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家族と共に殺されかけた少女、妖魔と契約して祓い師として立つ  作者: あるる


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第14話

 伊津那いづな市の夏も、暑い。クーラーの効いた自宅に引きこもりたいくらいには。正直素っ裸になっても暑いものは暑いから、暑さは苦手。なんで通学なんてあるんだろうと理不尽に思ってしまうけど、学生なんだから仕方ない。

 まあ、社会人になっても通勤あるしね。いや、今増えてきている在宅ワークできる仕事を選ぶべきかもしれないけれど、私は祓い師なのできっと常にどこか行かされるんだろうな~……なんて、思考が現実逃避していた。


 何故かと言うと、暑いのの次に嫌いな体育でプール授業が行われるらしい。明日から。

 軟弱な私が泳げる訳などあるはずもなく。それになによりも七不思議の1つ【プールの底に引きずり込む手】の舞台であるプールで泳ぎたいなんて思うはずもない。先任の九州分校から来ていた3年の男性生徒が遺体で見つかった場所でもある。


「はぁ……」

「神崎さん? どうしたの?」

「あ、清水くん、ごめんね。ちょっとプール憂鬱で」

「あ、もしかして泳げない?」

「うん……お恥ずかしながら、病気のせいもあってほとんどやった事もないから」

「それは憂鬱だね」

「なになにユウちゃん、そこはあたしに相談するとこでしょー?」

「葵ちゃん!」

「そそ、この葵ちゃん、泳ぎは得意だよ! 幸いプールは2クラス合同で一緒だし、葵ちゃんにお任せあれ!」

「葵ちゃん、素敵ー!!」

「はは、良かったね神崎さん」

「うんー! 持つべきものは友だね! 清水くんも気にかけてくれてありがとうね~」


 晶くんは、まんま葵ちゃんとして普通に馴染んでいて凄い。クロいわく、あそこまでなり切れるのはプロだな、と褒めていたから努力のたまものなんだろう。ううん、葵ちゃんを失った空虚を埋めるためなのかもしれない。


 プールの調査をしなければと思っていた時に、プール清掃があって助かった。あまりに都合がいいので、本部の手回しかもしれないが、水のない状況で1回調査できるのは助かる。

 学生にとってはプール清掃もイベントの1つなので、騒がしい中だとこちらも色々誤魔化しやすい。プールの中にも目印アンカーを置いてマーキングとマッピングしていく。それからロッカールームも。


 デッキブラシで掃除をしていると、ふと他と違う匂いを感じたような気がしてそっと見渡すが、見失ってしまった。何かが悪くなったような、鼻の奥がざらつくような匂いを掃除しながら探していると、葵ちゃん(あきらくん)がこっちに来た。


「ユウちゃん、丁寧に掃除してる!えら~い!」

「葵ちゃん、そりゃ一応ね? 汚れているプールとか嫌じゃん」

「(ユウちゃん、そっち潮の匂いするからあまり寄らないで)」

「っ! そっか、潮か!」


 ――内陸の街なのに、潮の匂いがする。

 流石に海の水を引いてきている可能性はないだろうから、妖魔絡みは確定だろう。

 

「ユウちゃん、そろそろ1回水で流すから向こういくよー!」

「あっ、待って葵ちゃん」

「はやくはやくーー」


 葵ちゃんにつられて他のクラスメイトたちも楽しそうに掃除を続けていた。体育1限分まるまる使ってやっとプール清掃が終わり、綺麗な水が張られると歓声も上がった。うん、やりきった感あるよね。


 塩素タブレットも入れて、明日からの水泳の授業の準備は万全になった。

 ぷくぷくと水泡を出す塩素タブレットとは別に、水底からもぷくぷくと泡が出ていた事に私は全く気付かなかった。プール嫌さから、水面への注意を怠った事を後日後悔する事になった。



 問題もなく一日の授業を終えて、夜自宅のリビングには厳槌先輩と晶くんが来て報告会を兼ねて一緒に食事をしていた。


「うっまぁ~~! えっ、ユウちゃんお料理上手~~」

「そう? お口にあったなら良かった~。厳槌先輩も大丈夫ですか?」

「旨いぞ」

「からあげも、マリネも、野菜炒めも、きんぴらもあってお味噌汁も具沢山!! ネコ、お前こんないい食生活してるとかずるくない?」

『うっせ、黙って食わねえとてめえの分食うぞ!』

「やらんわ!」


 こんな賑やかな食事は久々で、みんなが楽しく食べてくれる光景は作りて冥利に尽きる。あっという間に無くなって行くおかずを見ながら私も一緒に楽しく話しながら食事できた。

 片付けも先輩と晶くんが手伝ってくれてさっさと終わり、ここからが本番だ。


「まずは俺から。改めて学校創立まで遡ったが、【田辺誠一】なる人物は学生、教師どちらにも登録されていた記録はなかった」

「やっぱり……現行生徒にはいないと確認は取ってたんだけど、一度もなかったのね」

「ああ、もっと古い存在だろう」

『その割に、脆かったのが気になるな』

「仮説として、奴は贄を選定して送り込む役回りだった可能性がある」

『そうか、あいつ自身元は人間だったようだしな。主に食わせるため、仲間を増やすのが仕事か……筋は通る』

「なら、佐々木美優はその目に適った仲間候補だった、という事ね」

『随分と傾倒していたし、道理だ』

「じゃあ、田辺がいなくなった図書室は当面は無害だってのは間違いなさそうだね♪ 次はプールだよ!

 ユウちゃんには話したけど、僅かだけど潮の匂いがした。この山間やまあいにも関わらず。ね。しかも、腐りかけている潮の匂い」


 馴染みのない匂いだったけど、アレがそうなのかな?と考えていると厳槌先輩から海に関する者は八重子夫人にお借りした資料にも一切なかったようなので、古くからこの地に関係するものではないだろうと推測される。


「俺はこの隙に旧校舎の図書室に最近追加された本を確認しよう。幸い図書委員は混乱しているから入り込みやすい」

「そう言えば、先輩いつの間に転校してきたんですか?」

「佐々木美優の行方不明事件は隠していないから、そこに合わせて本部の催眠も活用して入った。この大柄な図書委員というのは意外と受けがいいから馴染みやすい」

「なるほど、先輩知識人ですもんね」

「デカくて、筋肉モリモリなのに脳筋じゃないレアケース!」

「晶くん、意外と漫画やアニメにはいるのよ? ギャップ萌え要員」

「ほほう! それはあたしの知識不足だったかも! ユウちゃん、助かるー」

「全くお前たちは……とりあえず、プールは監視しつつ妖魔の気配感じたら確保でいいな」」

「「はーい!」」

「では今日は解散だ」


 2人が帰って行くと、クロがやれやれと出てきてソファに寝そべる。どうにも晶くんとは相性が良くないようで残念だけど、2人になると毛繕いさせてくれるのでちょっと嬉しい。


『ユウ』

「うん?」

『あまり、他人に気を許すな』

「うん……そうだね」

『人はいつか死ぬ。その時、お前が傷付く』

「うん、分かってるよ。居心地が良くて、ついつい、ね」

『あいつらはいい奴等だから、尚更だ』

「うん、そうだね……そう、だね」

『ユウ、一人にはさせないから』

「うん」


 クロも苦しそうな顔をしている。私は猫の姿のクロをそのまま抱きしめて夜の暗さ、寂しさを2人で耐えて眠った。暗闇は私たちが2人ぼっちなのだと、何度も何度も身に沁みるまでくどく伝えてくるから嫌い。

 普段抑え込んでいる、悲しさ、寂しさを自覚させようとしてくるから、暗闇は本当に嫌い。


 胸元に抱えているクロが温かいから、私は今日も眠れている。クロに負担をかけているとは思うけど、クロなしに私は存在できないから、やっぱり私はズルいんだろうな。

 ……そう思いながら、沈黙の中で意識を手放した。

読んでいただきありがとうございます!

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