第4話
翌朝目覚ましの音で目を覚ましたら身体が軽く、動かしやすい。クロが丁寧にメンテナンスしてくれたようだったからお礼をと思ったが、当の本人はどこにもいない。口の悪いクロが素直にお礼を言わせてくれる訳はないので、別の形でいつもお礼をしている。
足取り軽くキッチンに向かい、目的の食材を取り出す。丁寧に筋子から外したイクラを3倍希釈のめんつゆにつけたもの、更にサーモンとみじん切りにしたミョウガとちょこっとのワサビをご飯に盛る。最後にイクラをつけていた汁を少しだけ回しかけて醤油代わりにする。そのまま食べても美味しいし、だし汁をかけても美味しいサーモン親子丼の出来上がり。2人分用意して、クロの分はラップをかけて冷蔵庫に戻す。
「クロ~、ご飯ラップかけて冷蔵庫に入れとくよ! タッパーに残ってるイクラも食べちゃってもいいからね」
居なくても、きっとどこかで聞いているだろうから、声だけかける。どうせクロは来ないと思い、自分用にだし汁を温めてダイニングに行くと珍しくクロが待っていた。
「……おはよ?」
『オレ様も食うから持って来い』
「珍しいね、ちょっと待っててね」
ちょっとだけ嬉しくなりながら、クロの分を冷蔵庫からだしてかけたラップも外す。念のためお盆にはスプーンとお箸も用意して持って行くと正解だったようでクロは珍しく人型をとっていた。
「おまたせ」
「ん」
人型なのを指摘するとクロの機嫌が悪くなるのは見えているので、一旦は聞かない。きっと理由があって、必要になったら話してくれるのは知っている。
「うん、ちょうどいい浸かり具合だね。どう、クロ?」
「悪くねぇよ。あと食いながら聞け」
昨夜私が寝ている間にいくつか本部と学園と連絡が入り、応援が来るのは3日後と1週間後になることが決定したらしい。1人は完全に前衛1対1なら負け知らずの東京本校の先輩で厳槌仁と四国分校からは瀬名葵で私と同じ2年らしい。
厳槌先輩は、知っている。なんと言うか脳筋を体現したような人だけど、それは彼の契約する妖魔との制限でもある。正面切っての切り合いでは、厳槌先輩は負け知らずだ。瀬名さんはクロの情報によると幻影や結界に長けているらしく、私とセットで行動するようにとの事だった。
「瀬名っつー奴は護符も作れるから、ユウがオレの保護を解除する必要もない。瀬名が来るまではオレがユウの従兄弟として送り迎えする。オレは祓い師だから妖魔の気配があってもおかしくない、という立てつけらしい」
「なるほど、じゃあ敢えてクロの気配のするお守りとか鞄に付けた方が良さそうね。確か前に作った組み紐があるから、そこにそれっぽい黒瑪瑙の勾玉ビーズでも付けるよ!」
食器は軽く流して、そのまま流しに置いて早速寝室にビーズや組み紐を持ってきて即席のお守りのようにした。そこにクロが力を込めてくれたのだが……。
「クロ? ねえ、クロさん……ちょっとそれガチでは??」
「ああ? なんだよ、お守りっつーなら丁度いいだろ?」
「いやいやいや、過剰でしょ!? 防御は分かるよ、緊急通知も、即時展開の攻撃性結界に身代わりに敵意対象捕縛と反撃って……」
「文句あっか? オレの半身が死にかけたんだ、これくらい当たり前だ」
「…………クロ、過保護だったんだね」
「うっせ」
そう言うとクロはそっけなくソファで横になった。私はさっさと学校に行く準備を終えて、家を出たのは10分後だった。学校までの道のりは15分ほどだが今までは一人で気が抜けなかったのが、今はクロと一緒という安心感もあって気が楽だ。クロとは校門で別れて教室へと向かうと、案の定クラスメイトに質問攻めにあった。
「ねね、神崎さん今朝一緒に登校したのって彼氏?」
「まさかぁ、従兄弟の玖朗兄さん。大学がお休みに入ったみたいで、心配して来てくれてるんだ。……じつはこの間の定期健診の数値が良くなくてね。でもでも、全然大丈夫なんだけどクロ兄は昔から心配性なんだ」
キャラを作りながら照れ照れ話すと、他の興味津々で聞いていたクラスメイトの女子たちもキャーキャー言いながら理解してくれた。本当に病弱設定便利だわ~……。
そんなこんなで、クロのお陰で負担少なく校内の調査が捗る。前任の祓い師2人の残してくれた七不思議と昨日見つけた隠蔽されていた妖魔の気配のする場所は一致した。場所が分からないのは【チャイム】だけで【開かずの校門】はその通り校門だと思われるものの、なにか条件があるのだと推測はつく。
早速昼休みと放課後30分だけを目安に七不思議の現場となるであろう場所を巡る事にして、クロにもお迎えの時間を連絡した。まずは合わせ鏡の渡り廊下を確認しに行ったが、やはり条件が限定的であることもあってただの渡り廊下だった。
窓も特別な何かでもなく、特殊なものは見当たらなかったが昨日ここも確実に反応があった。窓から外を見ているように見えるように気を付けつつ、よくよく観察すると出入口に鏡があった。壁にはめ込み式の鏡はそっけない機能的なものではなく、さりげない飾り彫りがされているシンプルだけどオシャレなアンティークなものだった。
その鏡に気付くと違和感は凄いものの、何故か風景に馴染んでいてすぐに気にならなくなる。確かに旧校舎側は時代がかっているせいか全体的に大正浪漫的な雰囲気もあって馴染むかもしれない。と思いつつ、だからこそ案外新校舎の無機質さにも少しの華を添えつつも目立たいのかもと思うと、職人さんのセンスって凄い。
そう言えば自分の家には姿見なんてないなぁ~と思いつつ、廊下は夜クロと来る事にして次の場所を確認、と思ったけど体育館もプールも保健室も場所は把握しているし何度も行っている。
そろそろ、覚悟を決めて旧校舎の図書室に行くしかない事にちょっと嫌だなぁと思いつつも、今日は様子見で30分だけと自分を鼓舞して放課後を迎える事にした。
放課後嫌な事はさっさと終えようと旧校舎の図書室に行くと、今朝話しかけてくれたクラスメイトが受付にいた。確か、佐々木美優さん、のはず……。
「あ、神崎さん! どうしたの?」
「佐々木さんこそ、図書委員?」
「そうなの~、こう見えて本は好きなの。何か探したいものとかあったら聞いてね!」
「あ、じゃあ、古いこの辺りの地域新聞とかってあるかな?」
「あるよ、案内するね。こっちへどうぞ~」
佐々木さんが案内してくれたのは図書室の奥、扉を隔てた資料室だった。そこは綺麗に整理整頓されていて、年別に新聞がファイリングされていた。
「すごいね! こんなに綺麗に新聞残してあるんだ~」
「うん、この学校の創立者はこの地域の偉い方らしくてね、地方には地方の歴史があるって考えで全部残すように昔から言い含められているんですって」
「こうして、昔何があって今があるって分かるの、大事だもんね」
「ちょっとしたタイムスリップ見てるみたいでロマンもあるから、私も好きなんだ。じゃあ神崎さんゆっくり見てて、私は返却された本の整理とかして来るね」
「うん、ありがとう!」
佐々木さんは図書委員の仕事へ戻ったのでタイムリミットまでの20分、私は古い新聞を遡って行った。探しているのはこの地に昔から妖魔の情報、事件など。これだけ規模の大きな施設に隠れている妖魔が新しいものである可能性は低い。
妖魔も人と同じように年を経る毎に知恵を増しより狡猾に、慎重に、そして強大になっていく。神域に負けない程の静謐さを持たせつつ、餌の付いた罠だけを見せる妖魔について知らなければならない。
――その日、クロが来るまでに分かった事は、この地域は昔から死亡と行方不明がやたらと多い事だった。この学校でも、毎年何人か亡くなられていた。
なのに、それを誰も把握してないかのように、学校は常に平和だった。
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