第20話
目が覚めた瞬間、自分がどこにいるのか分からず無意識にクロの気配を探すと、クロの前足に押し倒されてベッドにまた沈んだ。酷い。
「ここ、どこ? 今、何時?」
『本部の持っている医療施設で、今は明け方4時』
「……私は何日眠っていたの?」
『5日間ガッツリだな、メンテ始めて無理だって分かってアキラとデカブツに頼んでここに来た。そのままメンテはオレ様とアキラが不眠不休でやったんだから感謝しろよ』
そう話すクロも大分疲れているように見える。久々の限定解除で肉体の方の損傷が酷かったのかもしれない。
「あっちゃあ~……晶くんにも迷惑かけたね」
『それだけじゃねえ』
「え、まだあるの?」
『三塚八重子夫人』
「あっ……」
『約束破っちまうことになるから、デカブツとアキラが行ってくれた。ユウが病状悪化で入院してるからってていで』
もう、頭を抱えるしかない。間違ってはないし、みんながフォローしてくれてめっちゃ助かってるんだけど……申し訳がなさすぎる!
「クロ~……」
『明日2人とも来るから、詳しい話しはその時聞け。オレ様は寝る』
「うん、おやすみ。いつも、ありがと」
『落ち着いたら漬けの鉄火丼』
「あは、もちろん。いいマグロの作、探そうね」
目は覚めたけど、まだまだ本調子ではなかったせいか、そのまままた朝までグッスリ眠ってしまった。次に目が覚めたのは賑やかな、心がちょっと浮き立つ声が聞こえてだった。
「あ、きら……く、ん? えっ?」
そこに居たのは、想像していた葵ちゃんの姿の晶くんではなく、身長は厳槌先輩よりはちょっと低いけど、背が高く声もちゃんと男性の声をしている人だった。
「うん、これがボクの本来の姿。改めて瀬名晶だよ、よろしくね」
「うわぁ~カッコイイ。うん、でもやっぱり雰囲気は葵ちゃんとそっくりなんだね、びっくりしたけど、不思議と全然違和感ないや」
「はは、さすがユウちゃんだ。葵ちゃんも、ユウちゃんや厳槌先輩は心配ないよって言ってくれてたんだ」
「そっかぁ~……っていうか、晶くんも厳槌先輩もご迷惑いっぱいかけて!!」
「迷惑? 特にそんな覚えはない、な? 瀬名?」
「ユウちゃんのメンテのお手伝いと八重子夫人の件でしょ? 全然心配ないよ」
「ああ、素晴らしく毅然とされた華族のようなご婦人だった。それにあの蔵書は宝の山だな!」
珍しく厳槌先輩が目をキラキラさせて、次から次にどの蔵書がどう素晴らしくて、更に夫人の気遣いが云々と厳槌先輩がマシンガンのように話し続けるのを前に、私は目を白黒させてしまった。不意に横を見ると、晶くんに手招きしていたのでそ~っと部屋を出た。
「ごめん、ごめん。先輩、ああ見えて読書家だからさぁ、貴重な本の山に大感激してしかも割と昭和な人じゃん?ノリが。
だから八重子夫人の一歩下がりつつもしっかりと意思を持ち、毅然とされているのにそりゃも~惚れ込んじゃって。
あと10年早く会いたかったって、耳にタコができるくらい聞いたよ」
「それは不味い燃料投下しちゃったね」
「まあね。でも先輩楽しそうだし、問題ないよ。ユウちゃんの体調は?」
「もう問題ないって、明日には退院して明後日から登校できるよ。晶くんは学校はどっちで行ってるの?」
「もちろん、葵ちゃんで。ボク自身は危険だから定期的に隠れ家を変えつつ、基本的には解決するまでこっちではもう来ないかも」
「そうだね、安全第一で行かないとね」
「そそ、じゃあもうそろそろ先輩を止めてボクらは退散するよ~」
「また明日ね、葵ちゃん」
にこっと晶くんは笑うと、未だに熱く八重子夫人について語ってる先輩を連行して帰って行った。
二人が帰るとやたらと静かで驚いてしまう程で、少し寂しくなった。でも、きっと明日からはまた賑やかになるだろう、と思うとつい笑ってしまう。
「クロ」
『ん?』
「明日、帰り道にスーパー行こうね」
『おう』
「クロ……ちょっとだけ寂しいからいてね」
『しゃーねぇなあ』
温かい黒猫のクロを抱いていると自然と瞼が落ちて眠ってしまう。もしかしてクロがなにかしてるのかもね。
なんて思いながら今夜も気持ちよく眠りに落ちて行った。
翌朝は最後の検診を受けて10時頃に退院した。クロ兄と葵ちゃんがお迎えで3人でわいわいと話しながらお買い物にスーパーに寄りつつ帰宅することになった。
「今夜は漬けの鉄火丼が決定なんだっけー?」
「そうだよ、他はまだ決まってないから美味しそうなものないか見つつ決めよう?」
「やったー! 久々のユウちゃんのごはんー♡」
ウキウキな葵ちゃんと一緒にスーパーに行くと夏野菜が美味しそうだったから、夏野菜のカレーは明日作る事にした。今夜は豚バラのから揚げと、ポテサラは買って、あおさと豆腐のお味噌汁を作る事にした。
3人でわいわいと帰宅すると、留守にしていたのも分からないくらい綺麗に維持されていてそのまま調理を始められるので助かった。
お夕飯がほぼ出来上がった頃に晶くんが厳槌先輩を呼びに行ってくれて、久々に四人で囲む食卓は賑やかで笑いが絶えなくて楽しかった。
晶くんがクロのから揚げを食べてクロが怒り、二人で取り合いをして、クロが悔し紛れに先輩の残していた漬けマグロを食べて先輩がガチギレしたり、もうてんやわんや。流石のクロもから揚げを先輩に進呈して事なきを得たので良かった。
いつも通り片付けも一通り終わると報告会が始まって、先輩の真剣なまなざしに自然と気持ちが引き締まる。
「神崎が入院していた間の報告書は目を通したか?」
「はい」
「では、確定した情報でないため報告書には書いてないが、角度は高い情報を共有する」
「了解です」
先輩の話によると、残りの七不思議の内【体育館の吊り天井から覗く顔】の妖魔に似た昔話と、【合わせ鏡の廊下】の発動条件についてだった。
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