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家族と共に殺されかけた少女、妖魔と契約して祓い師として立つ  作者: あるる


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第19話

 まったりと眠っている幸せな時間に、意外と痛い顔をペチンペチンとする感覚で無理やり意識を引き上げられ目を覚まされた時の不快感ったらない。


『ユウ、おきろ』

「……」


 話す気力もなくてクロを忌々しく睨みながらぼーっとする頭を振って覚醒しようとしているのに、クロは何度もペチペチしてくるのがうざくて仕方ない。


『……チッ、要点だけ言う。清水が消えて、監視が死んだ』


 一瞬理解ができない。


「はっ? 今なんて……」

『ユウ、急がないと清水が本当に死ぬ。今ならギリ間に合うかもしれねぇ』


 文字通りベッドから飛び起きて、クロゼットに向かいながら着替える。


「ごめん、目、覚めた!晶くんと先輩は?」

『先行してもらった』

「りょーかい」


 戦闘服の暗器も全て確認出来て、ブーツを履いて戦闘準備が完了した。


「フルアーマーで準備終わった、案内して!」


 家の外に出るとサポートの担当がバイクで後ろに乗せてくれて、そのまま向かった先は学校だった。並高の裏門からそのままバイクで入って、プールに到着して私がフェンスを越えたその瞬間、またしてもチャイムが鳴る。



 キィィイイイイイインコォオオオオオン……カァアアアアアン…コォオオオオオオオン……


 引きつれるような、狂気を感じるチャイムが響き渡っている。聞いているだけで神経を引っかかれているような、脳にこびりつくような不快感と共にまだ夜が明けきらない時間だったはずが、全て赤い、紅い、朱い夕日に染まった空間になっていた。

 ここは今、妖魔の領域になっている。


「ユウちゃん、良かった間に合ったんだね」

「《《葵ちゃん》》、なんでここに?!」


 葵ちゃんこと、瀬名晶くん――瀬名葵の従兄弟であり、能力も同じ半身。でも、本来戦闘メインではない彼が確実に戦闘になるこの場にいるのは不自然だ。

 

「あたしもね、来る気はなかったんだけど……あたしの半身とも言える《《彼女》》に呼ばれたんだ」

「え」

「罠だよね、分かってる。でもね、来ない訳に行けないんだ~……だから、できることはやるし全く戦えない訳じゃないから」

「うん……お願い、気を付けて」

「もちろん! 先輩は、あそこ。あの水面の一角をずっと睨んでる。ユウちゃん、いい、不用意に動いちゃダメだよ? 何を見ても冷徹に、今は祓い師の時間だ」

「そっか……清水くん、見つけたのね。了解。祓い師は常にクールじゃないとね、大丈夫。 妖魔を殲滅するその時まで、私は生きるって約束したから」

「終わったら、がっこ休んで女子会だよー」

「あはは、楽しみ!じゃあ、行ってくるね!」


 晶くんの視線を振り切って私はプールの前で仁王立ちする厳槌先輩の元へ行った。進みつつ、プールが海になりやたら気色の悪い魚影や水面を見上げる視線の中に、眠ったように揺蕩う清水くんを見つけた。

 なるほどねぇ、餌かぁ。


 確かに、私は人に死んで欲しくない、けどそれで仲間を危険に晒すほどアホでもない。

 その代わり、報いは受けてもらう。絶対に許さない。


「せーんぱいっ、どうですか?」

「見ての通りだ。どうしても俺たちを釣り上げたいらしい」

「ふぅん……いっそ逆に水から引き出してやりましょうか?」

「できるのか?」

「クロ」

『あ″あ″?』

「《《アレ》》、酸素足りないみたいだから、グラウンドに出してあげよっかな~って思って」

『……おい、でかぶつ。ユウが面倒なモード入ってやがるぞ!』

「少し暴れさせせてやれ」

『マジかよ。ユウ、メンテ3日だ。アオイ、てめぇも手伝え』


 晶くんが「おけまるー」と返すとクロが心底嫌そうな、本当に嫌そうな顔をして私を見下ろしながら、ため息をついた。


『5分だ』

「あは、さっすがクロ~! さっさと終わらせるよ! 先輩、合図をお願い。それで一気に、()る」


 宣言と共に殺意が溢れ、集中していく。全ての力を全身に行きわたらせ、私自身が殺意の塊へと変化するようなこの瞬間は嫌いじゃない。普段抑えているネガティブな感情が、今、私の力になっている。

 葵ちゃんのあの惨い姿、清水くんの怯えた姿、そして今既に亡くなっているかもしれない状況。全部、全部許さない。

 反撃の時間が始まるのを待って、静かに静かに水面を見る。大きすぎる怒りは、波が凪ぐように抑えられた。



「神崎、待たせたな。やれ」


 先輩の声と合わせて無数の細かい黒い槍、釣り針のような槍が水面を貫き、その針にかかるもの全てを絡めてまとめて、一気に引き上げる!

 普段なら不可能な力技だ。限定解除した能力と共に肉体のリミッターも全て解除して、そこにクロの影を自在に操る能力も併せて――プールの中身ごと引き剝がす。


「てやぁああああああ!!!」


 背負い投げの要領で全てを引きずり出し、フェンスを破壊してグラウンドに投げだしてやった。手足も背中も全身が痛いし、息は上がっているけど、まだだ。

 ビチビチとのたうち回るまとまった《《ナニカ》》を雷をまとった先輩が大剣で斬り下ろす。

 先輩が避けるのも待たずに今度はさっきとは違う無数の杭のようなやりを虚空と地面から突き出し、食い破るような勢いで妖魔を切り刻む。


 絶え間なく超音波のような「キィイイイイイイイイ」という声が聞こえるけど、知らない。


葵ちゃん(あきらくん)、逃がさないで」


 瞬時に妖魔は晶くんの張った結界に捕らわれたのを確認して、私は次の武器を作る。

 肉を叩く凸凹のあるハンマー――すりこぎのようなもので、上下から……全力で叩く!そして、すり潰す!!


「わああああ、ユウちゃん! 加減して!!」


 内心で晶くんにごめん、と謝りつつ容赦しない。徐々に妖魔は黒い粒子になって消えて行くけど、まだだ。


「ユウちゃん!! 清水くん! 潰れちゃう!!!」


 聞こえた瞬間、巨大肉叩きは消え、崩れ落ちるように清水くんの元に寄ると、流石晶くんの結界だけあって無事だった。


「清水、くん?」


 声をかけると、薄らと目を開いて「神崎さん」と応えてくれた。その、清水くんを、私は容赦なく黒い刃で貫いた。


「っが!! な、なっ!」

「甘いなぁ、もうちょい油断誘わないと。口元が上がってるよ」

「クククク……くたばれ、祓い師」

「んふ、お・こ・と・わ・り♡」


 私の背後で清水くんの触手のようになった手が動こうとするのを地面から出た刃で縫い止めつつ、清水くんの心臓を貫いた刃をウニのように弾けさせ確実に妖魔のコアを砕く。

 ようやく、清水くんの姿をした妖魔は黒い粒子になって行った。対処は終わったけど、結局清水くんを助けられなかった自分への失望感が募る。


「ユウ、時間だ」

「うん、後よろしくね。葵ちゃんを……」


 そう、葵ちゃん、瀬名晶くんは妖魔の討伐を確信すると校舎内へと走ったのだ。

 けど、私はタイムリミットで当分動けないし、もう意識朦朧としてるので、全てをクロに預けた。


 


 猫の姿ではどうにもならないから、人の姿、人型ヒトガタになって意識を失ったユウを抱き上げ、アオイの走って行った方向を見つつ厳槌に声をかける。


「でかぶつ、場所は把握してるな?」

「ああ、瀬名がちゃんと誘導してくれている。コレを付けろ」


 そう言って渡されたイヤホンを渋々ヒトガタを取っているので、耳につけると声がした。


「おまたせ、葵ちゃん♡」

「あきーー遅いよぉ」

「うん、ごめんね」


 クロと厳槌が保健室の窓の外から見たのは、血みどろの保健室に吊られた瀬名葵の首と会話する瀬名晶だった。


「惨いな、写真では見たが…」

「ああ、オレ様が見た時のままだ。……チッ。おい、あの瀬名葵は、本人だ」

「ああクソ、目的は蜃気楼の入手か。晶は分かってて行きやがったな……」

「やるか?」

「校舎の壁をぶち抜く、下がれ」


 厳槌は再び雷を身に纏うと抜刀で保健室の壁を切りつけたが、ビクともしなかった。それよりも、厳槌はその手応えに驚きの表情で剣を引き、怒鳴った。


「何故だ瀬名!! 瀬名、葵!!」

【ごめんねぇ。ちょっとだけ、あきと話したいの。もう時間切れ間近なんだ……ここまでもったのがキセキだから、じゃましないでね?】


 呆然とする厳槌は、切り替えたのか一瞬たりとも目を離さい、とばかりに保健室の中を睨みつけている。そうか、瀬名が残りの生命力を使って結界を張っていたなら、ちょっとやそっとじゃ壊せるわけじゃない。

 オレ様たち妖魔の力は思いの力と言ってもいい。オレ様の影、蜃気楼の拒絶と幻惑、厳槌は……雷は一度も姿を見た事はないが、現象は妖魔の存在とほぼイコールだ。瀬名は残った生命力全てを振り絞って、蜃気楼の力でギリギリ維持してアキラを待っていたんだろう。


 厳槌が待ちの体勢になったの確認して、保健室の方から瀬名アオイの声が聞こえてくる。


「あき、ごめんね。あたし、先に死んじゃった……」

「おかげで、あたしは独りぼっちだよ。寂しいよ」

「そうだよね、ごめんね。でもね、死ぬ前に絶対あきに伝えないと死ねないって思って無理しちゃった。てへ」

「仕方ないなぁ。なあに? あたしに伝えないといけないことって」

「あのね、あたしね、あたしとソックリじゃないあき好きだよ? だからね、あきももう呪縛から解放されよう。

 あたしのドッペルを使わない、素のままのあきもとっても魅力的、だから蜃気楼はあたしたち2人を選んだんだよ? あたしだけじゃなく、あきだけじゃなく、2人を。

 あき、大好き。あたしの気持ちと一緒に、蜃気楼は完全に戻るの。2つに分かれていた蛤は1つにもどって、あきを守るの。

 だから……ずっと、ずっと優しいあきのままでいてね?」


 外からは見えないが、アオイの力はアキラへ受け渡されたのだろう。動揺にどうしていいか分からなくなっているアキラは痛々しかった。


「え……あ、やだ、葵ちゃん……い、かないで!! ボクは、まだそんな……葵ちゃん、一人は!!」

「大丈夫、あき……あたしの魂の一部もあきの中にあるから、ずっと……」

「っ!!葵ちゃん、待って、待って!!」

「ごめ……じか、ん…ぎれ……あい、し……」

「あああああああああああああ!! ボク、も……ずっと、ずっと大好きだったんだ。憧れて、たんだ……だれよりも大切だったんだ……」


 瀬名アオイの結界が消えると共に、妖魔の領域も解除されてオレ様たちは全員校庭に居た。校庭には、ただ悲痛な瀬名アキラの泣き声が、慟哭が響いていた。


 泣き崩れた瀬名アキラは厳槌が、オレ様はユウを抱えて任務終了を報告して帰宅した。


 清水浩一は亡くなったが、遺体もなくこのまま行方不明で処理されるだろう。

 残りの七不思議は5つだが、その内の1つは妖魔ではなく領域化のトリガーでしかないようなので、残りは4つだ。


 まだ眠る2人が起きてから、次の調査が始まる――。

読んでいただきありがとうございます!

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