第15話
翌日から予定通り憂鬱なプール……水泳の授業が始まった。この貧弱な体型を晒したくないので、ラッシュガードを着ていいのは非っ常にありがたい。
はあ、憂鬱……今日も今日とて沈むのだろうと思うと。
身体が弱くて、定期的にバグる人がやたらにスポーツできたりする訳ないじゃん?日常生活は基本的には問題ないけど、体力は普通の人の半分くらいしかないんだから、水泳なんてやってられんて。心肺強化でやらされてるけど、泳ぐんじゃなくて水の中歩いたりだし。
自分の中でひたすら言い訳しながら恨めしそうに眩い青空の外を見ていたら、「観念しようね♡」と葵ちゃんに捕獲されてプールに連行されてしまった。葵ちゃん(オリジナル)のプロポーションやばいいいなぁ、羨ましい。素直に羨ましい……おいそこの男子共、見るな!減る!!
「ユウちゃん、威嚇しない……」
「だって」
「減らないから」
「減る、つか私に少し寄こせ」
「ユウちゃんはそもそもあまり食べれないからねぇ、華奢なのも可愛いと思うよ?」
「くぅっ……どうせ、お子様体系だものっっ」
苦笑しつつ私を宥める葵ちゃんに連れられてプールに入ると思った以上に冷たくて、思わずみんなと一緒にキャーキャー言いながら楽しめた。先生からも今日はほぼレクリエーションだからまずは水に慣れろって言われたからプールの底に沈められたビー玉を拾ったり、泳ぎが上手な人たちは奥の3レーンを使ってクロールで泳ぎ始めていた。
「いいなぁ、あんな風に泳いでみたいなぁ」
「うーん、ユウちゃん浮けはする?」
「ううん、私力の抜き方が下手みたいでバランス取れないんだ」
「じゃあさ、あたしが下から支えるから仰向けで浮いてみようよ」
「寝そべる感じ?」
「そうそう、水の中なら女の子同士でも全然余裕だから、ほらゴロ~ンって」
恐る恐る上を向くと葵ちゃんがちゃんと足と首の下を支えてくれて、耳元で水がちゃぷちゃぷしてなんか気持ちいい。
「どう?怖い?」
「ううん、太陽がちょっと眩しいけど、気持ちいい。不思議、水の中って気持ちいいんだね……初めて知った」
「ふふ、良かった。そのまま寝る時みたいに目を閉じて力抜ける?」
「やってみる」
目を閉じると日の温かさは感じるけど、眩しさは無くなって、水の音が周りのみんなの声を少し遠くしてくれて、なんとなく隔離されたような、カーテン1枚隔てたような感覚になる。
力を抜く、力を抜く……深呼吸して、眠る時のようにリラックスして……少し遠くで葵ちゃんが「そうそう、その調子」って聞こえてどうなってるのか分からないけど、これで良いのかなってゆったりしていた。
突如、刺すような視線を感じて一気に身体が覚醒した。
「葵ちゃん」
「大丈夫、立たせるよ」
何かが、こちらを伺っている。まさかこんな真昼間に、と思いつつラッシュガードの内ポケットに入れてある玉を確認すると、いつも通り5個ある。どこから来るのか身構えていると、奥のレーンで泳いでいた男子生徒が水に引き込まれた。
周りの生徒たちが救出している中、私と葵ちゃんは本命が他にないか警戒していると別の男子生徒が静かに水の中に引きずり込まれていたのを見て、確認していた黒い玉を5個とも水の中で解放した。
「追撃黒爪、起動」
5個の玉は黒い槍となって、男子生徒の足に絡みついている海藻や巨大な水草のような何かに向かって飛んでいき、根元の部分に全弾命中した。緩んだ拘束の隙を見て葵ちゃんが生徒を保護したのを確認しながら次のトリガーを発動、黒い槍から無数の針が飛び出て楔のように妖魔を切り裂き、動くたびに傷付ける。
【イイイイイイイイイイ】と悲鳴を上げて逃げていく妖魔にトドメを刺そうと追おうとすると、葵ちゃんに止められて渋々引き下がった。
「ユウちゃん、本命は清水くんだったよ」
「さっきの妖魔に捕まっていた子? でも、清水くんってここが地元だよね?」
「そうだね、まあとりあえず上がろう。ってゆーか!泳げないのにアイツ追おうとするとかチャレンジャー過ぎるから!」
「いや、ほら、いざとなればクロがいるし……」
「ユウちゃん、猫が間に合わなかったらどーすんの?あたし、基本戦闘員じゃないよ?」
「あう」
「夜、先輩と交えて相談しよう。たまたまあたしらが居たからいいけど、もしかしたらアイツは無作為かもしれない」
「そうだね。葵ちゃん、ありがとぅ」
「っあは、どういたしまして。ユウちゃんの水泳練習はまた別でやろうね~」
「うん、水に浮くの、思った以上に気持ち良かった」
奥のレーンで溺れかけた男子生徒も無事救護されて、そのまま水泳授業は無くなった。一旦被害者は出なかったけれど、プールの妖魔は真昼間から襲撃して来ることが分かったので、恐らく全てを防ぐのは難しいかもしれないと覚悟した。
清水くんともう1人の宮本くんには、目印を付けて、2人に何かあった場合は助けられるようにした。できるなら、犠牲者は出したくない。保健室はあの惨劇のあった場所ではなく、別の仮設保健室が用意されている。
妖魔があの場所に縛られているのなら、保健室の利用は安全になったはずだけど、【保健室】がキーになっているのなら新たな保健室も危ないので長時間は居たくない場所だ。正直言うと七不思議のルールどこ行ったんだってツッコミたいけど。
最初の襲撃は防げたので、次に向けての対策と準備は放課後すぐに新校舎の未使用の準備室で行うことになった。厳槌先輩が本部と協力して結界も張ったセーフルームを学校内に作ってくれた。
先輩曰くこの学校の校舎には新旧共に不自然に使用していない部屋、教室が多いらしくその内の1つを拝借した、と言うことだ。また、この中ならクロが居ても存在を隠せるので自由に来ていいと言われたのでありがたかった。
「お邪魔しまーす。遅れてごめんなさい~! でもでも、2人のダミーはバッチリだから褒めてくれていいよー!」
「流石葵ちゃん、しごできー!」
「でしょでしょーー♡」
「よし、じゃあ報告を頼む」
プールで確認した海藻のような妖魔だが、その後に回収した黒い玉にも、やはり海藻のような粘ついたものが纏わりついていて海の匂いがしたことを報告した。
葵ちゃんは襲われた2人の状態について襲撃直後と彼等が帰宅前に確認した所、手の跡や痣などは確認できなかったことを報告した。ついでに、ダミー作成用に少々頭髪も拝借したと。
返せないだろ、というツッコミはしちゃいけません!
後は2人の様子を本部に監視してもらいつつ、解散とした。あまり長く私が学校に居るのも不自然なので、そのまま葵ちゃんと帰宅することにした。厳槌先輩は図書委員としての委員活動があるらしい。
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