第24話
放課後は予定通り私はクロと一緒に三塚邸近くの住宅街の調査に向かった。もちろん途中八重子夫人にも昨日伺った神社がどこに移設されたのか気になるので今日は調査に来た、とご挨拶にだけ伺ったところ、暑いからと、飲み物までいただいてしまった。
心遣いがありがたい。
八重子夫人からも恐らく移設するなら住宅街の外れ、公園などがある辺りだとは思うがそちらの方に行ったことがないという話だった。クロ兄と相談して、分かりやすそうなその公園へ向かうことにした。
それにしても照りつける日差しが厳しい。日傘越しでも肌に刺さるほど。日傘を差していてこの暑さなのだから堪らない、早く秋に来て欲しい。切実に。
初めての場所で、しかも住宅街は目印が少なくて分かりにくい。地図アプリを開きながら、道を確認しつつ歩いていく。10分もあれば着きそうな公園に、まだ着かない。流石におかしい。
「クロ兄、この境界標さっきと同じだよね?」
「あー、さっき違和感あったのはそれか。ユウ、区画ごとに目印置いていくぞ」
「りょーかい。ったく、暑いのに止めて欲しいね」
「同感だ、さっさと終えよう。きっとアタリだ」
住居と住居の境目に目印を付けていくと、とある曲がり角で曲がった瞬間日傘の影が揺れた気がした。次の瞬間、私たちは3ブロック前の場所に飛んだ。やっと分かった。またそこまで歩くのが面倒だけど、行く。……この暑さの中を延々歩かされて、正直ちょっと腹立つし!
さっき飛ばされた曲がり角まで着き、境界標と地面を確認すると、それではなく通路の両側に何かが埋められていた。
「クロ兄、これ掘り起こして壊して大丈夫かな?」
「いんじゃね? まあ、100%バレるが」
「ですよねぇ~……先輩に電話するー」
がっくりと肩を落としつつ、スマホで厳槌先輩に電話をかけた――。
◇
一方、厳槌と瀬名はデートと晶が言っていた通り、可愛らしい格好をして中心街で待ち合わせをしていた。
「あ、せんぱ~い! お待たせしましたー!」
「おう」
「えへへ、気合入れてオシャレしちゃった。どうですか?」
「っ! 可愛いに、決まってるだろ」
「やった~! じゃあ、いきましょーー」
葵の外見の良さも伴って、完全にカップルにしか見えない二人が出来上がった。厳槌もまた背が高く、全体的に大柄な印象はあるものの顔立ちは整っており、私服がシンプルなので軍人的な格好良さがあるため、結局は二人共目立っていた。
二人はショッピングをしつつ、飲み物を買ってそれとなく市の中心にある市役所へ向かった。
市役所の1階ロビーに探していた街を見下ろした航空写真と立体地図があった。
「せーんぱーい、あったよ~! 見てみてー!」
「こうして見ると広いんだな」
「ねー! あたしたちは今ここで、がっこーはここ! こうやって見ると遠いね~」
口先ではそんな関係のない話をしつつ、二人は例の魔法陣の頂点を地図上で探していた。立体地図のおかげでより場所の特定がしやすくて助かる。
北に並高、北東に山、南東に何かの施設、南西に住宅街、北西に工場。南東の施設が分からないので、葵はあどけなさを装って案内受付にいる女性職員を呼びに行った。
「すみませーん、あの地図を見ても良く分からない施設があって教えてもらえませんか?」
「はい、どちらでしょうか?」
「あっ! あっちの大きな地図の所でお願いします~!」
「かしこまりました」
優し気な女性職員を連れて厳槌の所に戻って、様々な話を聞いた。
南東にある施設は市の公営体育館で、中には屋内プールもありかなり大きな施設となっているそうだ。並高の水泳部なども冬場はこの施設で練習をするらしい。
「ここって、一般人も使えるんですかぁ?」
「もちろんですよ。ただ体育館のコートなどは人気があり、予約されている場合があるので、先に体育館へ問い合わせることをお勧めします」
「なるほど~! 大きな体育館ってみんな使いたいですもんねー」
「もう1つ伺いたいのだが、こちらの工場は何の工場ですか? 実はこいつ、機械もすきで、良く工場も見学ツアーとかあるから、もしあるなら行きたいと思ってるんです」
「工場見学、楽しいですよね。こちらはですね、缶詰の生産工場ですので服装に規定がありますが見学は出来るはずですよ」
「ありがとうございます。おかげで次の休みの予定ができました」
「いえいえ、お力になれて何よりです」
「やったねせんぱい! 週末楽しみー!」
「だな、じゃあ今日はそこの公園をぶらっとして帰ろうぜ」
「はーい!受付のお姉さん、ありがとうございましたー!」
きゃあきゃあ話している若いカップルを微笑ましく見送る市役所の受付嬢だった。
受付嬢は気付かないまま、瀬名が結子から預かった目印を付けられていた。もちろん、市役所内の出入口や人通りの多い場所には設置済みだ。
「進捗は?」
「上々、全て問題ないですよ~。ふふっ、可愛いって褒められちゃいました~」
市役所内は特に不審な場所は無かったものの、人が多い割にはやはり妖魔の数は圧倒的に少なかった。敢えて残されている低級妖魔が数体いる感じだ。
途中アイスを買ってのんびり公園へと向かっていると結子から着信が来た。
「俺だ」
「先輩、あの子はやっぱり病気だったみたいでしばらく隔離みたいなんです」
「そうか、いつなら面会にいけるか?」
「無理を言えばいつでも。でも、ドクターストップかかってるから、無理もできないなって……」
「ふむ、なら正規にちゃんと申し込もう。今日は一旦諦めよう」
「はーい! じゃあ、また~」
「おう」
スマホを切るころには公園の中心にある池に着いていた。水は濁っているが、水草や魚影が多く見えていることから健康的な池なのだろう。
神崎の話では、怪しい場所には結界が張られていて突破は可能だが、リスクがあるがどうするか、と。厳槌は現状とさっき見たマップからどう攻略するかを考えていた。
厳槌が背を向けた池の水面を音もなく波立っているのを葵は見逃さなかった。流石に重要なポイントには罠も隠蔽もされているな、と逆に重要性が確認できた。何気なさを装って葵が近くに落ちていた木の実を放りこむと、ちゃぽんと小さく音を立てた後に複数の波紋が広がる。魚だろうか?と見ていると、ソレと目が合った。
「せーんぱいっ、さっきのユウちゃんですよねぇ?」
「うん?」
「あたしと居るのに酷いなぁ~。デートって嘘だったの?」
「神崎は友人の見舞いに行っただけだ。会えなかったらしい」
「ええっ、ごめんなさい!! 勘違いしちゃった! ……先輩、許してくれます?」
そう言いながら厳槌の手を取って、悲しそうにしている瀬名の頭をもう片手でなでながら慰める。何も問題ない、と。
だが厳槌の手を握っている葵は、「池に幻惑がかかっている、ヤバイ、引き上げて」と厳槌の手の中で伝えていた。「了解」と返す。
偽装デートの時間はおしまいだ。
幻惑も解くのは問題無さそうだが、こういう類のものは解いた瞬間、術者にバレるものだ。つまり幻惑や結界を突破するのは制圧を行うか、もしくは囮として解除するかのどちらかしかない。
定石は、全てを一斉に解除して混乱させることだが、今はまだ南東と北西の調査が終わっていないので保留だ。
何はともあれ、「今日のお夕飯はカレーだぁ!」と葵こと晶はほくほくとしてるのを見て、厳槌も今は一旦置いておこうと帰路に着いた。
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