表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家族と共に殺されかけた少女、妖魔と契約して祓い師として立つ  作者: あるる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/42

第36話

 厳槌いづち仁は幸いなことに大きな怪我が無かったので、入院は一日、自宅療養一日で三日目からは修行に入っていた。

 清浄高校東京本校の修練所にて乱取り稽古を延々と行っている。


 仁の契約している妖魔雷伝(らいでん)は文字通り雷の属性を持つ武人のような性質で正面から敵を叩くことを是とする、頑固なところがある。そのため正面での攻撃は非常に強力である反面、多数との対戦には弱いと言う弱点があり、それは伊津那いづな市での戦いで身に染みた。


 だが、教師である高階は克服できる、と言った。

 ならば、今は邁進あるのみ。


 この数日何度となく乱取りでボロボロになりながらも、仁は雷伝が力を出し惜しみしているのを感じていた。歯がゆい、何故分かってくれない、何故背後から狙おうとする卑怯者に手加減をするのかと怒りも感じていた。

 何度目かの乱取りの後、仁は休憩と集中をしたいからと言い、ひとりで道場に籠って素振りをしながら雷伝に語り掛けていた。


「雷伝、一対一は美しい。だが、その美しさは相手がものの道理を理解してこそ成立する。道理の分からぬ有象無象にさえ強いる事のできる力が俺は欲しい。

 道理の分からぬ輩に、背に守る仲間を傷付けられるのは許せない。……だから、力を貸せ。あいつらの正面に立ち、敵と正面切って相対するのはこの俺たちだ!!」


 仁は雷伝の頑なな気持ちと、雷伝に試されているような、揺らぎを感じていた。ひとつ息を吐くと、しっかりした足取りで道場の中心へと歩いて行き剣を構える。


「雷伝、俺と試合おう。俺は言葉は上手くない、だから互いに納得できるまで、これで語ろう」

『……』


 返事なく、雷伝が仁の目の前に現れた。雷そのもののような男性は、仁と同じく剣を構えている。

 自分に答えてくれている雷伝に、胸が熱くなる。


「いくぞ!」

『……来い』


 雷の化身のような雷伝の剣は鋭く、速く、重い。受ける一撃一撃に手が痺れ、徐々に重くなり、受けるのが精一杯になっていく。


『仁、私の力を使え。私を降ろすのではなく、少しだけ、筋肉の収縮を手伝わせるように、全身に薄く纏うんだ』

「やってみる」

『そうだ、雷は速さだ。速さは力だ。力はそれと相対する者に無視させない』

「無視、できない……」

『そうだ。相手が目が離せないよう、無視できないよう、力は使うんだ』


 初めて長文で話す雷伝の言葉は、不思議と重みがある。そして、胸にストンと落ちてくる。雷伝に師匠のような安心と信頼を感じながら、自分はまだ成長できる、強くなれる、と実感が伴う。



 ――雷伝との稽古は、気付けば夜になり、深夜まで続いていた。普段ならとっくに体力は尽きていたが、雷伝の力に支えられて、苦しいもののまだ動ける。なにかが、掴めそうな、そんなもどかしさが仁を突き動かしていた。


 仁の心にあるのは一緒に戦っている神崎と瀬名。神崎は同じ東京本校だから知っていたが、任務で一緒になるのは初めてだった。

 一見普通の女子高生に見えるのに、命を削るように戦う神崎。肉体は傷つくことはなくても精神に、魂に傷を負いながら戦う瀬名。誰よりも信頼できる仲間である二人が全力で攻撃に回れるように、自分は文字通り盾になりたいと強く思った。

 だから、今、ここで掴まなくてはならない。相棒であり、師匠である、雷伝から学ばねばならない。

 身体はそろそろ限界だ、次が最後の一戦だ。一瞬のチャンスを見逃すな。


 徐々に、徐々に荒い呼吸が納まっていく、バクバク言っていた心音が遠のいて、視界がクリアになっていく。


『好い覚悟だ』

「いくぞ」

『来い!仁!!』


 ――音が一切消えた。

 仁の目の前には、隙なく佇む雷伝。どの位対峙しているのか分からない、長い、けれど一瞬かもしれない。

 息も止まるほどの静寂の中、僅かに雷伝の剣先が揺れた。仁は大きく踏み出し、雷伝の剣を受け、力を逃すように流し、その勢いを利用して反撃する。空気を切る音。直後、ぶつかり合う刃と刃がキィンと鳴る。何度となく、刃同士が響く。

 刃先に何かが引っ掛かった感触を感じつつ、振り向きざまに切り上げて上段から来た刃を受け止め、弾くが、体勢が崩れた。体勢を戻す勢い全て体重と共に乗せて横薙ぎに振るう。

 ガツン、と手に響く手応えと共に、背中に衝撃を感じて、崩れ落ちた。


 音が戻ってくると、ドクドクと激しくなる自分の心音が煩く、一気に汗が吹き出し、全身が悲鳴を上げていた。自分が倒れているのだと自覚したのはたっぷり20秒ほど経ってからだった。


『仁、座れるか』

「……はい」

『最後の一撃、良かった。剣を弾かれた私は、反射的にお前を殴り飛ばしていた。己の未熟さだ』


 言葉が出なかった。手加減されているとは言え、訓練を付けてもらっている雷伝を一瞬でも本気にさせられたのだ。感無量、とはこういうことを言うのだろうか。言葉にならない衝撃が、染み込んでくる。


『仁、強大な相手だろうと、卑怯な手段を使う奴だろうと、お前の剣は切り裂く。私を上手く使え』

「っはい!!」


 今度こそ、あいつらを、仲間たちを完璧に守ってみせる。

 そう決意を新たに仁は伊津那いづな市に戻った。


 あの街でのミッションはまだ終わっていない。

読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ