、お兄さん達動画でも撮るの?」

「あ、いや。すみません、お邪魔でしたか?」


 仁が警戒を解かずに答えていると、明るい声が援護してくれた。


「ボク、写真とかが趣味なんですよ。ここ、とっても綺麗なのに雰囲気あるじゃないですか?」

「まあ、そうなのね。良い写真が撮れると良いわねぇ」


 にこにこと人当たりの良い晶に、女性はそのまま去って行った。


「お待たせしました。中は見えなかったけど、大分厄介そうですよ?」


 そう話しながら晶はスマホを取り出して何枚か写真を撮り始める。


「読み取れた機能は捕獲、檻、封印、それと何か最初期に刻まれたものは吸収・・、に見えました」

「吸収?」

「はい。よく分からなかったので、試しましょう」


 そう言って晶がボディバックから取り出したのは、所謂ガチャガチャのカプセルだった。


「これ、レアなんですよ」


 得意げに言いながらカプセルを開けると、国民的に認知度の高い黄色い、変わった尻尾のキャラクターマスコットが入っていた。

 マスコットと一緒に封じ込まれていた低級な妖魔が悲鳴を上げながら、結界へと一瞬で引きずり込まれる。

 引きずり込まれながら、一気に萎れていくのが晶と仁の目には見えていた。


「あれ? 先輩、あまり興味ないか〜残念。じゃあ、そろそろ行きましょうか!」

「ああ。良い絵は撮れたか?」

「もちろん、バッチリですよ!」


 朗らかに話しながらその場を去る。

 確かに、低級妖魔の生命力が「吸収」されていた。あれは結界に入るなり死んでいるだろう。吸収された妖魔の生命力は何に使われているのか、嫌な予感しかしないが、答えはほぼ出ている。


 この街は、街そのものが山神を降臨させる為の装置であり、……餌場だ。

読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ