第22話
翌日の昼休み、葵ちゃんと一緒に学校探検と称して体育館の周囲や部室棟を調べに歩いていた。並高は割と歴史のある古い学校なのに、意外にも施設自体は全体的に綺麗だ。
「へー体育館の裏にも花壇があるなんて知らなかったなぁ」
「なんだったかなぁ、学校案内のパンフかなんかに3代前の理事長がお花を好きな人って書いてたよ?確かお花や草木は土が飛ぶのも防ぐから学校を綺麗にするにも役立ってるって」
「そうなんだ! そっか、これだけ多いから園芸委員って委員活動まであるんだね、納得。というかパンフまで読んでる葵ちゃん、偉い!」
「でしょー? もっと褒めてくれていいのよー?」
話ながら、よく見ると、花壇と植木が敷地の境を成している。単なる装飾というより、意図的な線引きのようだ。学校の敷地を分かりやすくするだけならフェンスなどの方がよっぽどお手軽だと言うことから考えると、他にも意味がありそうに感じる。
根拠はないし、現状霊的な意味での境界線も感知できないので、推測でしかないけど。恐らくあのチャイムが鳴ったらここから出られなくなる。そんな気がする。
裏側からぐるっと回ると、この学校は伊津那市の真北に位置していた。東側には低い山があり、傾斜のある立地のせいか、市の中心部まで一望できる。
「……あ」
「どうしたの? 葵ちゃん?」
「ユウちゃん、ここは六芒星の頂点だ。やばいよ、この街自体が何かの仕組みの一部だ」
青ざめて言う葵ちゃんの指摘に視線の先を追う。改めて見ると、街の主要道路が円形に走っているようで、実際には六芒星の線を描いていた。上からでは分からないよう巧妙に設計されている。街自体が巨大な魔法陣になっていた。
この規模での魔法陣で、何をしようとしているのだろうか。話の規模が急激に大きくなった事に私も葵ちゃんも血の気が引く。
「……クロ」
学校に居るから返事はないけど、クロは即座に本部にこの光景を送ったはずだ。航空写真などでバレなかったのは、私たちもここで初めて気付いたように、恐らくこの学校のこの場所からじゃないと見えないように、六芒星の線となっている道路も上から見るとズレていて形が把握できないように設計されているなら、妖魔だけじゃなくて人間も関わっている。それも、街をどうこうできる、権力者がいるはずだ。
その瞬間、頭上から肌を刺すような冷たい視線を感じた。
葵ちゃんと視線だけで合図し、一斉に振り向いた。体育館の壁があるだけだった。視線はその奥、壁の向こうから見えてはいないけど妖魔に視られたのは確実だ。2人で反対方向にダッシュで走り、生徒の多い中庭とグラウンドの方にお互い出て人に紛れてお昼休みの終わりと共に教室へと戻った。
気持ち悪い事に視線はずっとついてきている感覚がある。誰かに移ったなどではなく、常に斜め上からの視線なのを考えると私と葵ちゃんそれぞれに憑いたと考えた方がいいだろう。
今日は一緒に行動するのは不味そうなので、葵ちゃんには厳槌先輩と帰宅してもらい、私はクロ兄と帰宅した。そして、久々に八重子夫人へ会いに行く。夫人宅は学校からも距離があるので、アレがどこまでついてこられるのか見る意味もある。
私とクロ兄は他愛のない会話をしながら帰宅し、着替えて、お借りした本をまとめ、バス停へと向かう。
八重子夫人のお宅に伺う前に、街の中心街に寄って焼き菓子の詰め合わせを購入して手土産にする。街の中心に来たあたりから、背後から付いてきた視線はいつの間にか消えていた。
問題はないことを確認して、夫人を訪ねると前回と同じように朗らかに迎えて下さった。
「いらっしゃい! 結子さん、もう体調はよろしいの?」
「はい、ご心配おかけしました」
「いいのよ、さあさあ上がってちょうだい。あなたの顔色が良くてホッとしたわ、玖朗さんもどうぞ」
「ありがとうございます」
「ユウ」
「そうだった、クロ兄ありがと。八重子夫人、これ良かったら受け取ってください」
そう言って紙袋から菓子折りを渡すと優しい笑顔でお礼を言いつつ、「ここのお菓子好きなのよ」とお話しながら応接室へと向かった。相変わらず日本とは思えない優雅な作りのお宅だ。
「お持たせで申し訳ないけど、一緒にいただきましょう」
「はい、ありがとうございます。あ、アイスティー美味しい!」
「ふふ、そうでしょう? これは友人に教えてもらった特製なのよ」
「香りも味もしっかりしているのに、渋みが全然なくて……あ、あの、これ淹れ方教えていただいたらダメですか?」
「まあ! もちろん全然構わないわ、でもとっても簡単なのよ?」
そうウインクして教えて下さる夫人は本当にチャーミングで、上品な夫人の育ちの良さが伺える。アイスティーの作り方は本当に簡単だった、沸騰したお湯に茶葉を入れて弱火で3分、すぐに茶葉をこして粗熱をしっかり取るだけだった。
家でも作ろう、と心のメモに書き込んで今日も離れの書斎にお邪魔させていただく。
八重子夫人もあれから興味を持ってくださって、書籍の整理などもして下さっていた。
「読んでみると案外面白いものね。何年も住んでいるのに知らないお話しが多かったわ」
「意外と近い場所って盲点ですよね」
「ええ、灯台下暗しとは言いえて妙なんだなって納得してしまったわ」
そう話しながら夫人が見せて下さったのは古地図だった。
明治の頃、昭和初期、そして10年前のものと見比べる事ができた。そして分かったのは昭和初期の地図、昭和23年のものには並河高校は既にあった。そして、六芒星はほぼ出来上がっているように見える。この頃の地図は建物が少なく、六芒星の線も確認しやすい。それでも上空からは形が分からないよう、意図的に設計されたとしか思えなかった。
一体何年前からこのシステムは出来上がっていたのだろうか、そして各頂点に当たる場所にはきっと何かあるはずなのでこれも調査しないといけないかと思うと、ため息をつきたくなる。
「凄いですね、この街の発展が分かりますね」
「そうなのよ、この昭和23年頃は私もまだここには居なかったので見たかったわ」
「八重子夫人は何年ごろにこちらにいらしたんですか?」
「たしか、昭和40年頃に嫁いで来たのよ」
「そうなんですね、今もこんな素敵なんですから、当時は美人さんだったんでしょうね」
「まあ、結子さんったら。そうだったら嬉しいわ」
「絶対ですよ!」
八重子夫人と雑談をしながら、当時から残っているものをそれとなく聞き出していく中で、聞き逃せないものがあった。その昔この三塚宅の敷地内に小さな神社があったが、いつの間にかなくなっていたと。ありえない、と即座に思った。
ただ、昔の事なので覚え違いかもしれないとは仰っていたが、普通そういった建造物は簡単には移設はできない。でもこの家は三塚である事を考えれば、何らかの理由で移設したのだろう。これは確認しなければいけないと、日が暮れる前に八重子夫人のお宅を失礼した。
勿論また数冊の書籍はお借りした。
八重子夫人宅をお暇して5分ほど歩いて、住宅街の端へとたどり着いたが途中、小さな神社や社は見当たらなかった。日はもうほとんど沈んでいて、そろそろ妖魔も増えてくる。このまま歩き回るのは危険だから、目印だけ何ヶ所かに撒いて帰路に就いた。
クロ兄は何かをずっと警戒しているようで表情が厳しい。今回も中心街に寄ってから帰宅した。背後を追う視線はないけれど、その代わり妖魔の気配が複数、ざわめくように漂っている。
しかも人間も関わっている事が分かった今となっては、人間であっても油断はできなくなってしまった。この街のどこに敵がいるのか、分からない。
「ユウ、落ち着け。今敵はいない」
「っ! ……うん」
晶くんと厳槌先輩がいる。八重子夫人だって、どうなるかは分からないけど、良くしてくださっている。クロもずっと一緒にいる。
「はあ、やっと帰ってこれた……つかれたぁ」
「ユウ、悪いが今日はいつもの夕食会と報告会は必須だ」
「うん、じゃあ手伝ってくれる?」
「オレ様がやっておくから、寝ろ。ホットプレートと飯だけでいいだろ」
「助かる」
本当に、私の身体は無理がきかない。ちょっと……かなり、もどかしいけど、不満はない。
クロに迷惑かけちゃうのは、しんどい。
気遣うようなクロの気配が温かくて、意識は遠くなって行く――。
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