第1話
カクヨムで連載していたものの改稿版です
私、神崎結子の記憶は、強烈なまでの『生きたい』と言う生への渇望から始まっている。
胸が割かれるような――凍り付くような、冷たい空気が肺から無理やり押し出すと、僅かながらの温かさを指先に感じ、生きている実感ができる。
三年前、双子の姉・唯子と共に死にかけた。否、ほぼ死んでいた私は、相棒とも半身とも言える黒猫の妖魔、クロのお陰で九死に一生を得たが、その代償にクロはその一生を私と共に過ごす事になった。
それでも、私は今生きている。今、ここに居る。
「クロ、転校先の学校ってこっちだよね?」
『ああん? 何言ってんだ、駅の真逆だろーが』
「はぁ? ……なんで?」
『あんだよ』
「なんで気付いてて教えてくれないの!?」
『聞かれてねーし』
「くぅううううう!!! クロ、大っ嫌い!!!」
お腹抱えて大笑いしながらもふよふよとついてくる、クロ。怪異、妖怪、幽霊、悪魔。なんでもいいけど、そーゆー感じの存在。安直だと散々に文句言われたけど、黒猫だからそのまま「クロ」で通して契約してやった。けど、誰より、何よりもクロを信じている。私を死の淵からすくい上げてくれた時の温かさを忘れることは、ない。文字通りの半身。
私が死ぬとクロも死ぬし、クロが死んでも私も死ぬ。クロが生存するためには、私が「十分に生きた」と満足して寿命を迎えないといけない、という酷い制限がかかっている。
そんなこんなで一緒に生きるしかない、一蓮托生な存在のクロなんだけど……見ての通り性格が悪い。かなり悪い。ちなみに口はもっと悪い!! 口喧嘩が日常茶飯事なのは仕方ない事だと思う!
同時に戦闘時においては、この上なく頼もしい相棒だ。
『ユウ、敵だ』
「えええ、このか弱い神崎結子さんが一生懸命走っていると言うのに!」
僅かに獣臭い匂いが後方から近付いているのを感じる。「ふぅ」小さく息を吐き、本能的な恐怖と緊張を追い出す。思考は既に戦闘モードへ切り替わり、俯瞰して自分を見ているように意識が広がり、冷静になる。
『接敵、3秒前。3、2、1』
「起動」
私の発動宣言とほぼ同時に背後の地面から無数の漆黒の槍が生える。一瞬、世界の時間がゆっくりになったかのように感じる――砂粒が空中で踊り、空気を切り裂く音が耳に届く。地面が震え、鋼の冷たさと重さが足元から伝わる。
【キシャアアアアアアアア!!】と声にならない声が響き、振り返ると3体の妖魔が串刺しになっている。まだ油断しない。2体は即死で黒いモヤに変わりつつある。妖魔なので血の匂いなどがないから、罪悪感もなくて助かる。やはり獣型の妖魔だった。
「ふうん? イタチっぽいなぁ~……お、ぎり息があるじゃん!
ねえ、お前。なんで私を襲ってきたのかな? 無差別じゃないっぽかったのよね~」
『フフフ、我らは使いっ走りだ。覚悟しておけ、クソ祓い師……』
そう言うと他の2体と一緒に黒いモヤとなって消えて行った。クロは微塵も興味無さそうにゆらゆらと宙に浮いている。
「いつもの奴っぽいけど、これから行く学校が関係しているかもね」
『なんかあったのか?』
「うん、これ」
そう言って妖魔が消えた場所に残っていたものをクロに見せる。「並高」とあるそれはこれから向かう「並河高等学校」の校章だった。クロの目がつまらなそうに細められるが、私はちょっと楽しくなってきた。
「よし! 遅刻は確定したからタクシー乗ろう!」
『お前、金あるのか?』
「センセーからタク券もらってある!」
『…………』
「ほら、私って病弱じゃん? だからね~」
『さっさと、早くタクシー乗れ』
私の身体が弱いのは本当。死にかけて、かつ魂と身体が一致していない事のもうひとつの代償。例え一卵性の双子だったとしても、唯子と私は別人だから何かと不整合が起きやすい。クロはそんな私の補助、調整機能も兼ねている。
同時に私とクロは、さっきの妖魔が言った通り祓い師でもある。
この世界は常に妖魔に狙われている。この世界に生きるものの生命エネルギーは彼らにとってエサであり必要なものらしいけど、そんなの知ったこっちゃないじゃん? なので、私たちも抗っているものの、妖魔に対抗できるのは妖魔だけ。そして妖魔の相棒と共に魔を祓うのが【祓い師】だ。
我が母校「清浄高等学園」はそんな祓い師を教育するための機関であり、そのカリキュラムの一環として妖魔の起こした事件の対応を行うこともある。
今回私がクロと共に「並河高等学校」に向かっているのも任務であり、カリキュラムの1つだ。おそらくもう1人くらい来るか、もう入っていると思われる。残念ながらそう言った調査の過程も評価されるので、あまり情報をもらえない時は慎重にならざるを得ない。
タクシーに乗りつつ、街を見渡す限りはチラホラと無害な妖魔は視えるものの、特に大きなトラブルが起きているようには見えない。私は肉体派ではないけど、調査や戦略的に殲滅していく方が向いていると言われているのを考えると、今回の標的は複数かつ潜伏が得意なのかもしれない。
戦闘は怖い、けど終わった後は生きていると実感できる、その瞬間だけは好きかもしれない。戦闘狂では決してないし、本来ならあまりしたくはない。
「はあ……面倒だなぁ」
『いつもの事だろう?』
「私は学校着いたら昼寝するから、クロ調査をお願いね?」
『断る。お前太るぞ? 少しは動けよ、怠け者』
「やーだー……疲れちゃうもん」
『もん、じゃねえ。お前の任務だろ』
「正論キター。まあ、やるけどさ、気が乗らないわぁ」
そんなくだらない会話をしつつ、着いた学校は真っ青な青空を背景に無駄に爽やかで健全そうで、クラスメイト達に囲まれる未来が想像できて益々私は萎えた。
「どうか、みんな転校生に興味がありませんように……」
『無駄な祈りだな』
「クロ!!」
『あ?』
「気は心って言うでしょ!!」
もちろん、私の願いは空しく叶わない事までがお約束通りだった。夜、クロをめちゃくちゃにもふってやった。
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