第40話
夜、晶くんと仁先輩と通話をつないで二人とも明日の午前中には戻ってくるとのことだったので、全員でもう一度伊津那湖跡公園の様子を見ることにした。
どうやって破るにしても、下調べは必要だけど、私が一番危険だからと晶くんが護符を用意してくれると言う。
「中々厄介そうな状態だね~。明日見てみてにはなるけど、ユウちゃんが、ただの純度100%人間だと認識させるものを用意するよ。
クロは流石に無理だよ? 君は完全に妖魔だからね」
『チッ、妖気抑えても無理か?』
「保証できないから、ここは遠慮して欲しい。むしろ、ユウちゃんがバレた時にクロには強引にユウちゃんを引き離して欲しいから」
『分かった。アキラ、お前にユウを任せるぞ』
驚いた。
クロが私のことを他の人にお願いするなんて。同時に晶くんと仁先輩を仲間だ、とクロが認めてくれているのが嬉しい。
反面、嫉妬も少しだけ。本当に本当に少しだけど、クロに信用された二人がちょっと羨ましい。
私も、もっとクロの信頼を、勝ち取ろう。
そんな私の気持ちに、気付いているのかいないのか、クロが尻尾で絡んできて、落ち着けた。
――深夜、結子がしっかりと眠ったことを確認してクロは結子の状態を確認していく。身体と魂の間の同期は安定している。魂も揺らめいていたのが徐々に落ち着き、結子らしい色が安定している。
『あと、二日と言ったところか……』
『ゆうちゃんのメンタルが不安定だわ』
突然割り込んできた声にクロは一瞥もすることはない。結子の調子を把握することに集中している。
『人間は身体の不調が精神の不調につながるものだろう?』
『うん。でも、不安は不安を呼ぶから、妹をお願いします』
『ああ、言われるまでもない。ユウはオレ様の半身だ』
言い切るクロに唯子は苦笑が漏れる。「私の妹なのにな」と思いつつ口には出さない。既に唯子は人を止めていて、双子だったとは言え、結子の半身とは言いにくい状態であるのも事実だ。
どんな細かなブレも見逃さないように集中するクロの様子に、結子が愛されているのだと確認できたことに満足してそっと消える。唯子の主である晶に結子の状態と、結子の今の波長を伝えるため。
その頃――厳槌仁は伊津那市へと戻るため、祓い師の移送用の高速車両に乗っていた。
やる事のない車内では瞑想することにしている。仁にとって瞑想は集中と休憩を兼ねていて落ち着く。
瞑想しながら、周りに意識を集中すると音と共に空間を把握していく。トラックに偽装されている車両の中には、仁のいる中央室を挟んで前方は各部隊や統括している祓い師と連携を取っているマネージャー。後方は襲撃に備えた予備隊員が控えている。
祓い師として単体で動ける人材は少ないため、その貴重な祓い師をサポートする人間が多数いる。
主に管理や連携、一般人の護衛などになる彼等が支えているからこそ祓い師は心置きなく戦える。
それでも、祓い師は基本的に不利だ。
仁は昔、幼い頃に師匠でもある父親に言われた事を思い出していた。
「仁、祓い師に力を貸してくれる妖魔は決して強い者では無いのが大半だ。
何故ならば、強い妖魔なら人間程度と組む理由はないから」
なるほど、と思った。確かに妖魔から見れば自分たちはひ弱な存在だろう。
そんな者たちに力を貸す理由など、当時の仁は思いつかなかった。当時は貸しを作るという考えもまだ無かったし、今も冷静に考えて貸しを作っても返して貰える余地などあるのだろうか?という疑問が生まれる。
だから蜃気楼のように、純粋な戦闘力の無い妖魔が協力するのは分かる。お互いに持ちつ持たれつの関係になれる。
何故、雷伝が人間に力を貸しているかと父親に聞くと、クロと同様に初代と出会った時にその人柄に惚れ込んだからだった。
そして、その初代とは威槌の先祖であり、雷伝はその血筋に協力している。それだけの関係性が人間と妖魔の間に築けたのだ、と言うことがショックだった。
仁にとっては、それまで妖魔とは人間と相容れない敵でしかなく、祓い師に協力している妖魔もいつ裏切るともしれないと信用してなかったのだ。
神崎結子は祖先と同じ奇跡を成し遂げた後輩だ。驚くと共に嫉妬がなかったと言えば嘘になる。
でも、彼女とクロの関係を見ていれば自然と分かる。神崎はクロに全幅の信頼を持ち、ほんの少しも疑っていないどころか、クロの能力を知り、使いこなすことに貪欲だった。
眩しかった。
そんなある日の訓練前に神崎が話しかけてきた。
「先輩!本部の最強は先輩だって聞いたんです!
私はちょっと変わった経緯で来てるんで、色々教えてください。よろしくお願いします!」
神崎に先輩と呼ばれ、頼られることはどこか照れくさく、同時に自分の小ささを思い知った。
その神崎と組む初めてのミッション。噂には聞いていたけど、儚げな見た目とは裏腹に豪快で容赦のない戦いをしていた。
何よりも、情に厚く、リスクをとる事にも躊躇もない。人の戦いを見て、怖いと思ったのも初めてだ。同時にそれを許すクロに対して理不尽な怒りを抱いたが、リスクをリスクにしないようにクロはちゃんと動いていて、神崎が安心して眠れる相手だった。
羨ましい。
あの二人の関係性が眩しくて、羨ましかった。俺も雷伝とそうありたい、そう初めて気付かされた。
そして、漸く、仁は雷伝と向き合えた。
初めて雷伝と言葉を交わし、刃を交わし、そして少し見えた気がする。
雷伝はずっと待っていてくれたのだと。
待たせた分、信頼と期待に応える、と仁は覚悟を決めて伊津那市に戻っている。
早速中々手強そうな敵が待ち構えているのを、少しだけ楽しみにしている自分がいることに仁は一人ほくそ笑んでいた。
翌朝早く、仁、葵のドッペルゲンガーでいつも通り来た晶、そして結子とクロが伊津那湖跡公園に来ていた。
皮肉なほどの晴れは、早朝からの酷暑という熱い歓迎で四人を迎えてくれる。
「あづうい〜〜~」
「先輩、大変! ユウちゃんが溶けてる!!」
「……クロ」
「はあ……しゃーねえな。ほれ」
クロ兄が冷え冷えの保冷剤をおでこに当ててくれて、葵ちゃんが半分溶けている凍らせたスポドリをくれる。流石にこのみんなに介護されているような状態は、我ながら情けないんだけど……真面目な話、熱があるんじゃないかというくらい、身体の中が熱い。
「ユウちゃん、これは良くないね」
「何が原因だ?」
「――ここだ。正確にはこの奥にあるモノだ」
「例の結界と、その中のものか」
クロが険しい目をして睨んでいるのは例の狐花のある場所。公園のまだ入り口にいるのにその影響がここまで出るのか、と疑問に思っていると葵ちゃんが答えてくれた。
「人がいないからね。多い人はある意味では壁になっていてくれたんだよ。結界が反応する対象を分散してくれるからね」
「私が体温調整できないのは、そのせい?」
「うん。結界がというか、この罠がユウちゃんを安定させようとしているクロの妖気に反応して取り込もうとしている」
「うあ~……私足手まといだ、ごめん」
「ううん、ユウちゃんに反応が出たからあたしたちは助かったの。気付かず近づいていたら、無対策で蜃気楼か雷伝に影響あった可能性があった。
……この、怨念にも近い、なんだろうドロドロしたものを感じるよ。
これはあたしも近づけない、アキに来てもらわないとダメだね」
アキ、つまり晶くん本人が生身の状態で来る!?
驚いて振り向くと、仁先輩が珍しく目を見開いていた。
「葵、それは本当に必要なのか?」
「うん。アキじゃないと危険だよ。
でも、アキだけじゃ無理だから仁先輩、一緒について行ってくれる?」
「分かった。物理だけでも守って見せる」
そう言い切る仁先輩は頼もしくて、葵ちゃんも嬉しそうに微笑んでいた。二人のそんなやり取りを見ていて、二人共また強くなっていると感じて、少し胸が痛んだ。
結局人が少ない時間帯の方が危険だと分かったので、明日から学校が再開されるから放課後に仁先輩と晶くんが改めて調査に来ることになった。
その間、私とクロは八重子夫人のところで工場の成り立ちなどについて調べる事になった。
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