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家族と共に殺されかけた少女、妖魔と契約して祓い師として立つ  作者: あるる


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第18話

 水の音が、磯の匂いが、常にまとわりついてくる……どこに行っても、何をしていても水から逃げられない。

 足元で、ちゃぷちゃぷと水が音を立てている。


 この教室は2階だというのに、ここまで浸水していると言うことは1階は水で満たされているはずなのに誰も驚く気配もなく、いつも通り賑やかに話している。きっと、僕だけがおかしいんだ、とは気付いている。

 でも、窓の外は水で覆われていて海の中のように魚の幻影さえも見える。


 クラスメイトや先生は気にしてる風もない。

 隣の席の神崎さんが心配して声をかけてくれるけど、答える余裕があまりない。本来ならとても嬉しいのに、水の音が気になって仕方ない。


 こぽこぽと音を立てて水が落ちる音がしている。

 いっそ沸騰させて蒸発させてやりたいのに、僕の周りは徐々に冷たい流水が押し寄せてくる。


「次の部分、清水くんにお願いね」

「……」

「清水くん?」


「清水くん……」


 腕に触れた何かに驚いてそっちを見ると神崎さんが何か言っていた。

 良く聞こえず前を見ると国語の教科担任やクラスメイトが僕を見てて焦った。


「清水くん、大【バシャバシャ】……?」

「え、ええと……ご、めんなさい、ぼーっとしてました」

「清【ちゃぽちゃぽ】、ここ」

「ありがとう」


 神崎さんが教えてくれた箇所を読み上げて、なんとか事なきを得た。それにしてもこの水の音は参った、授業もほぼ聞こえない。



 なんとか授業が終わると、神崎さんがとんとんと腕に触れてくれてノートを見せて来た。


(耳、聞こえてる?)


 首を振って答えると


(念のため、保健室行かない?)


 確かに、医学的に何とかなるなら……

 一縷の望みをかけて神崎さんと授業の合間に保健室に向かう。

 水に沈んでいるんじゃ、と思ったけど僕たちが階段を降りると少しずつ水が引いて行った。驚きつつも、徐々に様々な音が聞こえつつも微妙に聞こえにくい。


 保健室に着いて、神崎さんが養護の先生と話していて、そのまま僕はベッドに横にならされた。なにが?と思う暇もなく、なんか耳に変な音がしてびっくりした。ぐしゃあ……ともぐちゃあとも言えない気持ちが悪い音がふいに消えた。


「清水くん、きこえる?」

「えっ、あ、ハイ……」

「じゃあ、起きてみてくれるかな?」


 恐る恐る起き上がると、音がハッキリ聞こえる。感動的なほど色んな音が聞こえる事が嬉しくて、思わず「こんなに音がしているんだ」と声に出てしまった。


「ふふ、やっぱり聞こえてなかったんだね。もう大丈夫そうでよかった」

「神崎さん、ありがとう。助かったよ」


 嬉しくて、口元が緩んでしまう。


「じゃあ、ちょっとこれを見てね」


 先生が見せてくれた銀色のお盆のようなものの上に、15センチはある長い藻のようなものがあった。しかも、磯臭い。


「先生、これは?」

「なんとね、君の耳から取れたもの……なんだなぁ」

「うげっ、マジですか?」

「マジなのよ。昨日は気付かなかったんだけど、きっとプールで沈んだ時に入ったのかとは思うんだけど、まさかこの大きさのものが耳にあるなんて……。 耳、今痛くはない?」

「はい、聞こえやすくなりましたが、痛くは……ないです」

「じゃあ、一旦は様子見かしら。なにかあったらすぐ来てね。耳鼻科に行ってもいいわ」


 先生との話を終えて、保健室を出ると隣のクラスの瀬名さんが待っていた。


「ユウちゃん、清水くん大丈夫?」

「葵ちゃん! なんか耳が聞こえにくかったみたいだけど、今は大丈夫! ね?」

「うん、昨日に続きありがとう。ずっと聞こえなくて怖かったんだけど今ははっきり聞こえるよ。音が聞こえるって嬉しいね」

「良かった~、じゃあもうお昼だから学食いこーよー!」



 ワイワイとしながら学食へ向かいつつ、清水くんの顔が明るくなった事にホッとした。妖魔による浸食がどの程度かは判断できないけれど、今の状況を見る限りはそこまででもないかも?とりあえずはもう少し様子見かな?


 そう思いながらその日は問題無さそうだったので、通常通り帰宅しつつ清水くんに付けた目印マーカーの様子を見つつ物理的な監視は本部のスタッフに任せていいだろう、と先輩と晶くんとも確認して解散になった。



 その夜、清水家にて――。


 清水浩一は水の中に居るような気がしていた。

 自分の息がこぽこぽと泡となって水を上って行き、全身を包む冷たいような温かいような感覚。不安定なのに、安心感がある。


 ああ、僕はここにいていいんだ、と理由もなく思う。

 あたたかい……



 そこを唐突に誰かの声が聞こえた。


「浩一? どうしたの? ご飯よー!」

「ごめん、今行くよー」


 温かな水はいつの間にかなくなり、足が地面についている。体が重い。

 でも、母さんが呼んでいるし、ご飯は食べないと……と理性が働いて無理やりにも体を動かしている。


 いつもの行動で、いつもの生活で、いつも通りに動いているはずなのに、違和感がある。

 水が怖かったのに、水に包まれていたのは何よりも幸せだった。


 僕は、本当は魚だったのかもしれない。

 なのに、ここにヒトとしての僕が居る。


 どっちが現実なんだろうか。



 分からない……けれど、決めなきゃいけないって感じている。

 僕は……ボクは、ドウシタイノダロウ?




 ああ、でも、消えるのは嫌だな。


「僕は……」



 ふと、瀬名さんや神崎さん、同じクラスで仲のいい奴らの顔が思い浮かんだ。

 そうだ、色々やりたい事があったんだ……。



「ボクハ……僕は、人間として、生きていきたい」



 そう思った瞬間、僕は全身が痛くなって意識が覚醒した。

 全身をぬめぬめとする何かに全身をぐるぐる巻きにされて、自分の部屋の中心で宙吊りにされていた。あまりに苦しくて、痛くて、声も出ない


「……いっつ……かあさん、にいさん、助けて!」


 空しいほどの無音が、徐々に怖さが募って行く。

 誰も来てくれない、どうしたらいいんだろう、怖い、怖い……。



「とう、さん!!かあさん……にいちゃん……神崎さん、瀬名さん、誰か!!!」



 空気が震える、何かが嗤っている。

 腹が立つけど、それ以上に怖い。


 ぽとん


 ぽとん、ぽとん、ちょろろろ……


 水の音と共に磯の匂いが部屋を満たしていく。


 怖さに歯がガチガチとなっているけど、止められない。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い



 もう、誰も助けてくれない、助けられないと絶望に満たされながら僕は水に飲まれて行った――。



 翌朝、本部の人間の死亡の報告と共に清水くんが自宅から行方不明になった事が伝えられた。

 どこかで、ぽとりと水の落ちた音がした。

 

読んでいただきありがとうございます!

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