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家族と共に殺されかけた少女、妖魔と契約して祓い師として立つ  作者: あるる


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第12話

後半、グロ注意になります。

直接的な表現はあまりありませんが、苦手な方はご注意ください。

 佐々木さんに拘束された私は正直焦ってはいなかった。クロは呼ばなくても、いる。

 ただ私の出方と、チャンスを見計らっているだけなのを知っているので、私は私を囮にする。むしろ、さあ食いついて来い!くらいに思っていることをクロと清浄高等学園の校長以外は知らない。


 だから、ニヤニヤとしながら近寄って来ている田辺先輩に警戒されないように、焦っているフリをする方が大変、なーんて知られないようにしないとね。

 田辺先輩はきっと妖魔の眷属、下級の妖魔となって長いのだろう、私との距離を徐々に詰めつつも警戒は忘れていない。私は何とか抵抗しようとする振りをしながら、実際に振りほどけたならそれはそれで良い。


「残念、時間切れだ祓い師。お前も先任たちの後を追うといい」


 佐々木さんを後ろから抱きしめつつ、私の首に手を伸ばした田辺先輩は、完全に油断していた。そして、佐々木さんから生えた(・・・)黒い無数の槍が剣山のように田辺先輩の全身を刺し貫く!


「がっ!! な、美優……き、貴様、美優になにを!?」

『ケッ、残念なのはてめぇの方だよ!! 女は安全な場所で保護してるが、てめぇはここで滅っしてやる』

「おのれぇ……」

「あらあら先輩、ヒトの形が保てなくなっていますよ? 冷静にならないと、美優ちゃんに怖がられちゃいますよ~?」

「貴様ごとき、薄汚い祓い師にこの俺が!!」


 田辺先輩の割と整っていた姿は黒爪で散々に貫かれたせいで、壊れかかった粘土の人形のように崩れかけていて、気持ち悪い。これが人間だなんて、本当に生命を冒涜している。崩れかけのゾンビよりも中途半端に生身感があってグロテスクだが目をそらす訳にもいかない。


「そのキッモい姿で良く言うよね~。クロやるよ」


 クロが半人型はんじんけいを取ると、爪や体術を使って田辺先輩を牽制してくれているので私は足元がアメーバかスライムのように寄ってきている元人型を地面から黒爪で縫い留め……


「範囲黒炎、起動」


 燃やす。熱さを感じない炎に炙られ【キィイヤァアアアアアアアア】という声にならない悲鳴を上げる。アメーバが身をよじるように逃げようとするが一度着いた黒い炎は奴等を完全に滅するまで消えない。


「チッ、足止めにもならないとは!」

「ひっどーい、冷たいのね?」

「所詮なりそこないは、なりそこないだ。俺のような山人ではない、仮初の姿を与えられた者たちだ」

「それでも、元・人間であんたが引き込んだんでしょ?」

「フン、神の期待に応えられない雑魚だ」


 妖魔に仲間意識なんてないのは分かっていたけれども、あんまりにも自分勝手な言い草に苛立つのが抑えられない。同時にクロと近接戦闘しながら私と無駄話をする余裕がある田辺先輩は油断できない。


「ハハッ! あいつらに同情しているのか? あいつらはあいつらで、強欲で、ズルく、弱きをくじき強きになびくものたちだぞ?」

「そう」


 2人の戦闘に割って入れるほど私は身体能力がない代わりに、私はクロの強化ができる。どこでブーストするか見極めないと、と真剣に様子を見ていた。




 一方その頃、瀬名は保健室にいた。眠っている佐々木美優の護衛兼見張りで隣に座っていると、佐々木が身じろぎしだした。


「みゆちゃん? 目が覚めた?」

「……わ、たしは?」


 薄っすらと目を開いた佐々木は状況が分からないようで、不安そうに見渡していた。

 

「お昼に何かが割れたの覚えている? あの後、教室に戻っている途中で倒れたんだよ」

「倒れ……結子ちゃんは?」

「図書委員の人にみゆちゃんが委員活動参加できないって伝えに行ってるよ」

「そっかぁ」


 その時、佐々木美優の心に、魂に、大切なものが失われようとする痛みが襲い掛かった。我が身を裂かれるほどの慟哭が、魂の半分とも言える大切なものが、今失われようとしている。


「……あ、あああああああ!!」

「えっ? ど、どうしたの?」


 唐突に胸を押さえて苦しみだした美優に瀬名は素で驚いていた。

 同い年の女の子が「があああっ」と獣のように叫びながら悶え、そのままよろよろとベッドから出て廊下に向かおうとしているのを見て、慌てて美優を止めようと肩に手をかけるが、手を振り払われてしまう。


「みゆちゃんっ! だ、だめだよ、安静にしなきゃ!」

「行かせて、先輩が! ……誠一さんが!!」

「今動くのは危ないから、お願い、戻って!」

「……せん、ぱい」


 美優は田辺の名前を呼びながら、瀬名を振り切って、旧校舎へと走り出した。瀬名とて戦闘メインの祓い師ではないとは言え、一般人に後れを取ることはないのだが、唐突に背後に生まれた妖魔の気配のせいで美優を追うことはできなかった。

 明らかに自分よりも強い、圧倒的な気配に、瀬名はふう、と大きく息を吐き出し自分にできることを確認する。


「……まっずいなぁ、ユウちゃんごめん。お互い生き延びようねぇ」


 悲痛な覚悟を決めると共に瀬名は背後を振り返った――。




 美優は焦っていた。田辺が危険な状態であるのは何となくだけど、分かり、このまま放っておいたら田辺を失うのは確定の未来だった。必死に自分の足を動かしながら田辺の姿を探した。

 新校舎から旧校舎へ入った瞬間、壊れたような恐ろしい響きのチャイムさえも気にならないくらい、息も絶え絶えになりながら図書室を目指して走る。その途中、夕日で赤く染まる校舎の所々にヒトのパーツのようなものが散乱する、あまりにグロテスクな光景に息を飲んで思わず立ち止まってしまう。


「……な、に…これ。ひっ、人の手……!!」


 認識できると共に思わず触れてしまった、手は白くぶよぶよして、ただひたすらに気持ち悪い。思わず上がって来る嘔吐感を必死に我慢しつつ、悲鳴をかみ殺し、涙で滲む視界に映ったのは――黒い獣が恐ろしく長い爪で田辺を貫き、宙に持ち上げていた。


 あまりにも非常識すぎる状況に美優の頭は理解することを拒んだ。時が止まったように、目の前の光景が信じられず呆然としていたが、……田辺は苦悶しながら血を吐き出しているのを見て、時が動き出した。


「い、いや……いやぁああああああああ!!!!」


 唐突に響いた悲鳴に驚きクロは田辺を床に捨てると私を抱えて飛びのいていた。いつの間にか美優がここまで来ていることに驚くと共に瀬名がいないことを確認する。クロと共に瀬名になにかがあったことは確信しつつも、今は行けない。


「美優ちゃん……」

「先輩! 先輩!!……せ、せいいちさん」

「っ!!」


 ごぽ、と言う音と共に田辺が血を吐き出し、美優に手を伸ばす。


「美優……会いた、かった。お、俺は……し、なない。まっ……」

「待って! 待って!! 行っちゃだめ、死んじゃダメ~……!!」


 お願い、死なないでと泣き続ける美優の目の前で、田辺の姿は徐々に崩れていき、アメーバのようになり、最後は黒い粒子となって空気に溶けるように消えて行った。


「いやぁあああああ、なんで? なんでなの?! なっ……んで、先輩がっ」


 痛々しい程の美優の慟哭に心は痛むけど、彼を滅したことに後悔はない。例え美優に恨まれたとしても、私は田辺誠一を必ず滅した。人を止め。人に仇なす妖魔となったのだから、躊躇はない。

 

「田辺先輩は人間じゃなく、図書委員の人たちを殺していたから」

「嘘よ! 先輩は私に優しかったもの!!」

「美優ちゃん……言いづらいけど、あなたも、もう人じゃなくなりつつあるの。あの人のせいで」

「そんなの知らないわ! 先輩は私の理想で目標だったの!! ……返して、お願い、返してよぉ~」


 そう言って泣き崩れる美優に私はなんと声をかければ良いか分からなかった。いつの間にか校舎は通常通りに戻り、田辺先輩の遺体も血も、田辺先輩が「なりそこない」といった存在も全て消えていた。


「美優ちゃん、葵ちゃんは?」

「……保健室。葵ちゃんも神崎さんの仲間なの?」

「ううん、ただ美優ちゃんを見守ってくれるようにお願いしただけだよ」

「ふぅん、じゃあ、私の敵は神崎さんとそこの黒猫、従兄弟さんだけなんだね」

「……」

「許さない。絶対、許さないから」


 血の涙を流しながら美優は顔を上げ、私とクロを睨みつけるとそのままどこかへと走って行ってしまった。彼女の行く先が気にはなるけれど今は先に瀬名の方が心配だった。

 クロに運んでもらいながら、保健室へと急いだが……案の定遅かった。



 保健室は血の海で、小柄な瀬名の体内の血を全てぶちまけたような状態の中、ベッドを囲むカーテンのレールに瀬名本人の髪で首が吊られていた。ただ、瀬名の顔が眠るように穏やかだったことだけが、唯一の救いだった。



 戦闘の疲労と、瀬名の無残な姿に私の心身はもう限界だった――。

読んでいただきありがとうございます!


本日はお昼にもう1話更新あります。

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