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家族と共に殺されかけた少女、妖魔と契約して祓い師として立つ  作者: あるる


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第32話

 月が真天に上り、月冠となり鏡合わせの通路ができ、結子と葵が戦闘を開始したのを確認しながら厳槌(いづち)仁は伊津那(いづな)神社の宮司が来るのを待っていた。

 戦闘音が聞こえる中、さくさくと土を踏む足音と共にスーツを着た壮年の男性が姿を現した。


「今夜は関係者以外立ち入り禁止になっている。早々に出て行ってもらう」

「ふむ。私はこの学校の理事長なので、関係者だと思うのですが?」

「そうですか。理事であるならば、政府より明確な通達が行っているはずです。命が惜しければ立ち入るな、と」

「ふふふふ、こう見えても自分で対処できるので結構です。さあ政府の犬である青二才、お前こそ私の邪魔をしないで貰おうか!」


 この暑い時期でもきっちりと三つ揃えのスーツを着ている男性は、普段であれば紳士と呼んでも差し支えないのだろうが、血走った眼をして気炎を吐く姿は、まさしく鬼そのものだった。


「そうか、人の身のまま妖魔の眷属となったのか」

「その通り、我が二宮家は代々宮司として伊津那いづなの神に仕え、いつの日か再び神に降臨いただくために生きて来た!

 もう後数年で贄が揃い、時が満ちるという所で、余所者の邪魔が入るなど! 断じて許されん!!

 政治に胡坐をかいているにのまえ家でもなく、使命を忘れた三塚でもなく、我が二宮こそが今度こそこの地を! そしてこの国を制するのだ!」


 身振り、手振りが大仰な男の演説から得る情報はほぼないが、仁にとっては勝手に時間稼いでくれるので、放っておいた。しかし、二宮のこの学校の理事長を思い返していたものの、二宮の名前ではなかった。


「聞いてもいいか? この並河高校の理事長は弐条にじょう修司だったはずだ」

「ハッ! あんな青二才はこの私の影武者で傍流の分家のものよ!」

「では、あなたは?」

「私は二宮隆司。二宮の当主であり、宮司だ」

「……そうか、お前は本当に妖魔なのだな。初代二宮家当主、200年ほど生きる化け物か!!」

「ふっ、ふはははは! 良く勉強しているではないか、そうこの私こそが祖であり二宮だ。我が神により今こそ汚れ切ったこの国を浄化して作り直す時なのだ…!」


 二宮隆司の周りに無数の妖魔が湧き、仁を囲んでいく。先日の工場での状況と同じように、十重二十重に仁を囲んでいく妖魔の数に、流石の仁もため息を漏らした。一対多の戦闘は得意ではないが、仁も奥の手はある。結子と同じようにリスクのある手法のためできれば使いたくない類の手段だが、背に腹は替えられない。

 何より、後輩たちももとへ、こいつらを行かせるわけにもいかない。


雷伝(らいでん)、我が身に降りて雷と成れ!」


 全身に雷を纏った仁は文字通り雷となり、縦横無尽に妖魔たちを切り裂き、そして雷で焼き尽くしていく。10秒もしないうちに仁を囲んでいた妖魔は半数以上黒い粒子となって消えた。


「ほう! 良いではないか、流石祓い師だな。だが、まだまだ行くぞ、どこまで耐えられるかな?」

「……」


 仁は答える事無く、絶え間なく襲ってくる妖魔の攻撃を回避しながら切り払い、焼き、消滅させていくが、無尽蔵に沸くかのように途切れることなく妖魔は仁を襲い続ける。


 1分経ち、5分経ち、10分経ち無限とも感じるほど仁は絶え間なく動いていた。細かい傷は既に無数に受けているが、致命傷も重症もない、ただただ只管に敵を切り続けている。だが、それもそろそろ限界が見えてきている。


 20分経ち、とうとう仁は足に傷を負ってしまい、動きが一気に鈍くなってしまった。それを見逃す妖魔たちでもなく、一気に襲い掛かって来た妖魔をなんとか切り払いつつ、思い切って距離を取った仁は仁王立ちした。

 仁の態度が諦めたように見えた妖魔たちはそのまま襲い掛かるが、命を失ったのは、妖魔たちの方だった。


 仁は雲丹のような結界に護られていた。

 結子の攻勢結界・黒爪だ。この結界は近づく妖魔に自動で攻撃をするので、普通の結界よりも使用者は安全だ。仁は雷伝の力を解くと息が上がり、立っていられなくなり、片膝ついてぜーはーと荒い呼吸をしながらなんとか息を整えようと必死だった。

 結界もいつまでも持つ訳ではない、それまでに反撃の体勢を整えないと自分は死ぬだろう。だがその前に、頼りになる仲間たちが来る。そう信じて気合で呼吸を押さえ、剣を握りなおす。

 鋭さよりも、切れ味よりも、自分の力と雷で叩き斬るための無骨な相棒を支えに、結界が解ける瞬間を待つ。


 冷静にゆっくり呼吸をしながら、徐々に結界がギシギシと音を立て始めてからきっちり10秒後に崩れるタイミングに合わせて自分中心の範囲攻撃を行い、敵を弾き飛ばす。同時に晶に渡された護符を剣に巻き、切れ味増強する。

 自分を囲んでいた妖魔の数も大分減ったように見える、あの宮司を名乗る男が何かを叫んでいるのが見えるが、仁の耳には何を言っているか聞こえない。ただ、男は焦っているように見えるので、ざまあみろと思うと自然と口元が上がる。


 遠くで白く光っていた通路はもう光ってないようだ。ならば、仲間はきっと来ると信じて仁は剣を振るう。自分の状況も分からないが、これを耐えきればいい。

 くらり、と身体が傾くが、それも利用して反動で剣を振り回して背後の敵を倒した所で、完全にバランスを崩した。もうどこが痛むのかも分からない、持ちこたえられなかったかと諦めかけた自分の上に黒い影がピョンと乗った。


『遅くなった。悪い』

「い、や……助かった」


 ホッとすると、意識が遠のいて行く。こいつが来たなら、大丈夫だ――。




 唯子を葵ちゃんに任せて走って中庭に降りると、仁先輩が満身創痍になりながら多数の妖魔と対峙していた。全身ボロボロだけど軸足に力が入っていないと思った瞬間先輩が傾き、クロが飛んで行った。


「範囲殲滅、黒爪・乱れ撃ち!」


 先輩を守るように黒爪を雨のように3回に分けて降らせ、妖魔たちを縫い留めつつ殲滅していく。黒爪が降った後には、土と焦げくさい匂いが混じる。

 先輩にかなり無理をさせてしまった事を申し訳なくと思うその気持ちも殺意に変えて妖魔を祓う。


限定(リミッター)解除、黒刀」


 全身に満ちる力を込めて黒刀で一気に敵を屠りながら、悪態をついているおっさんの元へと距離を詰める。こいつが元凶なのは間違いない。これだけの妖魔が従っているのだから眷属の中でも上位にいるのだろう。

 避けられる前提で刀を振り、相手の体勢を崩して上段から斬り下ろす。ギィィィ!という金属同士がぶつかり合うような耳障りな音を立てているのはおっさんの腕だった。


「ふぅん、やっぱ人やめてるんだね」

「小娘が……私が人間だったらどうするんだ?」

「不幸な事故? でも、妖魔が従ってる時点で真っ黒、ギルティ。あんたが死んだ後で考えるよ」

「貴様らのような小童どもに私の計画が邪魔されるとは……許さん、許さんぞおっ!!」

「許さないからなに? ほらほら、油断してると小娘にさくっとられるよ?」


 刀を振るスピードを上げていく、おっさんは無駄口利く余裕もないのか、徐々に押されていく。後3歩、2……1、後退していた足が花壇の縁に触れた瞬間花壇から黒いツタが伸びて絡み取る。


「なに?!」

「シイッ!!」


 おっさんの首を斬り飛ばしたが、次の瞬間ツタが首を掴み花壇の中へと持って行く。


「なっ!? やめろ、私に! こんな事をして!! やめろ! やめ……」

「うわぁ~……この花壇こわっ、とゆかおっさんまだ生きてる、きもっっ」


 首を飛ばされたおっさんの体は、まだツタの中でもがいていた。


「止めを刺してやれ」

「先輩! りょうかーい!」


 首が弱点でないなら心臓だろうが、念には念を入れて胴体を刻むとツタが全て回収して花壇へと引きずり込んで行った。あのツタ、実は妖魔よりも怖いんじゃなかろうか…?


「ユウちゃん、容赦なかったねぇ~」

「いやいや、葵ちゃん(あきらくん)。あのツタなに??」

「トラップ型の式神だよ? 攻撃されるまで何もしない大人しい子」

「攻撃されると?」

「起動して、捕えて、吸収し終えるまで見事な花を咲かせてくれるの」

「この子はこの学校の花壇に全部いるの?」

「全部じゃないけど、戦闘になりそうだったこの中庭と体育館裏とかには設置しといたよ。妖魔にか反応しないから、安心だしね」

「クロ、気をつけてね」

『おう……』


 なんとか、全員生き延びることができた。

 あのおっさんがなんだったのか、葵ちゃんの式神とか、気になることはあるけど!今は誰一人失うことが無かったことを喜んで、引き上げることにした。


読んでいただきありがとうございます!

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