第42話
八重子夫人宅へ着き、いつも通り挨拶をした後は早々に書庫となっている部屋へと行かせてもらった。古地図と合わせて三塚氏が調べていた各地の伝説や生贄などについての書物になにか他にも共通点があるかもしれない予感がしていた。
まずは場所も内容も分かっている古地図を確認したところ、やはり湖の記載はなかった。
湖の跡地にある神社についても記載はなく、神社があったこと以外が全くの謎となっている。
次に最初にクロと調査した際に見つけた嘉永3年の手記へと戻った。あの時確認した内容は普通の日記のようなもので大した内容はなかったけど、今回は神社や湖にフォーカスして確認すれば別のものが見えるかもしれない。
少なくとも三塚の当主と思われる人物の手記なので、この地での大きな変化などは確認できる可能性が高い。
改めて読みなおしてみると、手記だから仕方ないとはいえ、達筆で読みにくいのが厳しい。
顔を顰めながら、何とか一ページずつ丁寧に確認していくと、二十ページほど読み進めたところで神社についての記載があった。
◇◆◇◆◇
先々代之頃より口伝にて伝来之御社之儀、此度打捨候由相聞候。
右之儀、父とも度々相談仕候処、軽々敷申上候儀にも無之候へども、其趣書付仕り、恐入乍ら一家御当主様並びに二宮家御当主様へ願出候。
右願之儀、両家様御聞届被下候段、難有奉存候。
右御社之儀、此後篤く祀り置き、何事有之候共、怠りなく守り置くべき旨、相心得候。
此段、違背仕間敷候。
◇◆◇◆◇
「クロ兄、これってお社を捨てる、遺棄することになったってことだよね?」
「そう読めるな。三塚がその社に祀られていた神を引き取って、くれぐれも大事にしねえとって内容のようだな」
「それがここにあって、今は行方不明の神社……」
十中八九、湖の神社がこっちに移されたんだと推測できるけど、時系列的に矛盾する。
一番古い航空写真は大正14年だったから、100年ほど前だ。嘉永3年は170年ほど前だから、70年も遺棄が決まってからも残っていたことになる。
「情報がまだ足りないね……」
「オレがこの手記を読み直すから、ユウは工場についてなにかないか探してくれ」
「了解!」
葵ちゃんと仁先輩が襲われた工場は割と最近、と言っても昭和30年、第二次世界大戦の復興の一環でこの街の産業目玉として建設されたらしい。
元々山間のこの土地は寒暖差が大きく甘みの強い果物が特産となっていて、蜜柑、桃、近年では葡萄や苺が主に育てられているらしい。伊津那市の紹介パンフレット情報だけど、こういう旅行系のパンフレットって便利。ついでにスマホでウェブ上の情報も確認したけど、特に内容の変更はなさそうだった。
表向きの情報はそんなところで、他に怪しい話がないかを探す。
主に事故と、怪談、噂、そして行方不明者がここに来ていたかどうか。学校が主な餌場だったとしても、学生以外の行方不明者や事故にあった人も眷属または餌にされたと考える方が現状では自然だ。
多くは遺体が残っていない。むしろ発見された祓い師二人の遺体が残っていたのがレアケースだ。
遺体の状態も経過していた日数の割には欠損はなく、損傷はあるものの思いの外、遺体は綺麗だった。生命エネルギーの入手だけなら魂のみを喰われた可能性はある。間違いなく、保健室の妖魔ではない。向かった先が旧校舎の図書室だったことから、田辺だった可能性が高いけど、プールと体育館から見つかったことに違和感がある。
眷属としての田辺は強くなかった。プールの妖魔は水の中なら薙刀も使いにくく、不覚を取った可能性はある。体育館は監視がメインだったことを考えると、近接戦に長けた祓い師が負けた理由が不明になる。
チャイムによる異界化に、能力制限などはなかった。
妖魔や眷属が強化されていた可能性はあるけど、強化されてあの強さならそもそも眷属たちが弱すぎる。わざわざ魔法陣を用意してこちらの世界に山神を降臨させようとしている。つまり簡単に顕現できないということは、山神のいる次元から、こちらの次元へと乗り越えるのに大きなエネルギーが必要になる時点でかなり強いと思われる。
それほどに強大な妖魔であるならば、その眷属や従っている妖魔が弱いとは考えにくい。
――つまり、学校内に戦闘の形跡がなく、死体だけを学校に隠した?
「う~~ん……」
「どうした?」
「うん。まだ学校に見落としがあるのかもしれないって気付いちゃった」
「あの後再調査はやったんだろ?」
「そうなんだけどね。なんか変なんだ」
そう、半分は感なんだ。
おかしい、と。私たちに匹敵する祓い師のペアが殺されたにしては、死に様がおかしい。
「四国と九州からの祓い師たち、学校外で死んだ可能性はあるかな?」
「っ!! ユウ、それならアイツらの戦った形跡が全くなかったのは説明がつく」
「問題は、どこで、だよね?」
「湖か工場か?」
そう、そこなんだ。
だけど、私の勘は工場だと言ってる。
「根拠は無いけど、工場だと思う」
「分かった、ユウは工場の土地が元はなんだったか調べろ。オレ様はこの手記に神社についてもう少し調べる」
「了解」
古地図には特に何も無かった。該当しそうな地域の辺りには一言「高原」とだけあった。
一見しただけでは何もない。ふと、この街はこんな昔から情報統制を徹底してあるのかもしれないと気付き、寒気がした。ここまで、情報が何も残っていない。
……まだ、見えてないだけの可能性も十分ある。隠されている情報を見つけるため、慎重に調べよう。白すぎるのが、逆に怪しい。
この地域の歴史を確認し直すと、伊津那市と呼ばれている一帯はやはり広いだけあって元々複数の村があり、徐々に開拓され最終的にひとつの大きな「郷」となり伊津那と呼ばれるようになった。その中で、北西にあった村の名前が伊津那村だった。
この事実から鑑みると、元々、この街の中心はどうやら北西の村だったようだ。そして、その村とはあの吊るされた男の村であり、工場の建設されている場所だ。地域一体の名前と村の名前が同じと言うことは、ルーツはここだった可能性が高い。
――もしや、三塚が祀っていた神は本来北西の村で祀っていた? そうなると南の湖は一体?
南にあった結界の特性は『妖魔を取り込み、捕えて逃がさないための檻』だった。今もなお中に捕えられている存在がいるとしたら?
「クロ、繋がったかもしれない……」
「なんだ?」
「南の湖跡の公園に隠されている結界に封印されているのは、もともとこの土地に居た土地神として祀られていた妖魔かもしれない」
「山神は?」
心臓が嫌な音を立てている。緊張で声が震えるけど、この推測は間違っていないと思う。
「山神はこの地に生きる人間を懐柔して、その妖魔を倒して、この地域を乗っ取った外様の妖魔」
土地神レベルの妖魔を倒した存在と、私たちは戦わないといけなくなるかもしれない――。
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